58 雷と言霊と私
またもや、調子に乗ってやってしまった。目の前には、アリオスが、「全部話しやがれ」とでもいうように、胸の前で両腕を組み、右手の人差し指がとんとんと上下に動いている。ギロリと私を見据える眼差しが、雷を堕とす前兆のように思えて仕方がない。
「どうぞぉ あったかい紅茶を淹れてきたよぉ リズには、ミルクとシロップも入っているよぉ」
ジュジュが、私たちの目の前に、コトン、コトンと紅茶の入ったコップを置いていく。リズがマフィンの入った袋を開けようとしているのを見て、リズの隣りに座り、マフィンの袋を代わりに開けてあげる。ジュジュは、やっぱり優しいお兄ちゃんだ。
「それで、あの騒ぎは何なんだ?」
「お姉ちゃん スゴいんだよ 魔法使いなんだよ」
「ほう?」
「ジュジュも見た?お花が、木が、ばあって踊り出したの」
「うんうん すごかったねえ 僕もみたよぉ」
私が話す間もなく、興奮したリズが、齧ったマフィンを持ったまま、両手を振りながら、木々が踊る様を説明する。ポロポロとマフィンの屑が飛び散るため、ジュジュが甲斐甲斐しく指先で拾ってあげている。
「嬢ちゃん 木が踊り出したわけを俺にもわかるように説明してくれるかな?」
アリオスは、ニッコリと微笑んでみせるが、とっても涼しいお声が、笑顔と噛み合っていない。マザーについては、右手で口元を隠しているけど、肩が微妙に小刻みに震えていますよね。それって、笑いを噛み殺しているからですよね。私は見逃していませんよ。やっぱりお叱り案件だったんだね。喜び興奮するリズとは対照的に、がっくりと肩を落とす私。
「あのですね、リズちゃんは、魔力暴走を起こしてまして……」
「知ってる」
「小さな身体のリズちゃんには、有り余る魔力がありまして……」
「それもわかってる」
きょとんとした表情で、マフィンを頬張るリズちゃん。ほっぺが子りすみたいで可愛らしい。アリオスも、私なんか睨みつけないで、リズちゃんを見てくれれば、眉間によったお皺が伸びてくれるんじゃないかな?
「ちょっとでも魔力過多を軽減できればなあっと ドレインという魔術でリズちゃんから魔力を吸収しまして……」
「お姉ちゃんが、魔法をどかーんって花が咲いたの いっぱい咲いたの」
「えへへ」
ゆらりとアリオスが、立ち上がり私の頬を思いっきり抓り始める。
「リズちゃんに弁護されてんじゃねえ 何がえへへだ えへへじゃあねえだろう」
「痛い 痛いですって 師匠 ほっぺもげる 千切れる」
「アリオスおじちゃん お姉ちゃんいじめちゃだめー」
ヒクリとアリオスが固まった。だけど指の力は緩まない。
「おじ……リズちゃん アリオスお兄ちゃんは、いじめてないんだよ」
おじちゃんは、アリオスに大ダメージを齎したもよう。だけど、リズちゃん、お姉ちゃんも絶賛ダメージ増加中です。
「アリオスなに言ってんだい 親子でもおかしくないくらい年齢が離れてんだ おじちゃんでいいじゃないか それよりアルの頬を離してやんな」
「マザーも酷え」
フンと鼻を鳴らして、ようやく頬を離してくれた。いまだジンジンと響く頬を両手で摩りながら助け船を出してくれたマザーに感謝だ。
「リズちゃんは、自分自身で手に負えない魔力が怖かったんだよ 師匠も見たでしょ マザーの頬とか切れたの」
「アレくらいの傷 痛くもかゆくもないんだけどねえ」
「そうだな ポーションかけときゃ、直ぐ治るしな」
そこだよ、そこ。リズは、冒険者でもなんでもない。自分の力で、大好きなマザーや他の子たちを傷つけるのが怖くて仕方なかったんだよ。
「僕も、マザーは気にしないよぉって 言ったんだけどぉ リズは、怖かったんだってぇ」
気にする必要なかっただろうとジュジュは、リズの頭を優しく撫でる。やっぱり、優しいお兄ちゃんをやってるジュジュにリズがぎゅうっと抱きついた。
「リズに魔術は、怖いだけじゃないんだよって知って欲しくて、窓の外に見えた木の枝に、成長促進の魔術のグロウをかけちゃった」
「それだけで、木は踊らねえ」
手厳しい。どうしてもアリオスは、真相が知りたいらしい。おじちゃん攻撃で、少しお説教モードが逸れているけど、私への追求は止まらない。
「アタシね、お花がいっぱい咲いたから、お歌を歌ったんだよ そしたら、お花も一緒に踊りだしたの お姉ちゃん魔法使いなんだよ」
「えへへ」
リズの説明した通りだけど、木々が踊りだしたのは、私の魔術じゃない。黙って話を聞いていたマザーが、顎を撫でながら私に言った。
「リズが、歌ったから木々が踊ったって言うのかい?」
「えっと、アタシが歌ったら、踊ってくれたよ?」
「なるほど 言霊だね?」
マザーの言葉に私は頷いた。
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