33 錬金バカと魔術バカと脳筋バカ
ジュレルの丘は、冒険者たちに休憩場として利用される。一面に咲き乱れる花々は、色とりどりで幻想的で美しい。少し落ち込んでしまった時、悲しいことがあった時、この景色は、いつでも心を癒してくれる。私もうっとりとこの魅惑的な世界に没頭できるのに、背後で呻くアリオスとバートの声が聞こえてくるため、現実に引き戻されてしまう。
「ったく、俺たちを実験台に使いやがって…… おおかたラルバさんとこの娘さんをここに連れてきたいとかそんなとこだろう ああ、くっそう、まだ、胸がムカムカする」
はい、ご明察です。全くもって、その通りです。カナリアを連れて来たいという一心で、転移の魔術【アクセスゲート】の構築に励みました。
「カナちゃんをジュレルの丘に招待したくて、アーくんと特訓したんだよ ジュレルの丘って聞いたから、お試しのチャンスって思っちゃいました」
「そんなことだろうと思ったけどよ、俺はまだいい 悲惨なのはあちらさんだ」
樹木を背もたれにして、アリオスの視線が向いたのは、ようやく起き上がれそうな兆しを見せるバートだった。
「バート いきなりゴメン 果実水だよ ほら飲みなよ」
「んあ あんがと うぅ」
果実水をごくごく喉を鳴らしながら飲み干していく。口の端から水滴が垂れるのも気にせずに一気飲みだ。多少気分が回復したように見えるので、ホッと胸を撫で下ろした。
まだクラクラするだろう頭を揺らしながら、よっこらせとバートは体を起こす。背中が丸くなり若々しさが消え失せているのは、気にしないでおく。せっかくダンジョンアタックに連れて来てもらったのに、到着前から疲れさせてしまったのは、間違いなく私だ。
「いやあ、マジ死ぬかと思った」
本当にごめん、本当にごめんと何度も謝ると、私の頭にぽんっと大きな手のひらを乗せ、髪の毛をぐちゃぐちゃに撫で回し始めた。
「別に怒っちゃいねえ めちゃくちゃ貴重な体験だったしなぁ」
「ほ、本当に?」
「ああ、逆に転移できる錬金アイテムも作れんじゃね?って思ってる」
何、バートってめちゃくちゃ良い人。失敗したんだよね。死ぬかもって思ったんだよね。失敗を失敗として、嘆くよりも、その次にある成功へと目を向ける。沈んだ心が、ふわふわと浮いてきた。
「うわぁ、嬉しい バート、作れるよ 作っちゃおうよ 私、欲しいもん ね」
「ね!っじゃねえ バカタレ暴走娘!」
アリオスが、指先で私の額をパチンと弾く。
「バート お前もだ 何でもかんでも許すんじゃねえ この嬢ちゃんは、自重ってもんをわかってねえ しっかりと手綱を握っておかねえと もっと酷えことやらかすんだ 何度も何度も被害に遭うのはお前だぞ この錬金バカ」
耳が痛い。だけど、それでも、いつも巻き込まれてくれるのは、アリオスだったりする。
「錬金バカに魔術バカ 師匠はさしずめ脳筋バカ?」
「ああん! もう一度行ってみろ!バカ弟子」
『わふっ』
アリオスが立ち上がったため、私も捕まってなるものかと逃げの姿勢。毛むくじゃらも私たちの様子を見て、短く吠えると左右に大きく尻尾を振り出した。
「毛むくじゃら 逃げるよ!」
『わふっ』
わぁっと声を出して、私が走り出すと、毛むくじゃらも一緒に駆け出した。アリオスが、ぼきぼき指の関節を鳴らして不敵に微笑む。
「おめえら、いい根性してるな!俺を誰だかわかってんのか?」
私たちの挑発に乗って、アリオスとの鬼ごっこが始まった。ジュレルの丘でのいつもの光景。アーくんは、バートの側でちょこんと座って私たちの鬼ごっこが終わるのを待っている。
走り回る私たちにつられて、色とりどりの花びらが、空高く舞い始めるのもいつものことだ。
師匠に毛むくじゃらが捕まった。ぼーんと投げ飛ばされ、地面に転がる。次に捕まるのは、私だ。しっかりと受け身が取れるように、毛むくじゃらと同じように投げ飛ばされる。何度も投げ飛ばされては、逃げ回る。ふと、たくさんの花びらが、空を舞っているのが視界に入り、私は足を止めて空を見上げた。
「いつも思うことだけど キレイだね」
アリオスも私の隣で足を止め、同じように空を見上げる。
「だな、この景色は、いつも癒されるな」
アリオスと二人、空を見上げてにっこりと微笑む。そして、お互いの笑顔を見て声を出して笑った。
『ホッホー』
『わふっ』
アーくんと毛むくじゃらの鳴き声で、我に帰る私たち。あ、バートがいるの忘れて、アリオスと本気で遊んでしまった。
後ろをそっと振り返ると、大きく目を開いてポカンとした表情のバートがいた。
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次回予告: バートと私と不機嫌なアリオス




