20 お引越しと収穫祭と私
ユグラドシア王国は、広大な大陸「エルガリア」の中央に位置する古くから栄えた国だ。王国の首都ゼブディアは、大陸のほぼ中心に位置し、四方から延びる交易路が交わっている。その交易路の一つから、西へ西へと向かった先に位置するのが大陸最西端にあるユグラドシア王国の第二の商業都市と名高い街、マローだ。移動手段は、馬車か徒歩が一般的になるため、ゼブディアへは気軽に足を運べる距離ではない。よって街の住人たちには、ゼブディアは風の噂でと聞いたことがあるといった認知レベルだ。
「今日は、いつも以上に行商人の数が多くないですか?」
マローの中央広場は、普段から屋台や出店が多いのだけど、今日は広場の外まで、見たこともない異国のアクセサリーや雑貨の出店が目に見えて多く出店されている。
「んあ? そういやあ、収穫祭の時期だからな」
「収穫祭?」
「一年の労苦をねぎらいと豊作に感謝する祭りだな 毎年この時期は、近隣の街から行商人やら観光客が来るんだ おっ!嬢ちゃん このバルヘルムの串焼き 肉汁たっぷりで美味いぞ」
バルヘルムは、四足歩行で頭に二本の角がある魔獣だ。大人しい性格のため家畜として重宝されている。霜降りのお肉は、脂身も甘くお口の中で溶けていくよう消えてなくなるほど柔らかい。乳も料理や乳製品に加工され、革も厚みがあり頑丈なため需要がある。
アリオスは、バルヘルムの串焼きが大層気に入ったらしく、追加で五本購入すると私に一本分けてくれた。
「うわぁ!噛めば噛むほど、肉汁が口の中に広がって、めちゃくちゃ美味しい!」
「だろ?」
「アーくんも食べてみて 一口どうぞ」
「ああん そいつは串焼きでも舐めさせとけ」
『ホッホー!!!』
どうやらアリオスは、アーくんへのお裾分けは、したくないらしい。アーくんにお肉の串を差し出した途端に、横からガブリと残ったお肉を横取りしてしまった。アーくんもお肉を横取りされて、私の肩でアリオスに向けて猛抗議をするかの如く鳴いている。
「師匠、まだ根に持っているんですか?」
「別に……根に持ってねえよ」
フンと鼻を鳴らし、そっぽを向くけど、絶対に根に持っている。私が家を購入したことで、アリオスとの同居生活が始まることになり、アーくんがお引越しまでにお部屋の準備をしてくれることになった。アーくんだけを先に返した私たちは、一旦自分たちが常宿としている宿に帰宅。翌日、待ち合わせて、購入した家に向かった。
「ああ、我が姫 お帰りを心待ちにしておりました」
「ただいま?」
少しガタついていた門扉は、新品同然のように生まれ変わり、外壁も綺麗に塗装が塗り替えられている。広い庭も可愛らしいお花が咲き乱れ、ジュレルの丘のように幻想的に整えられていた。
『わふっ』
「いっぱい走っても良いからね」
毛むくじゃらの太い尻尾が嬉しそうに左右に揺れる。天気の良い日は、ゴロリとお昼寝もできそうだ。色とりどりの花を愛ながら屋敷の玄関先まで歩いた。
「どうぞ我が姫、お入りくださいませ」
相変わらず私ファーストなのが、少し気になるけど「ありがとう」とお礼を言って屋敷に足を踏み入れた。
窓から差し込む陽光が柔らかく、温もりある雰囲気を作り出している。天井から落ちて粉々に砕け散ったシャンデリアも綺麗さっぱり片付けられ、代わりに可愛らしく暖かみある灯りを灯せる物に様変わりしている。オーク調の床に柔らかい色合いのカーペットが敷かれ、上品なテーブルとソファーが設置されて、いつでもお客様をお迎え出来る雰囲気だ。
「アーくん 私にはもったいないくらい素敵だよ」
「アークデーモンのクセに趣味は悪くない」
「ああ、我が姫よ、お褒めいただき有り難き幸せ 他も是非ご確認くださいませ」
アーくんに誘われ、私たちは屋敷の中を一つ一つ確認しては、彼の仕事の素晴らしさにため息を吐いてしまう。キッチンは、ありとあらゆる調理器具が揃えられて、誰が一体どんな高級料理を作るんだと言わんばかりの設備が整っていた。バスルームも猫脚の可愛らしいバスタブが設置され、シャワーも完備されている。アリオスが、「風呂の入り方知ってんのか?」と揶揄ってきたが、ウォーターボールで水浴びなんてことは、もうしませんよ。
食堂は、スクエア型のテーブルに四脚の椅子がセットされ清潔感溢れる真っ白なテーブルクロスが掛けられている。大きなテーブルに取り替えれば、大人数での食事も可能な広さがある。地下の工房には、薬棚が設置されて、いつでもポーションくらいなら精製できるように、様々な薬草が束ねて干されていた。
最後に二階へ案内される。
「こちらが我が姫のお部屋となります」
大きな窓ガラスから暖かな日差しが入り込み、窓を開ければ爽やかな風が入ってくる。壁際に天蓋付きのベッド。真っ白なマットレスは、ふかふかでまるで雲のように柔らかい。ベッドサイドには小さなテーブルが設置され、水差しも準備されている。クローゼットや机、本棚など可愛らしい木目調の家具で揃えられていた。
「おい、俺の部屋は?」
「チッ」
うん、ですよね。私も気になってたけど、舌打ちは駄目だと思うんだ。
「アーくん、師匠のお部屋にも案内してくれる」
「もちろんですとも どうぞ我が姫も一緒にお越しくださいませ」
私が声掛ければ、ころっと表情を穏やかな笑みに変えるアーくん。私は、信じてるよ。アーくんは、やればできる子。
「こちらが、そこの男の部屋でございます」
同じ二階だけれども私の部屋から一番遠い場所。ガチャリとアーくんは、部屋のドアノブを回してドアを開ける。
「おい、クソ悪魔 いっぺん殺めるか?ああん!!!」
殺風景な部屋に小さな窓、真ん中に干草が適当に敷き詰められている。
「冒険者ですから、野宿よりマシかと思いまして、最高級の藁をご用意させていただきました」
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