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7.兄達

血の繋がった兄にはじめて会った。


でも、クリフト様に会った時のような感覚にはならなかったのはなぜだろう。


緊張していたから?


二人きりではなくて、まわりに他の人がいたからだろうか?


正妃の子である兄を、気安くお兄様とは呼べない。


ジュリアン様の「続柄で言えば兄」という言葉の通り、本当にただそれだけなのだ。


血の繋がりがあったとしても、そこには壁がある。


クリフト様が連れて来たジュリアン様は二番目の兄だ。私にはあと二人兄がいるのだ。


長兄はアレクシス様。そしてもう一人の庶子の兄はレノ様。彼は異国の血を引いているのだそうだ。


ロンダさんの店は王宮御用達、魔法研究所とも取引があるので、レノ様にはそのうち会える筈だとクリフト様は言っていた。


姉二人は遠方の国に嫁いでいるから、会う機会はないだろうし、きっと私になど会いたいとは思っていない気がする。



「ロンダさんは、私を産んだ母を知っているのですか?」

「ああ、あの性悪ね」


ロンダさんは苦々しい顔をした。


「私は母に一度も会ったことがありませんが、会いたくないほど憎んでいます」

「王族を瀆した罪深い女さ」

「瀆したとはどういうことですか?」


母と王弟は恋愛関係ではなかったの?


「あの女は薬物を飲ませた上に魔法で拘束して無理やり関係を持ったんだ」

「······母は父を襲ったということですか?」


なんということを······。


そんな経緯で生まれてしまった私は一体なんなのだろう。


「······私は本当に望まれない子、生まれてはいけない子どもだったのですね」

「ごめんよ、こんな話。でもあんたに罪は全くないんだよ」

「庶子の兄を産んだ方は?」

「結婚前から付き合っていた令嬢だよ。政略結婚をしないとならなくなって、やむを得ず愛妾になったんだ。最も寵愛したのはその人さ」


正式な愛妾ならば、庶子とは言っても私とは大違いだ。

しかも愛情があって生まれて来ているのだから。


「なぜ私の母はそんなことを?」

「花嫁候補の令嬢の一人だったんだよ。自分が選ばれなかった腹いせに既成事実を作って側妃にでもなるつもりだったんだろうよ」

「そんな······」


私は恋愛の末に生まれたのではなかったなんて······。


私は、母の当てつけ、仕返しの道具のようなものだ。それも使い捨ての。


母の実家のルファーブル伯爵家はその責任を問われ爵位を剥奪、領地も没収された。

それで祖父母すら私を引き取れなかったのかもしれない。


私は自分に兄姉がいると知って喜べる立場にない。


私は王族と関わってはいけない人間だった。


母は咎人で、私は咎人の子なのだ。




ロンダさんに謝罪と別れを告げて私は街を出た。


他の国で暮らせば、この国の王族とは滅多に会わず、関わらずに済む。

姉君達が嫁いだ国を避ければいい。



無事に出国審査を終えて船に乗った。


やはり戸籍を買っておいて良かった。侯爵家で身につけた外国語もこれからは役に立つ。

それは本当にありがたかった。


私のことを誰も知らない国で暮らそうと思っている。


これではまるでリンジー様に無理矢理読まされたロマンス小説のような展開になって来てしまっていて、妙な笑いが込み上げて来る。


でも、ロマンス小説とは違って、そこに恋愛はない。

私は誰とも恋はしないし、結婚もしない。

自分の子どもを作ってはいけない人間だからだ。

王家が最も疎む存在の私の血を残してはいけない。


結婚した母は、夫の子爵の子を産んでいるのだろうか?

だとしたら、そちらにも私の弟妹達がいるのだ。


母の兄弟がいれば叔父や叔母がいる筈だ。


そう考えると私の血縁者は想像以上にいるのね。


ただ血が繋がっているだけに過ぎなくても。


人と人が出会って子をもうけるということは、もの凄い繁殖力なのね。

そこに善人も悪人も関係なく、ただ繁殖してどんどん増えてしまう。


私はそれがなんだかとても怖くてゾッとした。




乗船してから4日目、旅券を見せて入国審査を終えた。


ここは、私のノーマという名の元、魔女ノーマの生まれた国アマポラッサ。


ここを経由して他の国へ行くつもり。


クリフト様ならノーマの国は探すと思うから、ここには長くはいられない。


ノーマのゆかりの土地を散策してからまた次の国へ向かう予定でいる。


ノーマ姫はその昔、異母妹エニシャ姫と共にポーラシュ王国へ嫁がされた。ラミリュク王がハーレムを廃止した後、妹姫はこのアマポラッサへ帰国したと言われている。


その後どうなったのかはポーラシュではほとんど知ることができない。

だから少しでも知ることができたらいいなという、ちょっとした興味から、王族の資料館へ立ち寄ろうと思ったの。


港から馬車で四十分ほどのところにそれはあった。

古い煉瓦造りの高い塔が目印になっている。

廃城を元に造られているようだ。


百年以上前に王制が廃止になったこの国に、十代前の王家の正式な資料はちゃんと残っているのだろうか?

私は王家のロマンスには興味はないけれど、歴史には興味があった。



それはそれとして······、


まさかこの資料館へ入ったところで、あの人に再会するとは思っても見なかった。


私の見間違い?


そうでないのならば、どうしてここにいるのかしら?


ニールお兄様が。

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