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元Sランク冒険者は、新人!?冒険者として、お一人様を満喫したいそうです  作者: 枝豆子


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10 毛むくじゃらと卵と私

 【ふわふわパンケーキの作り方】

①卵は、黄卵と卵白を分けましょう

②卵黄に牛乳、振るった小麦粉とべーきんぐぱうだーを合わせてよく混ぜましょう

③卵白にお砂糖を少しずつに分けて加えたら固めのメレンゲを作りましょう

④それぞれ作った小麦粉とメレンゲを下から掬いながら少しメレンゲが残るくらいに混ぜ合わせましょう

⑤フライパンにこんもり乗せて弱火で焼きましょう

⑥ほんのり焼き色がついたら裏返して再び弱火で焼きましょう


 ジェシカに教えもらったパンケーキのメモを片手に、まずは卵を割る………。手のひらの中で粉砕された卵の殻。がっつりと握り潰してしまったため、卵白も卵黄もぐっちゃりと飛び散った。今度は、両手でそっと持ち、親指に少しずつ力を加えていく。


 なんていうことでしょう。卵を割る。こんなにも高難易度な作業だなんて知らなかった。膝と両手を地面につき、ガクリと項垂れる。世の中の料理人達の凄さを改めて知った。


『わふっ』


 項垂れる私に近づいてきたのは、先程男性の側にいた黒い犬型の魔物。私の手に鼻を近づけくんくんと匂いを嗅ぎながら、大きな太い尻尾が左右に揺れている。


「おまえ、卵が欲しいのか?」

『わふっ』

「ご主人さまをほったらかして、大丈夫なのか?」

『わふっ』


 私の言葉を理解しているのだろう、木陰で眠る男をチラッと見るも大丈夫だと言わんばかりに元気な返事をする。確かに此処は一面お花畑で見晴らしが良いし、私の危険察知センサーも特に反応はない。見た目からして、熟練の冒険者と見えるので、あの男性は、放置の方向で良しとしよう。


 私が手のひらをヒラヒラと右に左に揺らすと、視線が追いかけていき、両前脚をだだんと踏み鳴らして、『ぅわん』と催促をする。可愛らしいが、今抱きついて仕舞えば、卵だらけにしてしまう。仕方なくそっと両手のひらを差し出すと、ベロリと舐められた。


「しょ、しょうがないなぁ 失敗した卵を捨てるのはもったいないからなぁ おまえ食べるか?」

『わふっ』

「私の練習に付き合ってくれるお礼だよ ご主人様に怒られたら、私から貰ったって言うんだよ」


 黒い毛並みの大きな魔物。毛並みの長さからしてフェンリルっぽいが、特徴的な銀毛ではない。大きな太めの尻尾を左右に振っている。そして、12個の卵を犠牲にして、ようやく無事に1個の卵を割ることに成功した。


「なんだよ、卵が貰えなくて残寝なのか?私だって、パンケーキまでの道のりがこんなに遠いとは思わなかったんだよ」

『くーん』


 作業をしている台に前脚と顎を乗せ、残念そうな表情をする魔物の頭をわしゃわしゃと撫でる。毛むくじゃらで、とっても可愛らしい。次の行程は、卵白と卵黄を別けるだ。ボウルの中の卵を卵黄だけスプーンで掬おうとすると、つるんと逃げる。逃げる。逃げる。そしてまた逃げる。結局、卵黄が割れて、毛むくじゃらのオヤツとなってしまった。


 両膝、両肘を地面について項垂れる私に、追い討ちをかけるように魔物が後頭部に前脚を乗せる。


「慰めてくれるな 卵をたくさん食べてお腹いっぱいのくせに」

『わっふん』


 卵だらけの毛むくじゃらを恨めしく見つめる。尻尾が大きく左右に揺れていることから、とってもご満悦そうで何よりだ。


「ガル おまえ何やってんだ?」

『わふっ!』


 私の背後から低めの声で声をかけられる。ガルと呼ばれた毛むくじゃらは、背筋をピンと伸ばして背後の男性を見つめている。そんな卵だらけで、カッコいいポーズをしても締まらないんだよと心の中でごちておいた。


「嬢ちゃん悪いな ウチのガルが迷惑かけたみたいで」

「いや、迷惑なんてかけられてない こちらこそ卵を勝手に与えてしまいすまない」


 膝をぽんぽんと払いながら立ち上がり、男性に向き直り、ペコリと頭を下げた。予想した通り、木陰で眠っていた男性だ。立ち上がると私よりも頭二つ分くらい背が高い。黒のガーディアンコートが、長身によく似合っている。腰にぶら下げた日本の刀は、業物と呼ばれる逸品と思われる。武器に見合った強さを感じさせるため、きっと名のある冒険者なんだろう。


 お詫びも伝えたし、きっと毛むくじゃらも怒られることはないだろう。私は、気を取り直してパンケーキを作るため、卵割りに挑戦を始めた。


「ふん ガルが懐くわけだ ところで、嬢ちゃん そんなに卵を割って何作るつもりなんだ?」

「見ての通り、パンケーキだけど?」

「マジか? 卵割だけしかしてねえじゃねえか」


 くぅ!ぐうの音も出ないとは、こういうことだろう。台の上には、卵の残骸しか残っていない。かろうじてパンケーキと言い張れるのは、ジェシカから教えてもらったレシピがあるからなわけで。


「パンケーキだよ」


 背後で覗き見る男が、呆れていようとも、クツクツと笑っていようとも、毛むくじゃらが『わふっ』と短く吠えようとも、パンケーキだと言い切った。


 




モチベーションにつながりますので、

楽しんで頂けた方、続きが気になる方おられましたら、

評価、ブックマーク、感想、宜しくお願いします!

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