15 呪いと結界と私
人差し指に引っかけた鍵をくるくると回しながら鼻歌混じりのアリオスと共に、強引に店主から教えてもらったいわく付きの物件の住所に向かう。
「ほう、これはなかなか ……当たりだな」
煉瓦で作られた美しい2階建ての建物で、まるで絵画のように優雅に佇んでいる。外壁は温かみのある赤褐色の煉瓦で覆われていた。広い庭も、数ヶ月も人の手入れがなされていないとは全く思えないほど整地されている。ガッチリと施錠された門扉。アリオスは、迷うことなく鍵を差し込み解錠すると、両手で押し開けた。
「嬢ちゃん、気づいたか?」
「うわぁ コレ確実にいますよ 私たち歓迎されてませんもん」
一歩足を踏み出した途端、禍々しい敵意と殺意が入り混じった突風が吹き荒ぶ。建物の見た目と相反している。
「悪魔が棲みつく家! 面白い」
「そんな家に私を住ませようなんて、師匠は性格が悪い」
「そう言うな 嬢ちゃんも気に入ってたんだろ?」
最終的に店主が折れたのは、私たちが悪魔払いを請け負ったからだ。厄災を祓って頂けるなら、対価として物件の所有権を譲ってくれると。ただし、何が起きても責任は一切負わないと何度も何度も念押しされた。
私たちは、禍々しい敵意と殺意に怯むことなく建物へと歩を進める。硝子の破片や尖った枝、重量感溢れる石などが私たちへと投げつけられる。最初の追い出しに失敗したことに気がついたのか、今度は物理的な嫌がらせが始まった。
「フン 小賢しい」
アリオスへ目がけ飛んでくる鋭利に尖った木の枝や物量のある石を腰に携えた刀を右手に持ち、そのまま鞘から抜かずにバシンと叩き落とす。全く避ける気ないんだね。
粉々に砕け散った木の枝や石が、後ろを歩く私にピシピシと当たってくる。毛むくじゃらは、私を完全に盾にしているため、全く被害がない。尻尾が左右に揺れているので、お散歩とでも思っているのかもしれない。
「師匠…地味に痛い」
「それくらい、自分で処理できるだろ」
「解りましたよ もう」
面倒くさいと思いつつ、両手を前に突き出した。
「障壁展開 物理攻撃無効 状態異常無効 精神干渉無効」
「へぇ、やっぱ気づいたか」
「地を這うように私たちを取り込もうと悪意満載の呪術攻撃が幾度もされてましたから」
ドーム状にちょっとやそっとじゃ壊れない移動式結界を展開し、上からも下からも包み込む。結界の外は、轟々と強風が吹き荒び、木の枝や石が、ガンガンとぶち当たってくるけど結界には、傷一つ付くことはない。「殺すぞ、呪ってやる」と恨み節まで聞こえてきたが、私たちは歩を止めずに玄関までたどり着いた。
アリオスは、指に引っ掛けていた二つ目の鍵を使って玄関の扉を解錠した。ギギギと重たい音を立てながらゆっくりと扉は開く。
玄関を開けると目の前には広々としたエントランスがあり、高い天井からは薄暗いシャンデリアが垂れ下がって、微かな光が不気味に揺れている。
壁には古びた絵画が飾られており、その中心には若い男性と女性が描かれており、男性は優雅な姿勢で立ち、女性は彼の傍らに静かに座っている。
「俺は、芸術はよくわからんが、結構な年代ものじゃないか?」
「もともとこの家に住んでいた方たちかも知れませんね」
私だって芸術なんて解るわけない。幸せそうに口元は微笑んでいるが、二人の瞳には光がなく歪さが際立っている。
「捨てるか?」
「捨てましょう!」
私たちの言葉を聞いていたのだろう。絵画に描かれた男性の目が、まるで生きているかのようにギロリと動いた。
「殺ロス!殺ロス!殺ロス!殺ロス!殺ロス!殺ロス!殺ロス!殺ロス!殺ロス!殺ロス!」
明確な敵意と殺意を浴びせられるも全く動じることのないアリオスは、唐突に刀を抜いて絵画に描かれた男にグサリと突き刺した。
刀を突き刺された男は、絵画の中から霧のように消えていなくなる。
「逃げちゃったじゃないですか」
『わふっ』
私と毛むくじゃらが抗議の声を上げるもアリオスは悪びれることはなく、フンと鼻を鳴らした。いっそう深まる敵意と殺意。
天井で怪しく光るシャンデリアが、突然グルグルと回転し出した。吊り下げている鎖は、その負荷に耐えられずにバキンと音を鳴らして粉砕した。私た目がけてシャンデリアが、落ちてくる。そして、展開している結界に阻まれ、大きな音を立てて粉々に砕け散った。
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