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朧月夜に逢ひにゆく(改稿版)  作者: 斎藤三七子
第一章 再会、追憶
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第七話

 そしてある日、

「今日から講義後には使用していた場所の掃除を女房ではなく、自分達で分担して行うように」

と父上が告げた。

「えっ、掃除?」

 時々小若の着物をこっそり借りて着る私とは違って、兄上達は着替えすら自分でしたことがないのに、と驚いてきょろきょろと周りを見ると、案の定、兄上やその友達達は困惑した表情だった。

「掃除、ってどうやるのですか?」

 兄上が聞くと、

「使った道具は各自片づけ、文机は几帳の後ろへ移動して重ね、床は拭き掃除をするように。まあそんなに難しいことではない」

と父上がにんやりとしながら応える。


 師がおっしゃるならやらなくては。

 拭き掃除は桶に水を汲み、手拭いを絞って使う。

 夏はまだ良かったが、冬になると桶の水が凍るように冷たくなるのでかなり辛い作業になった。

 それを全員で分担してやってきたのだが、いつの間にか兄上達は、道具や文机の整理だけさっとやってどこかへ行ってしまうようになったのだ。


「最近私ばっかり拭き掃除やってるけど!」

 ある日、私は主犯格の兄上に文句を訴えた。

「そんなん分担なんだから早いもの勝ちだろ。俺たちはちゃんと他の作業やってるし。じゃ、頑張って」

と他の子達を連れて去って行ってしまう。

 別の日には風邪気味だの、手に擦り傷があるからだのといつもごまかして逃げるのだ。

 年長で国司の息子だからか、兄上は大将のような存在になっていたので、他の男の子達も皆従ってしまうのだった。

 

 そんな事が何日も続くと、私は諦めて文句を言うのもやめた。

 かと言って父上に告げ口するのも面倒だった。

 それに、引っ張られて一緒に連れ出されていた顕成と光祐が戻ってきてくれるから一人ではなかった。

 私たち三人は歳が同じで絆のようなものも芽生えていたのだ。


 ある雪の日の講義後。

「うわ、井戸の水、凍ってる!」

 兄上達はもちろん、顕成も光祐も今日は戻って来ない。

「もう今日はよろしいんじゃないですか?」

 迎えに来た女房の右京が綿の入った上着を私にかけてくれた。

「そうよね。帰ろっと」

 そのまま自分の部屋に戻ろうと透渡殿に出ると、奥の方から、

「あなたたちはいつまでそうするつもりなんですか?」

と声が聞こえてきた。

 声の方に近付くと、

「いつも月姫に押し付けて恥ずかしくないのですかっ?」

と更に大きな声が聞こえる。

「へえ、顕成が怒るなんて珍しい」

 振り返ると、光祐が立っていた。

「やっぱり、あれ、顕成の声なの?」

「まあ月姫の事、ずっと心配そうに見てたからね」

「え?」

 光祐はにっと笑って立ち去った。


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