4 新人講習とギルドマスターと私
冒険者とは、国営、民営問わずギルドに登録している者の総称であり、魔物討伐や素材収集、ダンジョン攻略などを生業とする職業に就く者達のことだ。登録さえすれば、誰でもなれる冒険者は、己の命を天秤に掛ける危険な職業だ。
幼い頃、奴隷として買い取られてから、冒険者としての生き方しか知らなかったとは言え、余りにも無知な自分を改めて認識し始めているところだ。
「はあん?怪我をしたから別の依頼にしてくれだと? 何を甘えたこと言ってるんだ 納期は待っちゃくれねえんだ」
ゴーツクンに蹴り飛ばされ、怒声を浴びる幼き自分を遠い目をしながら思い出す。本来なら冒険者は、自分のランクに見合った依頼を受注する物らしい。そうやって経験を積んでからランクを一つずつ上げていくのが一般的だという事を初めて知った。
「そうだなぁ 初心者は、薬草採取やスライムの駆除、あと街の住人から依頼される掃除や屋根の修理とかから初めてみるといいぞ 報酬は、100ダリルからってとこかな」
なんという事でしょう。100ダリルも報酬があるなんて、ずっとEランクのままでも永久に暮していけるじゃないか!過去の悲惨な自分は、可哀想だが、それももう関係は無い。
「質問でーす 早くランクを上げるにはどうしたら良いんですかぁ?」
「俺も出来るだけ早くランクを上げたいっす」
何と100ダリルも貰えるにも関わらず、ランクを上げたい人がいるなんてびっくりだ。私以外の冒険者は、みなその質問にうんうんと頷いている。という事は、ランクを上げるのが普通なのか?
「依頼には報酬とは別にポイントが付与されていてな、一定ポイントが貯まるとCランクまでは、自動的にランクアップするんだ ただし、依頼を失敗すればペナルティとしてポイントの2倍がマイナスされる Eランクは100 Dランクはそこから500 んで、Cランクは、さらに1000ポイントを貯めることができて、初めてBランクへのランクアップ申請が出せるようになる」
Eランクのままで十分だと思うが、自動的にランクが上がってしまうので有れば仕方がない。少し残念な気持ちでいたら、面白いものを見るようなエルビスと目があってしまった。思わず首を傾げると「クククッ」と口に拳を当てて笑われてしまった。解せん。
「はいはーい Bランクへは申請だけでなれるんですか?」
「なれん まぁ過去の実績なんかも評価基準になってだなぁ、そこからBランク相当の実力があるかどうか指定した依頼を受けて審査をしているんだな」
そう言えば、ゴーツクンは、「俺のお陰でSランクになれた」って言ってなかったっけ?何度も死にそうになった依頼の中にきっとランクアップ用の依頼もあったんじゃないかな?改めて無茶をさせられてたんだなぁと、再び遠い目をして過去を思い出す。
「ランクアップ申請受けないよぉ!!」
心の中で、大きな声を出して宣言してみた。スッキリ。
冒険者のランクについて、Eランクは新人。D
ランクは、初心者。Cランクは、中堅。Bランクは、ベテランでAランクが上級者となるらしい。Sランク以上は、相当な実力や功績がなければなれないらしいんだけど、私の功績って何だったんだろう?
「因みにギルドでは、素材や討伐した魔獣などの買い取りが出来るぞ 状態や鮮度、入手難易度で査定額が決定される 依頼ポイントとは別に査定ポイントも付与されるからポイント稼ぎに利用してくれや」
あ、私の功績ってこれじゃない?エルビスの説明で、ストンと腑に落ちた。サイクロプスやワイバーンなど死に物狂いで討伐した魔獣の数々が走馬灯のように蘇る。珍しい魔物を狩ってくるとゴーツクンは、両手を叩き上機嫌になるもんだから、率先して持って帰ってたもんな。別に褒められるわけではないが、褒美として武器や防具を新調してくれたし、ちょっぴり食事が豪華になったりするのが嬉しかったりしたもんだ。少しでも待遇改善を図るために討伐した魔物をアイテムボックスに保管しつつ、小出しにしていたんだなぁ。まだまだストックあるから、後でジェシカさんに買い取り相談してみようかな?
アルは知らない。アイテムボックスには容量と言うものがあり、せいぜい大きなリュック二つ分くらいの大きさが一般的である。魔力操作が限界突破したため、無限大に広がった容量が一般とかけ離れすぎているとは、微塵にも気付いていなかった。
本来なら講習会は、ギルドマスターがするべき仕事ではない。エルビスは、ジェシカから新規登録された冒険者の中で、相当な実力派でありながら、Eランク登録を望み、尚且つ新人講習会に参加希望の冒険者がいると報告を受けた。冒険者たる者、多少の脛傷持ちは、幾らでもいる。Eランク登録するぐらいだから過去を清算したいのだろうと予測も付く。だがしかし、新人向けの講習会に参加したいという奴は、皆無だ。少しでも違和感を感じた場合、その直感を先送りにしてはいけない。
エルビスは、【冒険者のススメ】の補足説明をしながら参加している冒険者を観察していた。やはり、アルは他の冒険者とは違い、俺の説明に表情をくるくる変えながら時折遠い目をして何か悟りを開いているような様子をしている。誰もが知っているような情報を【冒険者のススメ】にメモを取っている様子が何とも微笑ましい。アルの表情を見ながら首を傾げれば更にそこを噛み砕いて説明を重ねていった。
見たことのない冒険者が、ジェシカに纏わりつかれているのを見かけた。見かけは、成人しているかどうか怪しいくらいに見える可愛らしい女の子。小動物にも見えるその仕草は、庇護欲を唆られる。身形から魔術師系だと思わせる真っ白なローブがプラチナブロンドの髪によく似合っている。知らない者が見れば、年端も行かない新人冒険者にも見えるだろう。だけど何か異質な違和感を感じさせる。試しに弱めの殺気を込めて飛ばしてみると、案の定後ろに飛び下がり、直様、臨戦態勢に入りやがった。ローブの後ろに隠した手にはタガーか小型の武器を持っているんだろう?コイツが報告に有った冒険者だということに気がついた。
ジェシカは、アルちゃんことアルを「真っ白」だと受け入れた。俺以上に警戒心が強いジェシカがそう言うんだ。俺は、直感を殊更大事にしている。多少の面倒ごとがあろうが、俺もその直感に乗ってみようじゃないの。
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