5 冒険者のススメ
新人講習会も無事終わり、【冒険者のススメ】を片手にギルド内を散策する。
1階は大きなホールになっていて入り口から入って左右の壁に大きな掲示板があり冒険者達が顎を摩り指差しながら吟味している様子が伺える。あれが依頼が張り出されている掲示板という事だろう。中央にはテーブルと椅子がセットで設置されており、ここも冒険者達が集まり何やら情報交換をしている。一番奥に受付カウンターがあり冒険者が依頼を受注している様子が伺える。依頼の達成報告もここですれば良いらしい。
2階には、教室や会議室、そして売店があり、売店にはポーションや携帯食などが売られている。
3階は、図書室のようで本の持ち出しはできないようだ。貸し出し出来ない事は残念だけど、本は高価だし、いつ死んでもおかしくない冒険者に貸したら帰って来ないなんてこともあるし、致し方ないか。
地下は、買い取り専門のフロアになっており、それぞれ個室で職員の査定の元買い取りを行なっている。不正がないように、鑑定師の資格を持った職員が、マジックアイテムを使って査定を行っている。個室であるのは、何が持ち込まれたか、査定額がいくらだったのか秘匿する為とのこと。
聞けば聞くほど、知れば知るほど、【白銀の翼】との違いに目眩がする。もういっそ、あのギルド潰れてしまってもいいんじゃない?
「お嬢ちゃん 新人かい? 良かったらこのオレ様が手取り足取り案内してやろう」
お嬢ちゃん…初めての呼ばれ方だ。声を掛けてきたのは、誇りぽい革鎧を身に纏った弱そうな(エルビス対比)男性だ。鼻の穴を大きく膨らましながらグヘグヘと見せる笑顔は、まるでオークのようではないか。当たり前のように肩を組まれそうになったため、ひらりとかわす。ここは、丁重にお断りしよう。
「いらない これがあるから」
ずいっと突き出して見せる【冒険者のススメ】。先ほど講習会でのエルビスの補足説明もびっちり書き込んである自慢の一品だ。
「………ああん このオレ様が、いずれAランクになろうっていう俺様が……クッ……そ、そんな、冊子に……んがあ!劣るっていうのかあ!!」
一瞬ポカンとした表情を見せた後、唇を震わせながら顔が真っ赤になっていく。ぎゅっと握りしめた拳と額に血管が浮き上がり、真っ赤なメロンみたいになってしまった。騒動に気づいたのか、チラチラとこちらに向けられる視線が増えてきた。ひっそりと過ごしたい私にとって、この状況は悪目立ちしてしまう。
「えっと、……あー色々教えてくれると言っていたけど、何を教えてくれるんだろう…か?」
講習会で、他の冒険者がエルビスに質問をしていた。ひょっとしたら有益な情報を知ることが出来るかもしれないし、質問くらいなら新人冒険者っぽく出来る、と思う。どうか、これで怒りが治まってくれないだろうか?懇願の思いで拳を振り上げる男を見上げじっと見つめた。
「お、おおぅ」
多少の機嫌が取れたのか、拳を下げてフフンと鼻を鳴らす男。どうやら、作戦は成功したらしい。
「いいぜ まずはこの施設内をゆっくりと案内してやろうか?」
「【冒険者のススメ】3ページに全体の見取り図が書いてある 迷わずに施設内を回れたので問題はない」
暫しの沈黙が流れる。
「じゃあ、依頼の受け方についてレクチャーしてやるよ 慣れてないと ほら 色々困るだろ」
「8ページに依頼の受け方にが図解入りで解説されている ほらココ ギルマスも新人向けの依頼について説明をしっかりしてくれた」
【冒険者のススメ】をしっかと見開き、指差して男に突き出した。これなら追記した小さな文字もしっかりと読めるだろう。
「そうだ!よくある依頼の薬草とか素材の採取場所に連れてってやろう ほら、この辺の土地には不慣れだろ オレ様の穴場に連れて行ってやるぜ」
「12ページと13ページに見開きでこの近辺の地図が記載している 魔物や素材の分布図も記載されているし、ギルマスもより細かく出現する魔物や採取できる薬草や素材について教えてくれた」
本当によく出来たマニュアルだと思う。どれだけ良くできたマニュアルか、説明してもしきれないくらいに熱く語ってしまった。注目されたくなかったのに、更に自分に集まる視線が増えてしまったことに今更気がついてしまった。
「ガーハッハ アルちゃん俺の説明しっかり聞いていたんだな 嬉しいじゃないか」
大きな手でわしわしと頭を撫でられ、ぐわんぐわんと頭が揺れると同時にがっしりとお腹に巻き付いたジェシカの腕。柔らかい胸の谷間に顔を押し付けられる。
「ねぇ、コーザさん ここでナンパするの止めてって、私注意しなかったけ?またペナルティ貰いたいの?」
「いやぁ そのぉ ナンパとか……別に」
「女欲しけりゃ 娼館に行くよなぁ そう約束したよなあ!なあ、コーザ!」
「は、はい もちろんです ナンパなんてしないしない お嬢ちゃん 悪かったな 何にも知らない新人って思っちゃったからさ おっと用事あったんだ お先に失礼」
コーザと呼ばれた男は、ヘコヘコと頭を下げながら走り去って行ってしまった。
「しっかし アルちゃんもやるわね」
「あぁ、しかも、煽りに煽って、コーザの馬鹿が軽くあしらわれて、クククッ 新人もこれくらい度胸がすわっていりゃあ、あの馬鹿の餌食にはならねぇんだがなぁ」
【娼館狂いのコーザ】ジェシカに教えてもらった先程の男の二つ名だ。なんて不名誉な二つ名なんだろう。見た目が幼い新人の冒険者であれば、男でも女でも構わず声をかけ、隙あらば穴という穴に突っ込みたがる不届き者で、苦情が後を絶たない冒険者だったらしい。ペナルティにペナルティを重ねるもんだから、万年Eランクの冒険者だと教えてもらった。「穴に突っ込むって何を?」と尋ねたら、エルビスは、ヨシヨシと頭を撫で、ジェシカは再びぎゅっと抱きしめてきた。結局、何を突っ込むのか教えてくれなかった。
「それで、アルちゃんは、素材の買い取りを希望しているってことかしら?」
「面白い!アルちゃんが何を持ち込むか興味がある 俺もついて行こう」
ギルマスのエルビスとジェシカに連れられて、地下の一室に招き入れられた。
モチベーションにつながりますので、
楽しんで頂けた方、続きが気になる方おられましたら、
評価、ブックマーク、感想、宜しくお願いします!




