14 店主と保護者と私
私は、今、マローの街にある不動産屋に来ている。既に3軒目になるこの不動産屋の店主も眉毛を八の字にして、額の汗を拭いながら四苦八苦している。
「アリオス様 こちらの物件は、如何ですか?南向きで部屋全部に窓があり風通しも良く、日当たりも悪くないです」
「駄目だ 却下だ スラムが近い治安が悪すぎる」
「あはぁ うちの師匠がごめんなさい」
しかも、保護者付きで。店主が紹介してくれる物件を悉くダメ出しをしてくれるため、一緒にいる私としてはいたたまれない。
現在、お値段が頗る安い【三日月亭】を常宿として、利用しているのだけど、早めに住み替えをするべきだと言われた。宿を利用しているという事は、流浪者の証。いつ、何時、アルデリアが私だと結びつけられるかわからない。少しでもリスクを減らすならというのが保護者三人の意見だった。
「予算は気にしなくて良い 取り扱ってる物件全部持って来い」
「ハイ 畏まりました」
支払いするの私なんですけどぉ?何度目か解らないため息を吐いてしまうのだった。
「ここは、部屋が3つとキッチンのみか 却下だな こっちは風呂付きだが部屋が一つか……無しだな」
「こ、こちらなんて如何でしょう 風呂、台所もついておりますし、広々とした寝室は、新婚向けかと?」
「ああん? 俺たちは、新婚じゃねえし 結婚もしてねえ 目玉腐ってんのか?弟子が住む家だ」
「し、失礼しました」
用意してくれた不動産のリストを次々と却下していく師匠に、おすすめ物件を提案しただけの店主が睨まれる。ですよねぇ、ですよねぇ。私だって、客観的に見ても、私と師匠が住む家を探しているように見えますもん。
「師匠、私別にお風呂がなくても大丈夫ですよ?」
「駄目だ 風呂が無けりゃ お前アレやるだろ」
「えっと、一人ですし、別に良いんじゃないかなぁ?公衆浴場を利用すれば良いわけですし」
「信用できねえ 嬢ちゃん、そう云ってこの前も俺の目を盗んでガルと素っ裸で、また水浴びししてたよなあ!」
それを言われると元も子もないんですけど。あの日は、暑かったし、汗もいっぱいかいたし、川も近くになかったし、師匠も何処かに行っていて、毛むくじゃらと私は、お留守番だったんだよ。何を言っても怒られる未来しか予測できないので、黙ってリストアップされた物件を物色することにした。
師匠の希望としては、風呂完備と部屋が複数あること、ガル用のお庭があることが条件らしい。私としては、寝る部屋とポーションとか魔道具を作成できる工房があれば十分なんだけど、師匠はお気に召さなかった。それならと、師匠が物件選びにお誘いしたところ、過保護モード全開の保護者のようにとなってしまった。
パラパラとリストをめくり、物件情報に目を通す。その中で一つだけ私の目を惹きつける物件を見つけた。
地下1階、地上2階、間取りも部屋数が2階に4部屋もあり、地下は工房として利用できるワンフロア、1階にキッチン、風呂があり、トイレが各フロアに完備されている。ロビーも広くて、庭もそこそこの広さ。立地も簡素な住宅街で、中央広場やギルドにも近い。気になるのは、大きく赤字で記載された『紹介不可』の文字。
私がリストの物件情報を凝視しているのに気がついた店主が慌てふためき出した。
「そそそそそ、それは、ご紹介出来ません」
リストを私から奪い取ろうとするよりも早く、師匠がひらりと私の手からリストを掠め取る。
「ほほう、良いじゃないの なぜ、真っ先にこの物件を紹介しないんだ?」
「それは………アリオス様に紹介して、何か有れば当方も責任が追えません とにかく、その物件は見なかったことにしてください」
青ざめた顔色の店主が、頑なに紹介ができないと言い張った。
「紹介できないんだったら、理由くらい教えろよ」
「ングッ」
歯を食い縛り、首を横に振る店主とは対照的に目がキラキラとし始めた師匠。絶対に逃してなるものかと言葉巧みに説得をする。
「私たちも理由が解れば、無理を言うつもりはないんです」
師匠が興味がなくなるように協力するから、理由を教えてと願いを込めて助け船を出した。
「本当に、理由を話せば、諦めていただけるのですか?」
「事と次第によっては、俺らも協力するさ」
店主は、がくりと肩を落とし、深い深いため息を吐くと、疲れきった表情で理由を話してくれた。
「いわく付きの物件なんですよ その物件」
立地も設備も申し分のない物件だからこそ、直ぐに買い手が付くけれど、一か月もしない内に再び売りに出されるらしい。
身内の不幸に始まり、大きな事故や怪我、時には犯罪に巻き込まれたり、強盗に襲われたり、立て続けに不幸に家族ともども見舞われ、精神も病んでいく。
「最後は、売りつけた事を罵られて、悪魔が棲みついている呪われた家だと 当方も手放したいのは山々ですが、不幸を招く家をお客様にご紹介するわけにはいきません ご紹介できない事情を解って頂けましたか?」
家は、安らぎを与える場所。家と共に人は幸せな思い出を作るもの。その信念を曲げてまで、不幸を呼ぶ家を売れないのだと店主はアリオスを真っ直ぐに見てはっきりと言った。
「よし わかった 嬢ちゃん、この家に決めよう な!」
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