24 カナリアとハーブティーと私
収穫祭の下見のため、エルガ村から父親と共にマローにやってきた少女カナリアは、レッドハンターに襲われたことから、宿に引きこもった状態が続いているとジェシカから教えてもらった。
収穫祭の下見に父親と一緒に来たくらいだ。賑やかなマローの街を楽しみにしていたと思う。
「嫌だなぁ…」
私の頭からどうしても離れない別れ際の笑顔。力一杯握りしめていた両手には、爪の痕が食い込んでいた。
「お祭りは、楽しくなくっちゃ」
「それは、そうだけど…… 突然どうしたの?アルちゃん」
私だって、収穫祭は初めてのお祭りだ。お祭りは、賑やかで、ドキドキで、ワクワクで、とても楽しい突然教えてもらった。独りよがりかもしれないけど、カナリアにも私と同じように初めてのお祭りを楽しみにして欲しい。
「ジェシカさん、私当分お仕事なしでお願いします」
「え!?……ふふっ いいわよ 行ってらっしゃい」
「はい!!」
私のお仕事放棄宣言をジェシカは、笑って許してくた。もやもや、もやもやとした気持ちのままでは、私自身も収穫祭を楽しめない。今も部屋で俯いているかもしれないカナリアに、思いっきり笑って欲しいから。
「アーくん 行くよ」
『ホッホー』
私は、『黒猫亭』へと走り出した。
『黒猫亭』は、マローの中央広場に面した一般客向けの宿屋だ。よって、冒険者たちが常宿として利用する宿とは異なり、従業員たちもお上品な立ち振る舞いをしている。『三日月亭』の女将であるメリルなんて、宿泊している冒険者を怒鳴り散らすこともあった。
カナリア親子が、宿泊している部屋のドアの前で、軽く息を整える。拳を軽く握り、コンコンとドアをノックした。
部屋の中には人の気配があるけれど、返事もなければ、ドアノブが回る気配も感じない。ドア一枚の向こうには、息を潜めたカナリアがいるのだろう。私は、大きく息を吸い込んで、もう一度ドアをノックする。
「こんにちわ!アルです!お留守ですか?」
「………アル…さん?」
「ハイ!アルです!突然お邪魔してごめんなさい」
部屋の中から、僅かに聞こえたカナリアの声。怯えさせるわけにはいかない。私は、明るく元気な声で自分の名前を名乗った。
ドアの向こうで、いろいろ考えているのだろう。静かな沈黙が、私の緊張を誘ってくる。
「お父さんは、出かけていますよ?」
「私、カナリアさんにと差し入れを持って来たの」
カチャリと音が鳴り、ゆっくりとドアノブが回り出す。隙間からカナリアの顔が見えると同時に、アーくんがするりと部屋の中に入って行った。
『ホッホー』
「あ!アーくん、ダメだって」
『ホッホー?』
絶対にわかってやってるでしょ!部屋の真ん中で、私を見ながら首をを傾げているけど、あざとさが見え見えなんですけど?翼をパタパタさせて、甘えるように鳴いて見せても、私はアークデーモンだと知っている。
「カナリアさん、ゴメンね アーくん勝手に入っちゃった」
「プッ…フフッ!どうぞ、アルさんも入って」
ドアの隙間から覗いたカナリアの顔は、強張っていたけども、ふもふの愛らしさは、心を穏やかにするには最適だったようだ。柔らかい笑みを浮かべ、部屋に招き入れてくれた。
見た目は可愛らしいフクロウの姿だけど、中身はアークデーモン。精神掌握は、得意分野のようで、あっという間にカナリアの警戒を解き放ってくれた。帰ったらしっかりと褒めてあげよう。
「今日はね、私が採取したスズラ草の茶葉を持ってきたの」
「スズラ草?」
「うん、リラックス効果があってね 一緒にお茶でもどうかなって」
「アルさん、ありがとう 嬉しいな」
ジュレルの丘採取出来るスズラ草は、爽やかな香りとほのかに甘みがある味わいがある、リラックス効果のあるハーブティーの茶葉になる。私のお気に入りの一つだ。
「アーくん、お茶淹れるの手伝って」
『ホッホー』
「え?アーくんが、手伝っうって?」
まあ、フクロウだし、その反応は、当然だと思うよ。家では、家事も炊事も万能な執事アークデーモンです。
「えへへ、アーくんって味にこだわりのあるフクロウなんだよ」
カナリアが見守る中、私はティーポットをアイテムボックスから取り出す。茶葉をスプーンで掬い取ってアーくんに「これくらい?」と見せる。首をふるふる左右に振るため、もう少し多めに掬って見せた。
『ホッホー』
「本当に、味にこだわりがあるみたいだね」
「そうなんだよ 可笑しいでしょ」
和やかな空気が広がる。お湯の淹れ方、蒸らす時間などをいちいち尋ねながら、アーくんにお茶の淹れ方を教わっているのが、面白可笑しかったらしく、カナリアの笑い声が溢れ出す。
「アーくん、お料理の先生みたい あははは」
「そうだね 先生みたいだね」
『ホッホー』
ティーポットから注がれるスズラ草のハーブティーは、爽やかな香りを漂わせる。カップを「どうぞ」とカナリアへ手渡し、私もソファーに座った。カップに両手を添えて、カナリアが一口、コクリと飲み込む。ほうっと柔らかな笑顔を浮かべ、「美味しい」と言った。
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