嫉妬。
僕の父さんは単身赴任中だ。
普段の僕の家は、母さんと姉ちゃんと僕の三人で暮らしている。
年末、父さんが帰ってきた。
音楽会以来だった。
「ただいま〜」
と父さんがリビングのドアを開けた瞬間、蜘蛛の子散らしたようにみんながリビングから消えた。
姉ちゃんはあからさまに機嫌が悪くなっている。
僕は年内最後のバスケの練習に行こうと、玄関で靴を履いていた。
「ロク、今からバスケか?」
と父さんがお土産を袋から出しながら言った。
「うん。行ってきまーす。」
「父さんも後で練習見に行くわ」
「げっ。来なくていいよ」
「おいおい。んなこと言うなよ〜」
と言いながら、父さんが僕のおしりをポンと叩いた。
本当に来ないでほしかった。
僕はこのユニティでの残された練習の日々を一日一日大切に、そしていつも通りに過ごしたかった。
誰にも邪魔をされたくなかった。
僕が体育館に着いてランニングをしていたら、父さんがやってきた。
今はコーチなんてしてないくせに、ジャージを着てくるところがいちいちムカついた。しかもちょっとオシャレなジャージを着ている。
コーチとガハガハ笑いながら話す父さん。
そうゆうところが本当に嫌いだ。
黙って見てろよ。とイライラしていた。
僕が蒼とパス練習していると、
「可愛い子がいるなぁ。何年生?」
と父さんが話しかけてきた。
「あっち行ってろよ」
と言うと
「一年生です!」
と蒼がニコニコ笑って答えた。
「そうか。一年生か。」
と蒼の頭を撫でた後、父さんは栞さんに気付き、栞さんの横に座って調子に乗ってガハガハ笑って話し始めた。
父さんの笑い声が響く。
父さんのふざけた話に栞さんも笑っている。
その二人の姿を見て、僕のイライラは益々ヒートアップした。僕はイライラのせいで、いつの間にかドリブルの力も強くなっていた。
その姿を見て
「ロク、怒ってるの?」
と彩葉が聞いてきた。僕は彩葉を無視して、ひたすらフリースローの練習をした。ゴールに入らない度、
「下手くそー!」と父さんが大きな声で言った。
いつもバスケの練習が終わったら央大と歩いて帰るのだが、父さんが車で来ていたので父さんの車で帰った。央大は他のメンバーたちと歩いて帰った。
車の中でも父さんはベラベラと僕に話しかけてくる。
僕は父さんの話に適当な相槌をうった。
父さんのせいでほとんど栞さんと話すことが出来なかった。
僕だって栞さんとまだ、隣同士で座ってあんな風にゆっくり話したこともないのに…。
「蒼くんのお母さんて、綺麗な人だな」
と父さんがポツリと話した。
車のルームミラーを見ると、父さんがこちらを見ていた。
父さんは何となく気付いてるんだろうか?
何だか見透かされてる気がして、またイライラした。
そう。僕は、
父さんに嫉妬していた。