56 魔力と嵐と小さな私
施設のロビーでは、エプロンを着けたジュジュの周りを子どもたちが取り囲んで、座って仲良くお土産のお菓子を食べていた。ジュジュは、口の周りをクリームだらけにした子どもの口を拭ってあげたり、ぼろぼろと子どもたちが溢したお菓子を拾ったりと甲斐甲斐しく世話をしている。部屋から出てきた私たちに気がついたジュジュが、立ち上がってゆっくりとそばに近づき声をかけてきた。
「マザー、リズのところにいくんでしょお? だったら、これぇ リズのぶんだよお」
「ああ、リズにも渡しておくよ」
マザーがお菓子を受け取ると、にっぱりと笑顔になるジュジュ。手渡されたのは、食べやすそうなマフィンケーキだ。
「頼んだよぉ アリオスさん、お姉さん、リズのことよろしくお願いしますぅ」
「任せろ」
ジュジュは、私たちに向かってペコリと頭を下げる。アリオスが、勝手に返事をしてしまう。任されるのは、私なんじゃないの? アリオスの言葉にほっとしたのか、ジュジュの表情が緩んで嬉しそうに笑った。本当にみんなのお兄ちゃんなのだと思った。
ロビーの脇にある階段を登り、私たちは二階の廊下の突き当たりにある一番奥の部屋の前に立つ。
「この部屋に、会って欲しいリズという5歳の女の子がいるんだよ」
マザーは、声を顰めて部屋にいる少女のことを教えてくれた。そして、優しくノックして、扉をゆっくりと開いていく。部屋の中は、昼間だというのにカーテンも閉め切っているため薄暗い。奥にベッドがあり、ベッドサイドのテーブルには水差しとコップが置いてある。ベッドの上にはシーツに包まった何かがいる。あのシーツの塊が、リズなのだろうか?
「だ、だれ?」
「私だよ」
シーツの塊から弱々しい女の子の声がする。マザーも彼女を刺激したくないのか、優しく柔らかい声で彼女に声をかけた。シーツの塊がもぞもぞと動き、リズが顔を出す。私とアリオスの姿を見て、顔をこわばらせていく。
「い、いや こわい こ、来ないで」
リズの見開いた瞳にみるみると涙が浮かび、小刻みに身体が震え出した。
パリン、ガタン、ゴトン
サイドテーブルに置いてあるコップが割れた。続いて、水差しが倒れ、床に転がっていく。
「リズ 大丈夫 アリオスとアリオスの弟子じゃよ 誰もリズを責めたりせんから」
マザーが、駆け寄りシーツごとリズを抱きしめる。誰も触っていないのに、コップが割れた。風も吹いてないのに、水差しが倒れ、床に転がった。
「アレが、俺たちが嬢ちゃんに頼みたかった理由だ」
リズを抱きしめたマザーが、彼女を落ち着かせようと「大丈夫だよ」と何度も耳元で声をかける。震えが止まらない彼女の周りで、風が蠢き始める。マザーの耳や頬に小さな裂傷が現れ始めた。頬を伝う血を見たリズが、小さく息を呑む。
「マザー 離して 傷がいっぱいできちゃう 早くアタシを離してよぉ」
マザーに抱きしめられたリズが、小さな身体を捩りマザーから離れようともがき始めた。だけど、マザーは抱きしめた腕を緩めなかった。
「魔力暴走……」
私にも覚えがある。本来、魔力は身体の成長に合わせトゥ徐々に増えていくものだ。そして身体に馴染むのが成長期を迎える14、5歳だと言われている。そこから、魔力操作を覚えていくわけだけど、突発的にに幼少期に身体に見合わない量の魔力が発言する事がある。それが、魔力暴走と言われる現象だ。身体の中に収まらなくなった魔力は、周りの物を破壊し、時には人をも傷つける。そして、私の場合、手に負えなくなった大人が下した決断が、【白銀の翼】のゴーツクンに売り飛ばす事だった。
「マザーも俺も剣士だ ただ暴走したあの子を受け止めてやるしかできねえ」
幼い少女の姿が、自分の幼少期と重なる。私と違うのは、抱きしめてくれる誰かがいたか、いなかったかだ。日に日に身体が熱くなり、溢れていく魔力。物を破壊し、人を傷つけ、私という存在を否定し、最後には誰も側にはいなくなった。
「リズちゃんには、マザーがいるんだね」
「マザーだけじゃない ジュジュも他の子どもたちもリズを待っている」
ああ、そうだね。ジュジュは、マザーにカップケーキを渡していた。そして、私たちにもリズを頼むとお願いしてきた。ここは、本当に温かい。リズ、早く気づいて、みんなが待っているよ。
室内が、暴風雨の嵐のようにリズの叫び声と共に風が荒れ狂う。嵐の中心にいるのは、リズとマザー。私は、私を拒絶する嵐の中を進んでいった。
「やだ、やだ、こっちに来ないで!」
私は、大きく両手を広げ、シーツに包まったリズと彼女を抱きしめるマザーごと抱きしめた。
「リズ よく一人で頑張ったね もう大丈夫 私が来たから」
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