107 特大のゲンコツと約束と私
「うおおおおおおおお!」
「興奮したぞ!」
「俺も 締められたい!」
アリオスの宣言の後、訓練所内が、割れるような興奮と声援に溢れた。一部意味のわからない声援も紛れているが、冒険者たちの反応を観れば、モナリィとのお約束は、果たせていると考えても良いだろう。
「ふう よいしょっと」
私は、幸せそうな顔で眠るレンの頭を床に置いて、ゆっくりと立ち上がった。
わなわなと身体を震わせるアリオスに、どうだと言わんばかりに胸を張って見せる。
私のドヤ顔を見て、ツカツカと顔を真っ赤にさせ、青筋をピキピキと浮かべたままの表情で、アリオスは近づいてきた。
「んぎゃ!」
頭上に走る激痛に、短く悲鳴を上げ、私は頭を押さえてうずくまる。なぜか、アリオスから、特大のゲンコツを落とされてしまった。
「ガッハッハッハッハ アリオス! 見苦しいぞ」
エルビスが、アリオスを思いっきり嗜める。観客席に座るエルビスは、腕を組んだまま大きな声で高笑い、隣のジェシカも頬に手を添えて、クスクスと笑っていた。
「うるさい! 公衆の面前で……… くっそう 嬢ちゃん 後で覚えてろよ」
なんたる仕打ち!なんたる暴言!完全に八つ当たりじゃないか。裏切り者ランキング第一位に君臨するアリオスの加点が、止まらない。
バートが、眠るレンのそばにやってくる。穏やかに眠るレンの表情を見て、大きくため息を吐いた。
「アル 頼むから アリオスさんをこれ以上 刺激しないでくれ ほんと頼むから」
バートから、意味がわからないお願いをされ、私は首を傾げるとさらに深いため息をバートが吐いた。
「ほら 起きろ」
「んばっ」
レンの頭にバートが容赦なくバケツに入った水をぶっかける。全身水浸しになって、レンが慌てて上半身を起こした。
ポタポタと髪の毛をつたって水滴が落ちる。レンは、周りを見回して、自分が負けたことを改めて気づいたらしく、ぎゅっと拳を握りしめ、俯いた。
訓練所の端っこにいたモナリィとザラエフが、ゆっくりと中央に歩いてくる。
「レン バッカじゃないの?」
えっと、モナリィがレンを見下ろして、辛辣な言葉を浴びせてしまった。レンもモナリィを一瞬見上げたが、すぐにギリリと奥歯を噛み締めて、また俯いた。ぽたり、ぽたりと落ちる雫が、なんだか涙を流しているようにも見えた。
「まあ、そう言ってやるな レン、よく耐えたな お疲れさん」
バートが、ぽんっとレンの肩を叩いて労った。
「もう片方の目にも 青タン作ってやれ」
もう、アリオスは、黙って。ふんふんと鼻息が荒いアリオスをバートも残念な生き物を見るような表情を浮かべ、左右に首を振った。
モナリィとザラエフが、訓練所の中央で対峙する。その傍らに審判のアリオスが立っている。
私とレンは、訓練所の端っこで二人の対戦を見守るように視線を中央に向けていた。モナリィは、ショートソード。ザラエフは、ロングソードを武器に選んだようだ。二人ともどちらかといえば、後方支援タイプだけど、バチバチと火花を散らしている様子から、真っ向勝負を考えているのだろう。
「アル 手加減なしで戦ってくれて ありがとう」
「うん 約束だったからね」
私たち二人の会話は、それで終了。それで、良いと思う。レンは、これからも戦士としてぐっと強くなると思うから。
「さあ、モナリィの試合 始まるよ 一緒に応援しよ」
「お、おう」
ほんの少し、頬とお耳を赤く染め、レンは真っ直ぐに中央にいるモナリィへと視線を戻す。レンは、モナリィの幼馴染だもんね。しっかりと応援してあげてください。
そして、私も改めてこれから始まるモナリィとザラエフの戦いに、意識を戻していった。
レンとアルは、友情?を育みました




