104 白い雲と激辛と私
みんなの笑顔が、暖かい。
私は、一人、一人の笑顔をゆっくりと記憶していく。そして、大きく息を吸い込んだ。
「ありがとうございました」
モナリィが、私にお手本を見せてくれた。私は、しっかりと頭を下げて、拍手を贈ってくれたみんなに感謝の言葉を伝えた。
さらに拍手が大きくなって、みんなの声援が訓練所の中をこだまする。
「えへへ」
評価なんて別にいらない。だけど、こんな一位なら受け取っても良いと思った。
「ザラエフ!」
「ハイ!」
「レン!」
「は、はい!」
「モナリィ!」
「はい!」
「そして、……アルちゃん」
「う?」
エルビスが、大きく張りのある野太い声で、表彰された私たちの名前を呼んだ。だけど、どうして私の名前だけ、どもっちゃうんだよ。モゴモゴと言った感じで名前を呼ぶと、みんなに威厳が無いって思われちゃうよ。
「本日が、合同演習の最終日だ 最後は、この四名による模擬戦を開催する 他の者は、観客席にて観戦をするように 以上!」
「はい!!」
「え?」
エルビスの言葉に、みんなが大きな声で、返事をする中、私は一人、混乱の極みの中にいた。
「副ギルドマスターのジェシカです みなさん 二日間の演習お疲れさまでした」
エルビスと入れ替わり、壇上にはジェシカが立っている。冒険者たちに柔らかな笑みを浮かべ、労いの言葉を贈るジェシカを縋るような目で見つめる。ジェシカは、そんな私に気づいてくれたのか、さらに笑みを深くして、微笑み返してくれた。
「みなさん、覚えていますか? この合同演習の最終目的を」
最終目的?そんなものあったっけ?そんなことより、ジェシカさん、私、ただいま、猛烈にピンチです!隣を見ても、モナリィは、両手の拳を力いっぱい握り締めているし、レンだって鼻息が、ふんふんと荒い。
「そうです! この模擬戦で、本年度Cランクの新人王を決めます!」
「おおー!!」
『おおー!!』じゃないってば! もう、新人王なんて誰でもいいじゃんか!私の味方は、誰もいないんですか!右を見ても、左を見ても熱苦しくて、息苦しい。私は、天を仰ぎ、空に浮かぶ真っ白な雲に視線を移す。
「ルールを説明します 模擬戦は、一対一で戦ってもらいます まず、一位と三位 次に二位と四位 休憩を挟んだ後、それぞれの勝者が決勝戦を行います そして、最後に勝った者が、本年度の新人王です!」
「おお! レン対アルか!」
「一回戦から、熱いぜ!」
「レン! アルに男の意地を見せてやれ!」
ジェシカの説明にわいわいと盛り上がる、外野たち。全員、裏切り者として顔を覚えておかなければ!
「使う武器は、木製の武器を使ってもらいます 使用していい魔術は、バフと戦いを補助する支援魔術のみです 直接攻撃でなければ、魔術の種類の制限は設けません デバフ、即死魔法は、使用不可です」
ジェシカが、淡々とルールを説明をしていく。
よし、試合始まったら、即降参!これでいいんじゃない?逃げるが勝ち!先達の言葉は、素晴らしい!
「アル!」
レンが私の右肩にガシッと右手を乗せる。
「アルさん!」
モナリィが、私の左肩に左手を乗せる。
「な、なんでしょう?」
二人の圧力に一歩後ろに下がろうとしても、がっしり掴んで離してくれない。
「アル! 絶対にワザと負けたりすんなよ! わかってんな」
「!」
負けちゃダメですか………。
「アルさん! 逃げたりしたら、絶対許さない そんなこと、もししたら絶交だから!」
「!!!」
ぜ、絶交!? お友だちでいてくれなくなるの? 二人からの熱い言葉に、思考が停止して行く。ただ、呆然と立ち尽くす私の耳に、ジェシカによる更なる追い討ちが届いた。
「なお、この模擬戦の審判は、SSSランクのアリオスとSランクのバートにお願いします アリオス、いいわよね?」
「ガハハハハハハハ ジェシカ! わかってんじゃないか 問題ねえ!」
アリオスの即決!
私の中で、瞬時に裏切り者ランキングが算出された。
第四位 ジェシカ
いつもお世話になってるから逆らえない
第三位 バート
アリオスに流されやがって。
でも、面白い錬金アイテムで遊ばせてくれる。
第二位 エルビス
権力を傘に、とんでもないことを言い出した。
ほっとした途端に、巻き込んだ諸悪の根源!
そして、映えある裏切り者ランキング、第一位は、紛れもなくアリオスだ!
もう、完全なるお仕置き執行レベルの裏切りだ。
お饅頭に激辛ペーストを練り込んで、食べさせてやろうか?アーくんに言えば、絶対に喜んで協力してくれるはずだ!
観客席から、柵をヒョイッと超えて、訓練所の中央に歩いてくるアリオスを思いっきり睨んだ。
アリオス、お仕置き確定?
アーくんは、笑う悪魔




