108 嫉妬の権化とアッパーカットと私
訓練所の中央で、バチバチに睨み合うモナリィとザラエフ。今か今かとアリオスの試合開始の合図を、向き合う二人だけでなく、観戦中の冒険者たちも、息を呑んで見守っている。
私とレンが、戦いを終え、訓練所の端っこに移動しようとする最中、モナリィが私に向かって声をかけてきた言葉を思い返す。
「アルさん 今度は、私が約束を守る番だから しっかり見ててね」
モナリィの勝利宣言だと受け取ったのだろうか、ザラエフも負けじと言葉を発する。
「おいおい 俺だって、簡単に負けるわけにゃいかねえ レンが、負けた 俺も負けたってなりゃ、男の意地がすたるってもんだ 俺が、モナリィを打ち負かして、お前に挑む!」
そんな熱いやり取りがあった直後の今、まさにアリオスが右手を振り上げようとしている。なんだかライバル同士の戦いって感じで、熱くていいね。
チラッとアリオスが、私を見る。じっと見つめている。右手を振り上げたまま、ギンと目を見開いて私を見ている。
「なんなの 師匠」
「ハ…ハハッ……ハハハッ」
レンが、乾いた笑いを浮かべ、一歩そして二歩と私から距離を取った。レンが私から距離をとったことを確認して、アリオスが、なぜかニッコリと笑みを浮かべ、モナリィとザラエフに視線を戻す。
本当に、アリオスは、かまってちゃんだ。はいはい、審判をする師匠もちゃんと見ておきますよ。私の中で、アリオスは、めんどくさいランキング、不動の一位だ。
アリオスが、大きく息を吸い込んだ。モナリィとザラエフの二人の空気も変わっていく。
「始め!」
アリオスの低い声が、訓練所内に大きく響いた。
ザラエフが、一気に後ろへと飛び退き、腰にセットしたスクロールを二つ取り出し、一気に消費する。対するモナリィは、腰にぶら下げた杖に右手を添えて、術式を詠唱していく。
「物理攻撃強化 筋力補強!」
「……集え我の元に 術式展開 スピードアップ」
二人の対照的なバフに冒険者たちの声援が大きくなった。
一気に距離を詰めようとするモナリィが、ザラエフの懐に飛び込む。ザラエフも筋力補強のバフ効果か、近づくモナリィをロングソードを大きく振って吹き飛ばしにかかる。
モナリィの右横をブオンと音を立てて、ザラエフの剣が横切った。モナリィは、軸足に力を入れて、ザラエフの左側に詰め寄り、腰を回転させ左脇腹に小さく左拳でインパクトを撃ち放った。
「ぐはっ!」
ザラエフもやられてたまるかと、モナリィの身体に脇を締めて腕ごと当たりにいこうとするが、モナリィは、地面を蹴って土埃を撒き散らしながら距離を取った。
ヒットアンドアウェイ。
「へえ、やっぱりモナリィは、目が良い」
二日目にアリオスと語った、モナリィの戦い方を思い出す。アリオスは、体幹が良いと褒めていたが、私はモナリィの目の良さにも脱帽していた。
「おおおお!」
「第二試合も熱いぞ!」
「ザラエフ 負けるな」
「モナリィ いけぇ!」
観戦中の冒険者たちが割れるような声援を贈る。ザラエフが、さらにスクロールを取り出した。
「負けてたまるか! 防御力強化!」
モナリィの腰の入ったインパクトを脅威と感じたのだろう。ザラエフが、スクロールを使って防御力アップをしてきた。
モナリィは、右足、左足をバネのように使い分けながら、リズムを刻む。モナリィのツインテールが、ぴょんぴょんと一緒に踊るように跳ねている。
ザラエフが、大きく剣を振りかぶって、モナリィに距離を詰めようと近づく。モナリィは、迎え撃つように腰を低くした後、左拳を大きく上へ打ち上げる。
ザラエフの両腕が大きく上へと打ち上げられた。
「ガラ空き」
モナリィの左右の拳がザラエフに突き刺さっていく。
「はあああああああああ!」
「ぐはっ がっ ごほっ うっ!」
顔、腹、顎、また腹とモナリィの連撃が止まらない。どかどかどかっと鈍い音がザラエフの身体を突き抜けていった。
ザラエフが、腹を撃ち抜かれた後、モナリィはさらに距離を詰めて身体を小さくして、瞬時に左拳を上へと両足をバネのように使って突き上げる。
ザラエフの顎がしっかりとモナリィの左拳に捕まった。ザラエフの大きな身体が、仰け反るように大の字になって地面に倒れた。
モナリィは、まるでウィニングポーズを決めたように左拳を大きく突き上げたまま止まっている。
「はあ はあ はあ はあ」
肩を上下に動かして、浅い呼吸を繰り返すモナリィ。
「勝者 モナリィ!」
アリオスの声が大きく響き渡った。
「おおおおおおおお!」
「モナリィが買った!」
「すげえ!」
「あんな小さな身体で、ザラエフを突き飛ばしやがった!」
大きな拍手と声援が、モナリィの勝利を祝った。
アルさん、約束守ったよ




