49 夜空と大輪の花とヘルミナ嬢
司会者が、舞台上から姿を消し、残ったのはバート一人だけだ。胸に手を当てて、大きく息を吸い込むバートを観客たちが見つめている。
かっと大きく目を開き、腰に下げているウエストポーチに手を入れた。取り出したのは、変な筒。両手に持って、頭上高くに掲げている。
「なんだ、変身でもすんのか?」
「オレ知ってる あれブワッと風が出る筒」
失笑、そして野次が舞台のバートに向かって飛び交った。だけど、舞台上のバートは、ニヤリと不敵に笑った。
「オメエら とくと見やがれ! ライトオフ」
会場全体の照明が落とされ、真っ暗な闇と化した。バートのいた位置からひゅうっと音が鳴り、火の玉が頭上高くに打ち上げられる。観客たちの視線は、火の玉を追って上へとあがっていく。
火の玉は、ぐんぐんと空高く上がっていくと、ドンッと大きな音を立てて弾けた。そして、夜空に美しい大輪の花が咲いた。
「おおおお!」
「すげえ!」
「キレイ!」
会場中から漏れる、感嘆の声。そして、ヒュン、ヒュンと再び火の玉が夜空に打ち上げられる。ドン、ドドンと次々に大輪の花が咲き乱れる。チリチリと音を立てて花が消えると再び火の玉が打ち上げられ、大きな花が幾つも咲いた。
夜空に咲き乱れる大輪の花は、この会場だけではなく、ジュレルの丘からも、ひょっとするとカナリアの住むエルガ村からも見えるんじゃないだろうか? ドン、ドドンと鳴り響く轟音も、何故だか怖いというものではなく、心に響かせる心地よさがある。観客たちのの様子が気になり、周りを見ると、皆頭上に咲き乱れる大輪の花に魅入られ、うっとりとした笑顔になっていた。
最後は、今までにない一際大きな花を咲かせ、チリチリと消えていき、会場の照明が灯された。
「おおおおおおおおおおおおお」
「バート、何が起こったんだ」
我に帰った観客たちが、舞台上のバートに大きな声で声援を浴びせる。大きな拍手が巻き起こり、緊張から解き放たれたバートが、爽やかに笑った。
「おいおいおい!バート素晴らしいじゃないか 会場だけじゃなく この辺り一帯の村や街まで巻き込んで笑顔にしたんじゃないのかい」
「ハハハッ そうだったら嬉しいね」
司会者も興奮しながら、「絶対にそうだ」と確信を持って絶賛する。会場からも大きな声援と拍手が巻き起こって鳴り止まない。
「アナタ 凄い技術を持っているのですわ 私の元で働くといいですわ」
司会者もバートも突然現れたヘルミナの発言に、表情が凍りつく。バートの次に登場する予定のヘルミナが、勝手に舞台の中央にお付きのお供たちと一緒に上がってきてしまった。
「招待参加者のヘルミナ嬢も待ちきれないとばかり、バートの声援にやってきてしまったのかな?」
「私の手の甲に口づけする権利を与えてあげますわ」
司会者のフォローも吹き飛ばし、さも当然のようにバートに右手を差し出した。バートが跪いて、恭しく手を取り、口付けを落とすのが当然だ思っているらしい。
「早くなさい 私を待たせるなんて愚かしいですわ」
どうやら、【白銀の翼】のギルドマスターであるゴーツクンの娘は、見た目こそ違うが、性格は父親譲りのようで場の空気も読めないタイプのようだ。縦巻きロールの金髪を左手で払いながら、早くしろと催促する。
「次は、アンタの番だ 検討を祈るよ」
バートは、差し出された右手を、自分の右手で掴み、握手を交わし、さっさと舞台から退場していった。逃げるが勝ち。触らぬ神に祟りなし。後は司会者に丸投げだ。
「あら、恥ずかしかったのかしら?」
司会者も唇の端をひくひくと引き攣らせ、ハハハと乾いた笑い声しか出せていない。
「それじゃあ、特別ゲスト ヘルミナ嬢 どうぞ」
関わるのも面倒だと思ったらしく、司会者は、ヘルミナを紹介するだけして、舞台上から去っていく。観客の視線を一身に浴びるヘルミナは、とても満足気に満面の笑みを浮かべている。
中央にヘルミナ、その両サイドにお供の方が立っている。お供の方たちが、それぞれ横笛と弦楽器を取り出し、一礼をすると演奏を始めた。
楽器は、マジックアイテムでも何でもない、普通の楽器だ。人前でで披露できるくらい、そこそこの腕前だ。その音楽に合わせて、ヘルミナがリズムを取り出し、何やらステッキのような棒を音楽に合わせて振り始めた。
「お母さん、シャボン玉」
特別に招待された参加者ということもあり、黙ってヘルミナの踊りを見守っていた観客たちだが、子どもたちは正直だ。見たままを次々に口走る。
「あの棒は、シャボン玉を出すだけの棒?」
「シャボン玉だけだったら、僕でも作れるよ?」
子どもたちの親たちが、こぞって人差し指を唇に立てるが、子どもたちの声は止まらない。
「一番ショボいね」
それは、ゲストに絶対言ってはいけない一言だ。一心不乱にステッキを振りながら踊るヘルミナには、その声は届いていないようで、とても良い顔をして気持ちよく踊っている。
「あ!背中に羽が生えた」
「鳥の翼みたいなのが付けてる」
「お父さん、お母さん、あれ買って」
気がつけば、ヘルミナの背中に真っ白な翼が生えていた。パタパタと動いているようだが、空を飛ぶ機能は備わっていないようだ。
「ガキのおもちゃだな」
うちにも減らず口を叩く人いました。カナリアと二人で思わず唇に指を立て、「しぃー」っと子どもたちの親たちと同じ行動をしてしまった。
演奏が終わるまで、ヘルミナはシャボン玉を撒き散らし、背中の翼をパタパタさせて最後まで踊りきった。額に汗を光らせ、やりきった感を出していたので、本人はご満悦なのだろう。
去年のバートの立ち位置をヘルミナが見事に掻っ攫ったのだということが、会場の観客たちの様子を見てすごく理解できた。
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次回予告 白銀の翼と白雪と私




