10.王宮へ
「むっ、無理です」
「あなたを監視及び保護するには、これが最善です」
「でっ、でも、私は王家の方々には蛇蝎のように疎まれているのではありませんか?レノ様やジュリアン様のような方だけではないですよね!?」
「歓迎するって言ってんの、わからないかな。ああ、早く帰りてぇ」
下船した後に食事を済ませると、なんと王宮へこのまま直行すると言うのだ。
船を降りるまで一言もそんなことを言わなかったのに。
「船で言ってたら、降りた途端に逃げるだろ?」
「うっ······はい」
「ノーマ様、私やクリフトがついていますから、さあ行きましょう」
レノ様に手を差し伸べられて、仕方なく手を取った。
「······よろしくお願いいたします」
借りてきた猫のようにしょんぼりと小さなくなって馬車の中に座る私を、フフフッとレノ様は笑った。
「大丈夫、あなたは普段通りにしていればいいのです。あなたには王族達の毒気を抜いてもらいましょう」
デビュタントもしていない人間が王城へ行くなんて、心臓が持たない。
しかも訳あり令嬢の私への視線が怖い。
自分の血族に会えるのは、ほんの少し楽しみではあるけれど。
到着すると即座に侍女達に預けられ、湯浴みの後に分不相応なドレスに着替えさせられた。
「馬子にも衣装」
侯爵家でも、それなりのものは来ていたのですけれどね!?
「良くお似合いです」
「全然落ち着きません······」
「何でデビュタントしていないの?」
「私なりの王家への配慮です」
そのためにわざと家族には内緒で風邪を引いた経緯を話すと、レノ様は「今後ともその調子でお願いします」と笑いを堪えていた。
レノ様にエスコートされて、ある一室に通された。
「そなたがロンダ···いや、ノーマか」
「左様でございます。王弟殿下にお初にお目にかかります」
私は臣下の礼を取りながら緊張で身体が震えていた。
「良い、顔を上げなさい」
王弟殿下はジュリアン様に良く似ていた。ジュリアン様が歳を取ったらこんな感じになるのかもしれないと思えた。
探るような視線が鋭かった。どうやっても警戒されてしまうのは、出自上仕方がない。
本来ならば顔すら見たくないであろうから、殺されないだけマシだと思うことにした。
殿下のそばに立っているのが長兄アレクシス様だろうか。
こちらも表情が固い。正妃似なのか殿下やジュリアン様とはあまり似ていなかった。
「警護のために滞在を許可する。後はレノに任せたぞ」
「お任せください」
殿下とジュリアン様、そしてアレクシス様には、同族というあの感覚は現れなかった。
これがお父様という感動は全くなかった。
それでも家族との対面が果たせたことは、多少すっきりできた。
とにかく緊張したので、自室へ戻った時はどっと疲れに襲われた。
「アレクシスは義母似なのですよ」
私はクリフト様とレノ様と会った時に感じた感覚を、殿下と二人の兄に感じないことを伝えてみた。
「それはきっと魔力量の違いでしょう。私とクリフトは一族の中でも多い方なので、そのような反応になったのかもしれません」
「お姉様達に魔力は?」
「微弱ですがありますね。皆個人差があります。庶子でも魔力量が多いとその分王族としての評価は上がります」
「あの、正妃殿下は···?」
「私の母は存命ですが、義母は二年前に亡くなりました。それでよりあなたを王宮に迎える流れができたのですよ」
王宮へ来て二週間ほどが過ぎた。
監視と保護対象だとしても、王宮に一室を与えられるなんて恐れ多い。
なんといっても、豪奢な部屋が落ち着かない。
カールソン家やブレイク家も侯爵家としてそれなりの豪奢さはあったけれど、ここはその比ではないのよね。
「当たり前だろ、姫なんだから」
クリフト様は王宮でも相変わらずの口調だ。
「私って姫扱いなの? 監視が必要な罪人の娘みたいなものでしょ、それに囮なのに」
「まあ、囮と言えば囮だけどな。それとカールソン侯爵家はルファーブルと繋がっていたぞ。これでグレーじゃなくなった」
嫌な予想が当たってしまった。
「カールソン家が二年前にブレイク家に縁談を持ちかけたのは、君を王宮へ行かせないためだ。王家の動きを知る奴と繋がってるってこと。まさか白い結婚でしかも入籍しないとは思わなかったんだろうけどな」
「カールソン家はどうなるの?」
「泳がせておく。リンジーが勝手をするとか、ルファーブルの統率が取れてなくて、それぞれの思惑で動いている。一枚岩じゃないから余計にやりにくいんだよ」
ブレイク侯爵家は白だとしても、甚大な迷惑と被害を被ってしまった。
侯爵様もレイリー様も気の毒だ。しかもリンジーまで一味だったなんて。
隣国王家に連なるルファーブルの家門再興のためなら手段を選ばないということなのかもしれなくても、これは酷すぎる。
「ねえ、リンジー様にはまだ魔法を教えに行っているの?」
「ノーマが家を出てすぐに、もういいって言われたよ。あれも君への対抗心でやってただけなんだろ、まったく嫌な女だぜ」
「リンジー様の魔力はどうなの?」
「あれは魔力があるふりをしているだけだな。魅了の魔法を使っているのかと疑ったけど、あれは天性の手練手管だな」
クリフト様は肩をすくめた。
「私の祖父母達はどうしているの?」
「祖父母は既に亡くなっている。君の伯父がルファーブルを仕切ってるけど、求心力が無くてバラバラらしい」
「それで一網打尽とはいかないのね」
「そういうこと」
レイリー様との縁談がカールソン家が仕掛けた結婚だったなんて。
なんかおかしいなとは確かに思ったけど。
貴族の派閥にも色々あるにしても、ルファ-ブルのやり方は恐ろしい。
政略結婚はよくあるものだけれど、ルファ-ブルは獰猛過ぎるような気がしてならなかった。
自分がその血統の末裔であるのがたまらなく嫌だ。




