52 レッドボアと悪魔と私
大陸最果ての街、マローの東門から街道に沿って半刻進むとレッドボアが棲息するハリアーの森がある。レッドボアとは、討伐難易度は、Cランクの4足歩行の魔物だ。丸く上を向いた短い鼻、敵と見るや否や真っ直ぐに突進してきて、二本の鋭い牙で突き上げてくるので少々気性が荒い。
秋、森に実った木の実をたらふく食べたレッドボアは、身に脂が乗ってとっても美味しい。庶民にとっても有り難いご馳走でもある。よって、ギルドにもその旨い肉を確保するための依頼が多数発注される。
「アーくん、本日のノルマは、3頭だよ」
『ホッホー』
身体を動かしたかった、それと街の外で気を休めたかったこともあり、私はレッドボア討伐の依頼を受注した。
「初心を忘れるな なんでも力技で解決しようとするな」
【土竜の巣】で、やらかして以来、アリオスから懇々と言われ続けている事だ。レッドボアを見つけるには、探索魔法で探せば直ぐにでも発見できる。だけど、それだと、些細な変化に気が付けない。場所を知り、生態を知り、状況を知る。成果は、結果だけが求められるけど、技術は結果までの過程が物をいう。
『ホッホー』
アーくんが、小さく鳴いてバサバサッと翼を羽ばたかせ一本の木の枝に止まった。
「トチの木だ」
『ホッホー』
たわわに実ったトチの実は、森に生息する生き物が好んで食している。幹にはレッドボアが身体を擦り付けたのか、硬めの体毛がこびり付いているのも確認できた。
「当たりだね アーくんよろしく!」
アーくんが、ぴょんぴょんと跳ねながら、枝先へと移動していくと、止まっている枝が大きくしなり出す。上下の枝にぶつかると、トチの実がポロポロと落下してきた。木の周り一面に広がるトチの実を見て、アーくんも私の元に戻ってくる。
「ありがとう」
喉元を撫でれば、気持ち良さげに目を細めるアーくん。アークデーモンには、全く見えない擬態。私もフクロウの姿が、本当の姿じゃないのかと思ってしまうほどだ。
茂みの中にすっぽりと身を隠し、息を潜めレッドボアが現れるのをじっと待つ。レッドボアは、嗅覚が敏感なため、トチの木の風下に当たる茂みに隠れている。いつもなら、空気の如く集中できるのに、今日は、いろんなことが気になってイマイチだ。
ただ、前を見ていただけだった。ただ、葉の掠れる音を聞いているだけだった。私は、ただ、そこにいるだけだった。
『ブホッ』
目の前にレッドボアがいることに気づかなかった。しかも、気がつけば、風向きが変わり、私は風上にいた。目の前で前脚を踏み鳴らすレッドボアの目は、しっかりと私の姿を捉えていた。
「やられた!」
私が動くよりも速かった。レッドボアの丸い鼻頭と太い牙に突き上げられ、ふっ飛ばされた私は、空を待っていた。
ざっ、ざっ、ざっ。落ち葉を踏み鳴らし歩く音が聞こえる。レッドボアに吹き飛ばされ、私はどうやら気を失っていたみたいだけど、っていうか誰!?
背負われている背中は、私よりも逞しいので、男性だということはわかった。でも、この人の着ているローブって、私のローブじゃないの?そっと、ローブのフードを外す。
「お気づきになられましたか?」
「アーくん?」
フードから現れた顔は、フクロウでも何でもないアークデーモンの姿をしたアーくんだ。
「緊急事態のため、人型になっております 我が姫を危険に晒すなど、従魔として情け無い 如何なる処罰も受ける所存でございますので、今は、私の背に預からせてください」
相変わらず肩っ苦しい口調に何だか安心してしまう。
「アーくんのせいじゃない 私のミスだよ」
ぎゅうっとアーくんので背中にしがみつくが、アーくんは、首をふるふると横に振る。
「私は、姫が本調子でないことに気がついておりました 本来であれば、私が盾となるべきだったのです 取り敢えず、我が姫に害を成したあの魔物は、仕留めております」
「アーくん ありがとう 私を助けてくれて」
「……いえ、当然のことです ちなみにレッドボアは五体ほど仕留めております」
アーくんは、謝って欲しいわけじゃない。私のミスだから、本来は謝罪をするべきなのだろうけど、そうするといつまでも恐縮してしまうことが目に見えている。お礼を伝えたアーくんの耳が、ほんのり赤い。
アーくんは、私を背負い直すとローブのフードを目深に冠る。
「私は、あくまでも通りすがりの冒険者 決してフードは取らないでくださいませ」
「うん わかったよ」
取り敢えず、今日はアーくんの言う通りにしておこう。悪魔の背中も人間と同じで、温かいのだと初めて知った。
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次回予告 デートと逢引とお見合いと




