番外編1.リンジーの恋愛講座
「ねえロンダ、どこまで読んだの?」
「えっ?ええと、第二章の途中ぐらいまでかしら」
「遅いわよ! もっと早く読んでくれなきゃ話ができないじゃないの」
リンジー様の恋愛講座はスパルタだ。
私がレイリー様と白い結婚をしている間、リンジー様に侯爵令嬢クラスの礼儀作法を教えることになったのだけれど······。
「じゃあ、お礼に私があなたに恋愛講座をしてあげる」
リンジー様なりのギブアンドテイクをごり押しされてしまった。
別に恋愛講座を受けたいとは微塵も思っていなかったから。
だって、その教本が流行りのロマンス小説だったのよ。
私がロマンス小説はあまりというか、ほとんど読んだことが無いと知るとリンジー様の瞳がなぜか輝いたの。
そうしたら、これでもかと言うほど、これとこれを来週までに読めという課題が毎週のように出された。
そのせいで自分の読みたい本を読む時間が削られてしまい、ストレスになってしまった。
でも、ブレイク侯爵家の未来の正妻様のご機嫌を損ねるわけにもいかず、斜め読み、飛ばし読みで、なんとかあらすじを言える程度には読んだわ。
でも、リンジー様にはどの部分に感動したかとか、どのシーンにときめいたかとかをしつこく聞かれて困ってしまったわ。
仕方がないので適当に取り繕って答えていた。
「ええ!? そんなシーンあった?」「そこじゃない!」「どこ読んでるのよ」等々、ことごとく突っ込みを受けてしまった。
「ねえ、あなた男性とキスしたこと無いの?」
「えっ······?」
突然そんなことを聞かれて狼狽えてしまったわ。
「ありますけど······」
「いつ!?誰と?正直に言って!」
リンジー様の食いつきが凄い。
妖精のような淡い水色の瞳がギラギラしている。
えええ?!そんな、私の黒歴史···いえ暗黒の記憶を甦らせないで欲しいわ。
まさか、はじめてのキスが自分の兄とだなんて······誰にも言えるわけがない。
「兄のように······慕っていた幼馴染みと」
そう誤魔化すしかない。
「それは何歳の時?」
「15歳です」
そこは嘘ではない。
「ふうん······そうなの」
リンジー様は突然興味を失ったのか、それ以上聞いて来なかったので助かった。
「じゃあ、今度はこれとこれを読んでちょうだい」
手渡されたのは、官能小説かと思うような表紙の本だった。
「これもロマンス小説なんでしょうか?」
「そうよ」
「リンジー様はもう読んだのですよね?」
「読んだに決まっているじゃない、初心者用は終わりで、これからは上級者用よ」
上級者······?
不必要に胸元のはだけた男性や、なぜなのか上半身裸の男性の表紙に、読む前から不安になる。
全く読みたいとは思えない。
けれど、飛ばす頁(恋愛描写部分)が大幅に増えて、その分早く読み終えることができて助かったわ。
男性主人公の歯が浮くような台詞が登場する度に、これを現実に恋人に言う人っているのだろうか? という疑問しか膨らまない。
うわあ···と思ってしまうと、私は高速でその頁を飛ばしてしまう。
だから私は逆にリンジー様に質問してみたの。
「リンジー様は、実際に本と同じことを言われたことはありますか? レイリー様はどんなことをいつもリンジー様に言っているのですか?」
人様の恋愛にそれほど関心もないけれど、身近にいる人に聞けるならば聞いておきたい。
「あら、私はちゃんと言われているわよ」
「······そう···なんですか?」
それが本当だとしたら、なかなかレイリー様は凄いのね!?
普段のレイリー様からは全く想像ができないけれど、私に対する態度とリンジー様に接する時は違うだろうから、多分二人きりの時は彼は情熱的なのかもしれない。
それが恋するということなのかもしれないけれど。
恋をしたら、いつもとは違う自分になる、なってしまうものなのね?
私の兄もあんな風になるとは思ってな······
あっ、嫌だ、暗黒の記憶はもう忘れなきゃ。
私は愛とか恋とかはまだよくわかならない。
白い結婚を無事終えたら、とにかく早く私の黒歴史を塗り替えたいわ。
(了)
ハッピーバレンタインデー!
素敵な週末をお過ごしください!?




