55 ジュジュとマザーと私
アリオスが持ってきた大量のお菓子が欲しくて待ちきれない子どもたちが、マザーの服をくいくいっと引っ張った。その様子を察したアリオスが、笑いながらお菓子の入った袋をマザーに渡す。
「チビどもに持ってきた」
「いつもすまないね 遠慮なくいただくよ ありがとう」
マザーが、子どもたちの頭を撫で、大きな声を出した。
「ジュジュ ジュジュ ちょっとおいで」
「はーい」
間延びした返事をしながらエプロンを着けた少年が、執務室にやって来た。14、5歳くらいだろうか?少し幼い顔だちだ。
「アリオスからの土産だよ チビどもに分けてやって」
「んあ アリオスさん いつもありがとぉ ご飯前だから少しずつだねぇ」
アリオスから大量のお菓子が詰まった袋を受け取ると、ジュジュは子どもたちの頭を撫でながら声をかけていく。子どもたちがマザーの周りから離れていき、ジュジュとお菓子の袋に誘われるまま、部屋の外へとついていく。三人だけになった部屋は、一気に静かになった。マザーに促され、アリオスと並んでソファーに座る。
「師匠、ここは?」
「なんだい、アリオス 何も言わないで彼女を連れて来たのかい?」
「手伝って欲しいことがあるとは、伝えた」
はあっと大きくため息を吐くマザーは、「どうして男ってのはこうも言葉が足りないのかね」と肩をすくめ呆れ顔で呟く。
「ここに居る子どもたちは、みな孤児なのさ」
「やっぱり なんとなくそんな気がしてた」
「親は、みんな冒険者でね、仕事に行ったっきり帰って来なくてね 身寄りが無くなった子どもたちをギルドが保護して、ここで面倒をみてるのさ」
冒険者は、いつでも死が身近にある。護衛依頼で失敗することも、討伐する魔物に殺されることも、ダンジョンに潜りトラップで死ぬことだってある。ここは、そんな家に帰って来ない冒険者たちの子どもを保護している施設というわけだ。
「私も冒険者だったんだけどね、孫一人残して、息子夫婦が流行り病で亡くなってさ 冒険者も引退しようと思ってたのと、孫を養う必要もあったのと重なって、子ども一人面倒みるならまとめて全員面倒をみてやろうと思って、ここの管理者になったんだよ」
「マザー カッコいい」
「ハハハ そうかい? そう言われると悪い気はしないね」
子どもたち全員の人生に関わろうなんて、カッコいい以外に、言葉が浮かばない。豪胆で、半端ない覚悟を持ったマザーが、とてつもなくカッコよくみえた。
「さっきのジュジュって少年が、マザーの孫さ」
「エプロンの少年?」
「私にゃ、全く似てないけどね 面倒見の良いお兄ちゃんをしてるよ」
ちょっぴり嬉しそうに笑うマザー。だけど、ジュジュは、マザーの背中を見て育ったんだよ。マザーが、子どもたちにしっかり向き合っているから、ジュジュだって、お兄ちゃんとしてマザーを支えようとしているんだよ。きっと、マザーには、そんな言葉を言わなくても、わかっているんだろうけどね。
「それで、私に手伝って欲しいことって何? 子守りなら依頼を受けたことあるけど?」
ここで私が子守りなんて、役に立たないことが分かりきっている。私が受けていたのは、働くお父さんやお母さんに頼まれた子守りの依頼は、子どもたちの遊び相手かつ一緒にお留守番をして欲しいっていう程度の依頼だった。子どもたちが、無茶をしないように一緒に過ごすだけ。そんなおままごとのような子守りしかしてない私には、マザーが求めるような子育てや子守りなんかは、絶対にできない。
「安心しな 子守りを頼もうってことじゃないから」
「俺は、嬢ちゃんだからできるんじゃないかと思ってる」
何、その変なプレッシャー。
「アリオスが、そこまで言うとわねえ」
「嬢ちゃんは、魔力特化の魔道士だ その実力は俺が保証する」
「し、師匠?」
いつもは、魔力を暴走させるなとか、いっぱい怒られてますけど? 暴走娘だとも言われてますけど? とにかく、あれもこれも叱られた思い出しかない。
「私、魔術については、怒られた記憶ばっかりだけど、大丈夫?」
「嬢ちゃんだからこそ大丈夫だ」
「ウォーターボール?」
「俺の前で素っ裸になりやがって……破廉恥極まりない」
アリオスのこめかみに青スジが一つ浮かぶ。
「レイスの浄化?」
「んぐっ! あんな悍ましい記憶……二度と思い出したくなかった」
アリオスのこめかみに二つ目の青スジが増えた。
「て、転移魔法?」
「んがああ!! アル!おまえわざと面白がってやがんな! 思い出すだけでも腹が立ってきた!」
ごめんなさい。怒りを我慢するアリオスが、ちょっぴり面白かったです。頬を強く摘んで引っ張るのやめてください。
「へえ、なるほどね アリオスが強く推すわけだ」
「だろ」
「マザー? 師匠?」
今のやり取りのどこに、私のオススメポイントありましたか?
「アル お前さんに会ってほしい子がいるんだ」
「私にですか?」
「そうさ お前さんになら、何か解るんじゃないかね」
マザーは、「私について来な」とソファーから立ち上がった。私にあって欲しい子というからには、ここに住んでいる孤児の誰かだろう。アリオスと一緒にマザーの後ろをついて歩いた。
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