36 暴発と悪魔と夜のお供
どんなトラップであっても回避できる自信があった。どんな敵に遭遇したとしても生き抜く力を持っているという自負があった。
私の目の前で、翼を切り刻まれ地に堕ちていくアーくんを視界に捉え、うちから湧き溢れていく魔力が抑えきれない。
「うわああああああああああああ!」
アーくん!アーくん!アーくん!
「アル!」
暴発寸前。大きな影が私の目の前に現れ、視界から全てを見えないように遮った。力強く抱きしめられ、その匂いに私の身体がその影に縋り付く。
「し、師匠!アーくんが、アーくんが!」
「大丈夫 落ち着け!アル 大丈夫だから 何も失ってない」
「うううううううううううう」
アリオスの匂いを直に感じ、私は大きな胸に顔をぶつけて泣き喚く。大きな手のひらは優しく頭を撫でて、何度も何度も「大丈夫だから」と耳元で囁いた。
「アリオスさん!アル!」
少し遅れてバートも駆け付けてきた。
「おい!クソ悪魔 主人を泣かせてんじゃねえ」
「ホッホー 我が姫、私はいつでも姫のお側についております さあ、ご覧ください」
「え、何?どうなってんだ?フクロウが……人型に?」
戸惑うバートの声となぜか聞こえるアーくんの声。アリオスの胸から顔を離して、遮られた視界の向こうへ顔を覗かせた。
「アーくん その姿 し、師匠?」
目の前には、アークデーモンの人型に姿を変えたアーくんが、赤い瞳を細めニッコリと満面の笑みを浮かべ、右腕を前に交差して恭しく頭を下げている。
「あのクソ悪魔は、俺に肩を貫かれても 飄々と何にもなかったように俺らの目の前に現れたのを 忘れたか?」
「あの程度の刺し傷で、あなた如きが私を傷を負わせることができると? フンッ 笑止千万 私に傷を負わせることができるのは 唯一の我が姫のみだというのに」
人型になった途端、可愛げが全くなくなるアーくん。バートも突如現れた三人目に思考がついていけるはずもない。
「アル!アリオスさん!俺にもわかるように説明してくれ」
「えっと、彼は、アーくん フクロウのアーくんと一緒だよ」
「そんな説明じゃ 誰もわかんねえよ」
ブハッと笑うアリオスを見て、心が軽くなっていく。いつものアリオスに嬉しくなって、もう一度胸に顔を擦り寄せ抱きついた。よしよしと頭を撫でてくれる大きな手のひらが気持ちいい。
「バート様 私めは、至高なる我が姫アル様の下僕にして従魔のアークデーモンのアーくんと申します 訳あって人前では、フクロウの姿に成り下がっておりますが、以後お見知り置きをくださいませ」
「お、おう バートだ よ、よろしく頼む」
取り敢えず、落ち着きを取り戻した私を見て、アリオスがほっと一息ついた。
「ったく 危なっかしいたりゃありしねえ 嬢ちゃん もう大丈夫だな」
「うん 大丈夫」
いつもの嬢ちゃん呼びに、嬉しくなってしまうのは、アリオスが私を見て優しく笑ってくれるからだろうか?知らないうちに私の中で、アリオスの存在は、とても大きくなっていたようだ。
「ほんと大の男が焼きもちなんて、本当にみっともない」
「ん? 焼きもち?」
「だあ!何でもない クソ悪魔 早く消えろ」
『ホッホー』
アーくんが人型からいつものフクロウの姿に戻る。切り刻まれた翼も何も遜色はないようだ。
「おかえり アーくん」
『ホッホー』
私が大きく両手を広げるとアーくんは、胸に飛び込んでくる。そのまま、ぎゅっと抱きしめてアーくんの無事を喜んだ。
地下6階層のトラップを全て解除した私たちは、地下7階層へ続く階段の手前のセーフティエリアで一晩明かすことにした。まだ初日なのに今日は色々なことがありすぎた。
夜営のためにアイテムボックスからテントを取り出す。大人4、5人くらいは余裕で休める大きさのテントは、ジェシカさんのおすすめだ。初めてのダンジョンアタックに出かけることを伝えると「あらあら、まあまあ」とニヤニヤ微笑まれ「アルちゃんもお年頃だものね」とよくわからないことを言われた。
「何だ、そのクソデカいテントは」
「一人にしたらでかいっすね」
「うーん よくわからないけど、ジェシカさんが、夜のお楽しみにはこのテントがオススメよって言われたから」
私の言葉にあんぐりと口を開けるアリオス。バートは、顔を真っ赤にしているが、なぜ、どこに顔を赤らめる要素があるのかわからない。
「ちなみにジェシカには、誰と行くのか伝えたのか?」
「もちろん 錬金術師のバートと二人でお出かけって伝えたよ なんで?」
「クソ あのアマ アルを幾つだと思ってんだ」
「18歳だけど何か?」
「なおさら悪いわ!」
バートが、両手で赤くなった顔を覆い隠し、再びアリオスが不機嫌になった。アリオスの名前呼び、先程とは違って、怖さを感じない。名前呼びも悪くないね。
「バート!お前は、テント持ってきてんだろ」
「ハ、ハイ!男二人なら余裕で入れるっす」
「よし!嬢ちゃん、俺たちは、バートのテントで夜を明かす そっちは、嬢ちゃん一人でゆっくり休め」
バートも「それがいい」と頭をこくこく上下に動かす。え、一人ぼっちは、寂しい。仲間はずれですか?
「アーくん、今日は一緒に寝てくれる?」
『ホッホー』
もちろんと肯定するかのようにひと鳴きすると大きく翼を広げ、私に向かって羽ばたこうとする。だけど、アリオスが、素早く両腕でがっしりとアーくんの身体を掴んで離さない。
「駄目だ クソ悪魔は、こっちだ」
「フクロウくらいなら余裕で入るっすよ 男三人でも今日なら我慢できます」
『ホ、ホッホー!』
いやだ、いやだと激しく首を横に振るが、アリオスとバートは、アーくんを離そうとはしない。バートも何処から出したのか、首輪のようなものをアーくんに装着した。
「師匠、バート アーくん返して?」
「朝になったら返してやる 今日はこれで我慢しろ」
『わふっ』
「毛むくじゃら〜」
毛むくじゃらが、一緒にいてくれるなら、まあいっか。今日は、なかなか寝付けないと思ったから、一人で過ごすのは嫌だったんだよね。
「一晩よろしくね」
『わふっ』
『ホ、ホッホー!』
なぜか猛抗議をするかの如く、大きく鳴き叫ぶアーくんの声が、ダンジョン内に大きく響き渡った。
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次回予告 テントと食事と反省会




