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1. 私はとにかく兄から逃げたい

数ヶ月前、父が飲みの席で意気投合した相手と、酔った勢いで相手の子息と私を結婚させる口約束をしてしまった。


お互いに侯爵家で領地運営も良好、見目も悪く無い優良物件。


兄以外は賛成で、本日只今結婚式。


バージンロードを父にエスコートされている花嫁が私。


でも、結婚する喜びや感激は残念ながらゼロ。


父は感涙を浮かべ、母もうるうる、兄は······んん?


ちょっと、お兄様ったら、まるで葬儀へ参列する遺族のような沈鬱な表情はやめて!


これでも、私のハレの日なんだから。



そんなに私を誰かに嫁がせたくないなら、はっきりそう言えばいいのに。


もしもお兄様がそれを知っているならば······ね。


私はカールソン侯爵家の家族とはこれっぽっちも血が繋がっていない。


ぶっちゃけ、私は不義の子なの。


私の生母は母の幼馴染みの伯爵令嬢。事情があって私をカールソン侯爵家に赤ん坊の頃に養女に出したのよ。


王弟殿下と伯爵令嬢の道ならぬ恋の副産物がこの私、ロンダ·カールソン。


生母はとっくに別の男性と結婚し、辺境の子爵夫人になっている。


そのことを、三年前のデビュタント直前に母から打ち明けられた。

その時、生母から預かっていた私宛の手紙も渡された。


それで私はデビュタントを諦めた。

王族が勢揃いする夜会には私は行けないから。


私は薄着で何時間もバルコニーで夜風に当たり、わざと風邪を引くことに成功した。


「ぶわっくしゅん」


お陰で一週間寝込んだけど。


嘘や仮病を使うのは、ここまで育ててくれた家族に申し訳なくてできなかった。

私と一緒にダンスを踊るのを心待にしていた兄はことさらがっかりしていた。


私が実の妹ではない、兄はその事実を知らない。


母がそれを兄に知らせないのは、知ったらより溺愛が暴走、エスカレートするのを危惧したからよ。

私も激しく同意できるから、母の判断は正しいと思う。


それぐらい私への兄の溺愛は度を越していた。


私のファーストキスは兄とだ。


幼い子ども同士のじゃれ合いや挨拶の軽いキスとは全く別のものだった。


年頃になるにつれて、私は兄の重い愛が怖くなってしまった。


貞操の危機すら感じてしまうわ。


それで、できるだけ早く嫁がなければと思うようになったの。


「お兄様、私はあなたの妹なのですよ?」

「そんなのはわかっている」


妹ではないと知っていてならばまだわかる。

でも、知らずにここまでやるのは尚更始末に悪いわ。


「私はお兄様の恋人や愛人にはなりません。どうか早く良い方を見つけて結婚なさって下さい」


兄が兄妹の関係を越境する前に、この家を出て行かなくては。



私は色恋で常軌を逸してしまう人が怖い。


既婚の王族と恋に走った生母も、兄妹の関係から逸脱しそうな勢いのこの兄もそうだ。



生母の手紙には、私を愛していると書いてあった。


愛しているなら、なぜ私を自分で育てないの?


愛しているなら、なぜ他の人と結婚できるの?


愛しているなら、なぜ名付けてくれなかったの?


戸籍の上では私は養女ではなくて実子なのは、生みの親が私の出生届を出していなかったからよ。


そして私は名前すらつけてもらえなかった。


ロンダという名は、今の両親が私に与えてくれたものなの。


愛していると言われても······


そんな生母の言う愛を、どうやって信じることができるの?


本当に愛しているのなら、 愛とか恋とか口先で言うまえに、まっとうな行動で示して欲しい。


自分がやりたい放題やって、その後始末は人に丸投げなんて、それのどこに愛があるというのだろうか。


自分が病気で育てられないとか、亡くなってしまっているというのならまだわかる。


自分だったらどんなに貧乏になろうが、苦しくて大変だろうと、後ろ指をさされても自分で育てる。


色恋の美味しいところだけ貪って、それ以外はまるっと放棄する、そんなのは絶対に愛じゃないわ。



私は生母の愛も実父も信じない。


そして私をじわじわ追いつめる兄の愛も信じたりはしない。



とにかく私はお兄様から逃げたい。


この結婚は渡りに船だったの。




『では、誓いのキスを』


神父に促され、夫になったレイリー·ブレイク侯爵令息が私の額にキスをした。


この結婚は、お互いに白い結婚と知った上での契約結婚だ。


今日ここに、神の前で嘘の愛を誓った夫婦がまた誕生したわ。


愛していないけど、お互いの利害関係で期間限定の結婚を結ぶ。


これこそが契約結婚というものよね。

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