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朧月夜に逢ひにゆく(改稿版)  作者: 斎藤三七子
第一章 再会、追憶
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第八話


「で、でも月姫は普通の姫と違うし……」

「ほら、男の格好よくしてる位逞しいし……」

「弓矢とかむしろ僕たちより上手いじゃないか……」

 兄上達がぶつぶつと返すのが聞こえる。

「そういう問題じゃないでしょう!」

 顕成が怒鳴り、一瞬シンとしたところで、私はそっと自分の部屋に戻った。


 座って脇息にもたれかかり一息つくと、何とも言えない感情が襲ってきて、泣きそうになった。


 掃除が辛かったわけではない。

 はっきり言って兄上と私の兄妹喧嘩の延長みたいなもので、別に虐められていたわけでもない。

 だから別にいいのに、顕成が私の事であんなに怒るなんて……。

 何だか、こそばゆくて、切ないような嬉しいような、変な感じだった。


 兄上達は最後には、今後自分達でやればいいんだろうと宣言したらしく、実際、それからは男の子だけで全てやるようになった。

 たまには私もと井戸に向かうと顕成や光祐が、

「月姫はもういいから」

と言って止めてきた。

 兄上達にはもう自分の部屋に戻れとまで言われるようになったのだった。


 そうして約二年間、私たちは言わば学友として過ごしたが、父上の国府の任期満了と共にその日々は終わりを告げる事になる。


 二年近く共に学び共に過ごした学友たち。家族以外でこんなに蜜に過ごした仲間は後にも先にも他にいない。

 最後の講義の日の夕方、感傷に浸りながら一人で講義に使った部屋へ行くと、誰かがこちらに背を向け夕陽を浴びながら一人座って俯いている。それは顕成だった。


 京に戻るのは彼の方が先だと思っていた。静養のために来ていたのなら、病気が治ればいつかは戻るはずだからだ。

 でも、初めて会った時には既に病気は治っていたようなのに、帰京する気配が全くなかった。疑問に思いながら私はそれを特に誰にも聞かなかったし、顕成も何も言わなかった。


「顕成……?」

 声をかけると、彼ははっとしたように顔を上げて振り返る。

 頬を流れるひと筋の涙――

 次の瞬間、顕成は袖の袂で顔を隠し、だだだっと走り去ってしまった。

 彼に会ったのはそれが最後だった――

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