40 礼儀と幸運と私
従魔を含め、私たち全員がお供え物を祭壇に捧げた。昨日の失敗も心に残ったしこりも何もかもが、良い経験として消化されていく気になるのは、不思議だ。
「さて行くか」
アリオスの言葉に頷き、地下7階層ヘと階段を降りて行く。昨日とは異なり、私の隣にはアリオスがいる。その少し後ろをバートがついて来ている。
「なんかいつもと雰囲気が違う気がするんだけどさ」
後ろから、バートが声をかけて来た。振り返ると辺りをキョロキョロ見回しながら首を傾げている。初めての私にはわからない何かを、感じているのだろうか?
「バート ちなみに お供えをしたことあるか?」
「いや、今回が初めてだけど?」
「フッ じゃあ、楽しみにしとけ」
祭壇にお供えをするだけで、場の雰囲気が変わったことに、バートが首を傾げながら不思議がる。
『わふっ』
『ホッホー』
真っ先に反応したのは、従魔の二人。道なりに進んだ先に膨らんだように広がるエリアの真ん中に、ぽつんと置かれた四角い箱が見えた。
「宝箱だ!」
「いや、待て、でも、前は、こんなとこに宝箱なんて」
「なかった……だろ?」
純粋にお宝発見に喜ぶ私と、突然現れた宝箱に驚きを隠せないバート。対照的な私たちを見てニヤリとほくそ笑むアリオス。
「ダンジョンが生きているって言われる理由がこれさ」
「開けてみても大丈夫?」
「どうぞ」
宝箱に近づき、状態を確認。特に、トラップなどの仕掛けはないかな?魔物の生存反応も感じられないので、ミミックでもないことは確かだ。両手を蓋に添えて上へ押し開ける。ギギギと木が軋む音を鳴らしながら、宝箱をゆっくり開けた。
「うわぁ、美味しそう」
「これは、これは」
宝箱にぎっちりと詰まっていたのは、ピーチモというプリッとした丸い形が特徴の甘い果実。ケーキやクレープに生クリームと一緒に挟んで食べるのもよし、冷やしたピーチモの皮を剥いてそのまま食べてもよし、スイーツの定番中の定番の果物だった。
「精霊たちは、基本臆病なんだ だから、トラップなどのイタズラを仕掛けて、敵を排除しようとしているんだ」
「だから毎回トラップは新しくなってるし、宝箱も再び三度と現れる」
「そんなことかな 精霊たちの挨拶は終わった 先へ進むぞ」
そっか、私たちは外部から来た他所者じゃん。ダンジョンを棲家としている精霊からすれば、トラップを破壊したりするのは、恐怖の対象でしかなかったろう。精霊への挨拶か、なるほど。宝箱からありがとう、ピーチモをアイテムボックスへ回収する。アリオスたちは、カツカツと足音を鳴らしながら奥へと進む出した。
私は、後ろを振り向いて、姿勢を正し、深々と頭を下げた。
「精霊さん 昨日は失礼しました これからも潜りにきますので、よろしくお願いします」
誰にというわけでなく、何となく私がお詫びを言いたくなった。ふわりと私の頬を風が掠っていく。私は、頭を上げるとにっこり微笑み、踵を返してアリオスたちを追いかけた。
「こ、これは!」
「またしても 宝箱ですね」
バートの地図では、いずれもトラップがあると印されていた場所に、悉く宝箱が置いてある。中身は薬草の盛り合わせだったり、毒消し草の盛り合わせだったり、ヒノキの棒がぎっちり入っていたのは、笑ってしまった。
「気に入られたんじゃないか?」
アリオスの言葉に、誰にとは聞かなかった。土竜の巣は、精霊の棲家。精霊は、警戒心が強いけど、好奇心も強く、同時にイタズラ好き。好意的な振る舞いをすれば、同じように好意を返してくれる。宝箱の出現率の高さが、それを物語ってあたいた。
「アリオスさん 知ってたんすか?」
「まあな 実際、体験してみにゃ わからんだろ?」
「たしかに」
力技で押し進んできた私、頻繁に潜りに来ていたが、セオリー通りにやり過ごしてきたバート。SSSとして様々経験をしてきたアリオス。その大きな差がハッキリと身に染みた。
「チッ ゴブリンか コイツらは臭えから嫌いなんだよっと」
「ウォーターボール」
「俺もまだやれるぜ!」
ダンジョンに現れるのは、宝箱だけではない。時折遭遇する魔物は、状況を見ながら全員で撃退していく。声をかけ、仲間の動きを見ながら戦う。一人で戦わない。魔物が弱かろうと背中を預けて戦える。これも私には、今まで経験したことのない戦法だ。
「うぅ 昨日までの自分が恥ずかしい」
「俺も ただの先輩ヅラしてただけだった」
郷に入れば郷に従え。先人たちの教えは、いつでもまとを得ている。暴走娘、暴走娘とアリオスに言われ続けていたことが身に染みた。
「目的地は、この先だな」
「はい、現在地が、ここだから、そこの分岐した道を左手に進んだところっすね」
バートが地図を広げて、アリオスが指先で地図をなぞりながら、道順を確認する。私は、地図を横から覗き込みながら、目印やトラップの種類まで細かく記載されていることに関心する。
『わふっ』
毛むくじゃらの短くて小さなひと吠えに、私たち全員が反応を示す。耳をピンと立てた毛むくじゃらが、警戒心をあらわにしていく。
「進行方向っすね」
バートの言葉に小さく頷き、私は魔力を練り上げていく。
「探索展開」
大きく小刻みに波紋を作るように、私は自身の魔力を拡げていった。
「数確認 56体反応あり」
広げていた地図をたたみ込み、懐にしまったバートが、厳しい表情に変わった。行くか戻るか。アリオスが、一度大きく息を吸い込み、細く長く吐いていく。
「行くぞ」
「オッス」
「ハイ!」
気合いを入れて、私たちは奥へと足を進めた。
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次回予告 ノームと勝鬨とお客人




