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9.ルファーブル

ルファーブル伯爵については帰路の船内でたっぷりと教えてもらえることになった。


「母の生家のルファーブル家と、エニシャ姫の末裔のルファーブル家が同じだということはご存知だったのですか?」

「王家では以前よりそのように把握しています」

「母を幽閉や処刑をせずに生かしているのは、母が囮だからですか?」

「それもあります」

「······私も監視の対象なのですよね?これまで気がつかずに勝手に色々動いてしまって申し訳ありませんでした」


クリフト様は従弟として接してくれているのは嘘ではないけれど、同時に私への監視役でもあったのよね。


「今後はなるべく気をつけます」

「なるべく!?そこは絶対って言うもんだろ普通は」

「だって何があるかわからないじゃない、絶対なんて約束はできないわ」


クリフト様の突っ込みにレノ様まで笑いを漏らした。


「見かけによらず、なかなかお転婆のようですね」

「だろう?ロマンス小説を手本にするような困ったお嬢だよ」

「ロマンス小説?」


クリフト様が私が戸籍を買った経緯を説明すると、目を見開いた後にジュリアン様のようにレノ様も笑った。


もうこの件で私をいじるのはやめて欲しいわ。


「ジュリアンが言っていた通りですね」

「何て言っていたのですか?」

「毒気を抜かれると」

「そりゃあ、身を隠すのにロンダがロンダの店にいたんだぜ?」

「ふははっ」


レノ様は更に笑った。


「あら、クリフト様だってはじめて家に来た時、部屋の窓をぶち壊して入って来たんですよ。宮廷魔導師がですよ!胡散臭いのなんの」


「流石、従姉弟同士ですね」


話を聞く限り、ジュリアン様とレノ様は仲が良さそうだ。


「ご兄弟で皆様仲が良いのですね」

「そうですね。できればあなたとも協調関係を築きたいと皆願っていますよ」

「······皆様がですか?」

「ええ。ルファーブルの勢力からも守りたいと考えています。それは父も同じです」


······王弟殿下も? それは本当だろうか。


「伯爵が母に私を産ませた本当の目的はなんですか?」


母の背後に黒幕がいるのではないかと、母も自分もエニシャ姫の血脈と知ってからは思っていた。


「ノーマ姫の異母妹エニシャ姫の血筋を我が王室に入れ、そして我が国を乗っ取りたいのでしょうね」

「母も私もエニシャ姫の血脈なのですね」

「あなたはノーマ姫とエニシャ姫の両方です。ですからルファーブルがあなたを王室に入れようという動きもまだあります」

「そんな···!」


私が王室に入るだなんて、とんでもない!


「リンジーはルファーブルの血筋だよ、庶子だけどね」

「ええっ? そういえばあなた、リンジー様と良い仲になっていたりしないの?」

「探りを入れただけだ。リンジーには個人的関心はゼロさ。腹黒女は好きじゃない。あいつは多分レイリーとは結婚しないぜ」

「どうして!?」

「他にも沢山男がいるからな」


私は絶句した。


「ルファーブルの手駒として利用されているんだろうけど、元々あの女は尻軽だな」

「ブレイク侯爵が大損した投資先もルファーブルです」

「なっ···、 じゃあブレイク侯爵は利用されたの?」

「そういうこと。レイリーは知らないけどな」


段々聞くのが恐ろしくなって来てしまった。


「······カールソン侯爵家は?」

「今のところはグレーだ」


ああ、やっぱりそうなのだと腑に落ちた。


「······私が王族の血を引いているのを知っているのに、酔った勢いで嫁ぎ先を決めてしまうとか、いくら生母にそう言われたからって、嫁いだらすぐ縁を切るというのが、どうにもおかしいというか······」

「そうですね、通常ならば丁重に最後まで面倒を見るものですからね」

「それができない理由か事情ができたのでしょうか?」

「それは現在調査中です」


王家の情報網早い·····でも怖い。


「リンジー様がレイリー様と結婚する気が無いなら、私の白い結婚の入籍を妨害したのは何のためだと思いますか?」


「ごめんねぇ」と口先だけの謝罪をした時の白々しい演技の彼女の顔が忘れられない。


彼女がルファーブルの庶子だったなんて。

私には、味方のふりをした敵に思えて仕方がなかったのよね。


「それはおそらく、女性特有のものではないかと」

「へっ!?」

「ああ、それな。単にリンジーの個人的な嫌がらせだろうな」

「ええ?そこまでする!?」

「そのような女性は、毒気の塊なのでしょうね」



往路はひとり旅だったので4日間の乗船は長く感じた。

復路は三人で話をしたり一緒に食事をしたりだったせいか、退屈もせずにあっという間に過ぎてしまった。



下船するために通路へ並んだ際に、兄ニールとぶつかってしまい、私は驚いて身構えた。


帰路まで同じ船だったとは。


兄は私を見ても私とは気がつかなかったようだ。


「失礼しましたレディ、お気をつけて」


そう言って爽やかな笑みを残して兄は船を降り、そのまま振り返ること無く、人混みに紛れて見えなくなった。



今度こそ、本当にさようなら。



忘却魔法が効いていることを実感し、私はいくばくかの寂寥感を噛みしめた。

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