34 バートと私と不機嫌なアリオス
アリオスとバートが、転移の魔術【アクセスゲート】による魔力酔いから醒めると、当初の目的通り【土竜の巣】へ向うため、ジュレルの丘を後にした。
【土竜の巣】は、ジュレルの丘から西にあるノアジ渓谷に面している。深い緑の中を川沿いに私たちは、歩いた。川のせせらぎが、深い緑の渓谷に響いて心地よい。アリオスは、完全復活したのだろう毛むくじゃらと共に、私たちを先導して歩いている。その後ろをバートが続き、最後尾は私だ。バートは、口数も少なく、時折何か考えているような素振りも見せるため、まだ本調子とまでいかないのかもしれない。
「ここだ 着いたぞ」
アリオスが、深い緑の枝をかき分けると、渓谷の壁面にぽっかりと開いた洞窟への入り口が現れた。入り口の周りには、不思議な楔形文字が施され、【土竜の巣】の神秘さが強調されている。
「崩落防止の結界だね」
文字をなぞり僅かに感じる魔力が、誰かの手が入っていることを意味している。
「人なのか、魔物なのか、それとも別の何かなのか、未だに証明はされていないんだ ただ、トラップもあるため土竜……土属性の精霊の仕業だろうと言われてるんだ」
【白銀の翼】時代もダンジョンアタックは、やったことはある。ただし、ボス部屋までのノンストップアタックだった。初めてのチームアップによるダンジョンアタックに、胸がドキドキ、心がワクワク、テンション爆上がりの私。バートの背中をバンバン叩き、「誘ってくれて、ありがとう」とお礼を言う。
「おい、中に入る前に消耗具合のチェックするぞ バート、体力回復は出来てるか?」
「うっす ここまでペース配分してくれたんで、問題なく回復してるっす」
「嬢ちゃん 魔力はどうだ?」
「もちろん 余裕だよ」
武器、消耗品も特に問題なし。消耗具合のチェックは、基本中の基本なんだとアリオスが教えてくれた。胸の内ポケットから【冒険者のススメ】を取り出して、ダンジョンアタックの基本を細かくメモしていく。
「新人冒険者より新人らしいな アリオスさんも教えがいがあるっしょ」
感心した様子で言われると、褒めてもらえたようで嬉しくなる。
「いや、嬢ちゃんは、非常識極まりないんだ ちゃんと教えても斜め上の行動をしやがるんだ お前も覚悟しておけよ」
アリオスが、何気に酷い。むうっと頬を膨らませると、「文句あんのか」と大きな手で頬を掴まれる。
「ここ、初心者から中級者向けだし、俺も何度も来てるし、何たってSSSのアリオスさんもいるわけだし、大丈夫っすよ」
「うう バート いい奴」
ヒクリとアリオスの片方だけ眉が上がる。「ほう」っといつもより低い声で、つぶやく。
「わかった アル お前先行やれ」
アリオスは、私の事を普段は「嬢ちゃん」と呼んでいる。耳慣れないというか、初めての名前呼びに、背すじが伸びた。
「そうだな アル 何事も経験だ 俺もアリオスさんも付いている しっかりフォローしてやるから 先行を任せる」
バートの言葉は、ありがたい励ましの言葉のはずなのに、今は何も言わないでと思ってしまう。アリオスは、相槌を打つわけもなく、何も答えてくれない。ただバートの横で、うっすら笑みを浮かべているだけだ。
「行け」
底冷えする程の涼しい声に、私はコクンと頷くことしか出来なかった。
【土竜の巣】は、初心者向けの地下5層と中級者向けの地下10層のダンジョンである。【冒険者のススメ】に記載されている説明文に目を通す。チームでの先行の主な役割は、敵(魔物)の早期発見とトラップの回避、そしてチーム全体のペース配分のコントロールになる。
「視覚強化 聴覚強化 嗅覚強化 探索展開」
先行として、自身に強化魔法を施し、気合いを入れ直した。
「行きます」
『ホッホー』
私の肩にアーくんが、ちょこんと座っている。私のためにサポートをしてくれるつもりなのだろう。
「アーくん よろしく」
指先で首元を撫でた後、大きく息を吸い込みゆっくりと細く吐き出す。「よし」っと自分に声をかけ、足を踏み出した。
ざっ、ざっ、ざっと私たちの小石を踏む足音が、やたらと響いている気がした。
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次回予告 戦闘と罠と駆け抜ける私




