53 デートと逢引とお見合いと
ごろごろごろ。毛むくじゃらと私は、アーくんが日ごろ手入れをしている庭の芝生の上で、並んでごろごろと転がっている。
『わふっ』
「毛むくじゃら、もう一回」
ごろごろごろ。毛むくじゃらをぎゅっと抱きしめて、芝生の上をごろごろっと一緒に転がる。あの日から、いまいち調子の出ない私は、家に引き篭もっている。そんな私をアリオスもバートも叱責も無けりゃ、激励の言葉も無い。
「ガルにしょうもない遊びを教えんな」
「うえ? しょうもないことないもん」
アーくんに背負われて帰ってきた日、ボロボロの私を見て、一瞬目を見開いたがアリオスは、何も聞かなかった。ボロボロになってだったのは服だけだったし、外傷はポーションで回復していた。
「あー、風呂入って早く寝ろ」
まるで泥だらけで遊んできた子供に言うセリフじゃんか。それ以上のことは何も言わないし、聞かれもしない。ぐるぐる、ぐるぐる、答えが出ないまま頭の中で、自問自答を繰り返している。
「嬢ちゃん 暇だろ? ちょいと手伝ってくれや」
「……暇じゃない」
「ああん? 暇だよなあ」
「……はい」
暇じゃないもん。頭の中は、忙しいもん。そんな思いがアリオスに通じるわけなく、鋭い眼光で、ひと睨みされたら、わたしには「はい」と言う答えしか残されていなかった。
「おや、アルちゃん 久しぶりだね 今日は、お師匠さんとお出かけかい?」
「…久しぶり…です」
「元気ないね お師匠さんに叱られたのかい?」
「……そんなとこです」
「おい!」
マローの街を歩けば、街の住人たちに声をかけられる。久しぶりだと言われるほど、私は引き篭もっていたらしい。それでも、私のことを忘れないでいてくれる。ずっと、ずっと引き篭もっていれば、せっかくできた繋がりも無くなっていたのかもしれない。無理矢理でも、外に引っ張り出されたことに感謝するべきなのだろうか?
「アルちゃん!」
「アル!」
「アルさん」
「アル坊」
すれ違うたびに、声をかけられ、私は頬を人差し指で描きながら、ぺこり、ぺこりと挨拶を交わしていく。自分自身が気がついていないだけで、随分と知り合いが増えていることに改めて気付かされた。
「師匠、私、意外と知り合いが多いのかもしれない」
「ブハッ 俺がとなりにいるからじゃねえのか?」
「私が、十人に声かけられて、師匠は一人 私の方が人気がある」
「ハハハ 相変わらずの減らず口だ」
何気ない、馬鹿馬鹿しいこの掛け合いも、すごく久しぶりな気がする。そういえば、いつもこうやってアリオスとおバカな話をしながら、街を歩いていたっけ?そんなことも忘れていたらしい。
「師匠、どこに行くの?」
「んあ、ちょっとな あそこ寄るぞ」
お花屋さん?アリオスには、似合わない。花束を受け取り、代金を支払っい、太陽のように大きな黄色い花を束ねた花束を無造作に受け取っている。
「デート?」
「そんなんじゃねえ」
続いてアリオスは、お菓子屋に寄る。クッキーやら、キャンディやら、マカロンやら可愛らしいお菓子をまたしても大量に購入した。可愛らしいお菓子は、やっぱりアリオスに似合わない。
「やっぱりデート?」
「違う! デートなら何で嬢ちゃんを連れてくんだ」
確かにアリオスには、普段からそんな浮ついたものを感じたことはない。何だろう、確かジェシカに教わった気がする。
「わかった 逢引だ!逢引!」
「よけえ生々しいわ!アホか!どこでそんな言葉を教わってくるんだ?」
ポカリと頭を叩かれる。ジェシカさん、逢引ではありませんでした。
「あ!!!!」
「絶対に違う」
「まだ、答え言ってない」
「クイズじゃねえ 不正確だ」
「師匠!お見合いでしょう」
「お前、馬鹿だろう」
またしても、私の答えは、間違いだったらしい。呆れ顔のアリオスは、ジェシカとエルビスに文句を言うと言っていた。ちなみにお見合いさせたいと言っていたのは、三日月亭の女将メリルだよ。アリオスには、言わないけどね。
大量のお菓子と花束を抱えたアリオスに、私はついて行く。中央広場を通り過ぎ、商店街を抜け、住宅街に足を踏み入れる。アリオスは、目的地をまだ教えてくれない。だんだんと人影もまばらになり、建物もぽつん、ぽつんと少なくなっていく。
「ここだよ」
アリオスに連れてこられた場所は、マローの待ちはずれにある大きな石碑の前だった。
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