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6.ノーマとロンダ

私は街の薬草店での仕事を見つけた。


その店は、薔薇の花びらのような淡い桃色の髪をした恰幅の良い老女が細々と独りで営んでいた。


中心街の喧騒を離れたひっそりとした場所にその店はあった。

良く育った草花に覆われて窓が隠れてしまいそうな、古びた佇まいの一軒家。

香草の良い香りに誘われて店に入ると、外から見るよりも店内は広く、お茶とケーキが楽しめるスペースまであった。


試しに特製シフォンケーキとハーブティーを注文した。


「ハーブティーはこちらで選ばせてもらうけどいいかい?」

「はい、おまかせします」


スッと染み込むような優しい香りのハーブティーは、歩きまわった疲れをほぐしてくれた。


ふわふわのシフォンケーキも、よく見ると薬草が練り込まれていた。


何口か食べると身体が軽くなったような気がした。しかも薬草のクセが無くて食べやすい。


これは魔法が使われているのだろうか?


「これは何の薬草ですか?」

「風の落とし文だよ」

「はじめて聞きました。でもとても美味しいです」

「そりゃ良かった」


住み込みで働く人を募集という店内の貼り紙を見つけ、早速雇ってもらえるよう頼んでみたら、あっさり決まった。


「あんた、魔法が使えるね」

「どうしてわかったのですか?」

「ふふふ、魔女同士よろしく頼むよ」


どう見ても訳ありにしか見えない私が、「あぶなっかしくてしょうがないからねぇ」と店主は薄紫色の目を細めた。

しかもその老女はなんとロンダという名だったから驚きだ。


この店の名前もまさかの「ロンダ」で、気がついた時にはもう遅かった。


やっぱりここで働くのやめますなんて言い出せないわ。


絡まっていたつる薔薇のせいで看板が見えなかったんだもの······!



「ロンダさん、これからよろしくお願いいたします」

「よろしく、ノーマ」

「あの、ロンダという名前にはどんな意味があるのですか?」

「薔薇の花、薔薇の花びらという意味らしいけどね」

「······そうなんですね」


自分で名前を捨ててから意味を知ることになんて。


カールソン家の人達がロンダという名前をつけてくれた時には、そこに私への祝福や愛が少しはあったと思っていたい。


もう名乗らない名前だとしても。





「ノーマ、これを追加で並べておくれ」

「はい」


ロンダさんに指示されたように商品を並べていると、背後から聞き覚えのある声がした。


まだ開店前だったので驚きながら振り向くと、そこに立っていたのはクリフト様だった。


「どうしてここに?」

「あのさ、君って本気で隠れる気とかあんの? それとも見つけて欲しくてわざとなのか?」


クリフト様は呆れたように私を見つめている。


「これは本当に偶然なのよ! 看板がつる薔薇で隠れて見えなかったんだもの」

「ブフッ、なにそれ、トロすぎだろ」

「クリフト、彼女がそうなのか?」


クリフト様よりも低い声が響いた。


「あんた達、こっちに座りなさいな」


いつの間にかお茶が用意されていた。


ロンダさんは開店を知らせる立て札を裏返した。


「ロンダさん、すみません」

「ぶはっ、ロンダがロンダ呼び!?」

「私はロンダじゃなくて、ノーマよ」

「ノーマ!? なんで?」

「いいじゃない、気に入ったからよ」


ちらりとクリフト様の連れを見ると、私とのやり取りを面白そうに聞いている。


「クリフト様、こちらの方は···?」

「君の兄さんだよ」

「······しょ、庶子の方の?」


私は恐る恐るその人の方へ顔を向けた。


「·······」


確かに、私と同じ瞳の色をしている。


私と同じ血が半分だけど流れている人。


家族、兄······、その言葉を聞いただけで今は敏感に反応してしまいそうだ。


こんなに自分との血の繋がりを求めている、繋がりに飢えている状態の私はどうかしてしまったのではないか······。


「は、はじめまして、ノーマです」

「ジュリアンだ。続柄で言えば君の兄になる。庶子ではない方だ」

「も、申し訳ありません、失礼いたしました」


ロンダさんが黒スグリのパイを運んできた。


「はい坊っちゃま、いつものやつですよ」

「ロンダ、坊っちゃまはよしてくれ」


私は驚いて尋ねた。


「お二人はお知り合いなのですか?」

「ロンダは元宮廷魔導師だ。そして父上の乳母だった」

「······私、知らずにとんでもないところへ来てしまったのですね」

「本当にあり得ないよ。俺に何も言わずに消えるなんてさ」


クリフト様は怒っていた。


「ごめんなさい、急に家を出ることになって、知らせている余裕がなかったの」

「リンジー達もカールソン家に戻ったとばかり思っていたから驚いていたぞ」

「落ち着いたら知らせようと思っていたわ」

「それにしても、令嬢が戸籍を買うなんて。一体どこで知ったんだ?」

「······ロマンス小説で読んだのよ」


「フッ」

庶子ではない方の兄が吹き出した。


「ハッハッハッ」

ロンダさんも続いて大笑いした。


そんなにおかしいことかしら!?


クリフト様は、「腹が痛ぇ」と涙目になっている。


「坊っちゃま、こりゃ放っておけないね」

「ああ、そのようだ」

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