26 スズラ草と髪留めと私
いざ、部屋の外へ出ようと決意は固めたものの、カナリアの足は、なかなか最初の一歩を踏み出せない。ここで、私が手を引っ張りしては、絶対ダメだ。カナリアの差し出した左手を握っているけど、私からは絶対に動かないと決めていた。
「アルちゃん、ありがとう」
何度も何度も大きく息を吸って、深呼吸を繰り返すカナリア。最初の頃とは表情が全く違う。感情が失われたあの悲しい笑顔じゃない。歩き出すんだという意思が、瞳に灯っていた。
「すぅ…はぁ…すぅ…はぁ… 行くよ、アルちゃん!」
カナリアは、ゆっくり、ゆっくり、大きく一歩を踏み出した。右足が敷居の向こうで、ペタンと音を立てて、着地する。体は、ガチガチに力が入っているけど、部屋から一歩踏み出せた。
「アルちゃん!アルちゃん!私の足、部屋の外に出た!」
「出た出た!カナちゃんの足、部屋の外にある!」
喜びのあまり、二人で両手を取り合って、その場でぴょんぴょん跳ねた。
『ホッホー』
「あっ!」
「あれっ?」
アーくんの鳴き声で我に返った私たち。喜びのあまりぴょんぴょん飛び跳ねて、カナリアの身体は、部屋の外にあった。
「行こう、アルちゃん!」
カナリアが、私の手を握ったまま走り始めた。ドアを開けっぱなしだということにも気付いてないね。私は、指先をくるっと回し「施錠」と唱える。アーくんが、ドアの前で扉が閉まっていく様子を確認しているから、大丈夫だろう。そのまま、廊下の先にある階段もパタパタと駆け降りた。
「アルちゃんとお出かけしてきます!」
フロントの従業員への挨拶もおざなりに、カナリアは、ロビーから宿の外に飛び出した。久しぶりに浴びる太陽の光を感じたのだろう。カナリアは、ピタリと足を止め目を瞑ったまま天を仰ぐ。
「ああ、暖かい こんなことも忘れてたんだ」
目尻から、すうっと流れたカナリアの涙。このまま、嫌なことは、全て流れて消えていきますように。そう、願ったのだった。
『ホッホー ホッホー』
鳴き声を上げながら宿から飛び出して来たアーくん。バサバサと翼の音を立てて、どんと私の肩に着地した。
「アーくん、ありがとう」
『ホッホー』
「置いて行かれるって思ったのかな?」
『ホッホー』
思わずどっちなんだよと突っ込みたくなるが、アーくんは、置いてかれて悲しむようなアークデーモンじゃない。『我が姫、私めちゃんと戸締りを見届けて来ました』とアピールしているだけだと思う。カナリアに可愛らしさをわざとアピールしているのは、悪魔的あざとさであることを私は知っている。
だけど、そんなあざとさがカナリアの心を柔らかく和ませていくのだろう。私がアーくんの首元を撫でているとカナリアも指先を伸ばしてアーくんの首元を撫で出した。今は、フクロウらしく気持ちよさそうに目を細め『ホッホー』と小さく鳴いた。
「アルちゃん、端っこから制覇するよ!」
カナリアが宿泊している『黒猫亭』は、中央広場の目の前にある。収穫祭へ向けて中央広場は、露店や屋台が所狭しとお店を開いて、とっても賑わっている。
「いらっしゃい、いらっしゃい 大人気のタコタコタコ焼きあるよ!!」
「おーい お嬢さんたち 今日は暑いからソフトクリンおすすめだよ」
甘辛いソースが決め手のタコタコタコ焼き、渦巻き型の甘くて冷たいソフトクリン。お店の人たちに誘われるまま、屋台や露店を除いては、食べ歩く。アリオスが見れば、「どんだけ食べてんだよ」と呆れ顔になるに違いない。
「見て見てアルちゃん、これって」
「スズラ草だね 髪留め?」
カナリアが、足を止めたのは、小ぶりなアクセサリーを売っている露店だ。可愛らしい花をモチーフとしたネックレスや髪留め、ブローチなどが並んでいる。
「お嬢さん方、いらっしゃい 手にとって見てくれていいよ」
露店のお姉さんが、明るく声をかけてくれる。カナリアと並んで座り、スズラ草の髪留めを手に取った。小さな白い花びらが連なるスズラ草の髪留めは、ふわりとしたカナリアによく似合う。
「これ、アルちゃんに似合うよ絶対!」
「え?私、カナちゃんの髪によく似合うだろうなって思ってたよ」
お互いに目をパチパチさせて、顔を見合わせ笑ってしまう。
「お嬢さん方、どっちもお似合いだよ 良かったらお揃いにしたらどうかい?」
「うん、私アルちゃんにプレゼントするね」
「なら、私はカナちゃんにプレゼントするよ」
「可愛らしいお嬢さん方のために、一つ300ダリルだけど、二つで300ダリルでどうだい?」
「ありがとう、お姉さん」
二人で150ダリルずつ出し合って、露店のお姉さんからスズラ草の髪留めを受け取った。
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