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朧月夜に逢ひにゆく(改稿予定)  作者: 斎藤三七子
第五章 院の怒り
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第六十九話

 その日の夜。

 また当子様のいらっしゃる寝殿に向かうと、その途中で丹波さんに会う。

「あら、近江さん。どうされたの? 外に出られるのではなくて?」

「当子様に今から外出する事をお伝えしてからと思いまして」

「今、人払いして中将内侍さんとお二人でお話をされてるようですよ。後から私が伝えておきますからどうぞ行ってらっしゃい」

「ではお願いします。とても助かります」

「帰りは遅くなられるの?」

「いえ、すぐに戻れると思います」

 人払いをして話――その内容も気になるけれど、手配していた牛車が来る頃なので急いで外に出た。


 顕成が既に来ていて、少し俯きながら車の横に立っている。

「お待たせ。顕成も乗って」

「いや僕は歩いてついて行くからいいよ」

「あ、そう」

 実は当子様のお邸から道雅様のお邸までは結構近い。

 私も女房装束でなければ歩いて行きたい位だった。


「二人揃ってどうした?」

 道雅様がニヤニヤして私達を迎える。

 そして顕成に寄り、私に聞こえないように何か耳打ちした。

「と、特に何も……」

 顕成の顔が真っ赤になる。

「何だって? 人がせっかくお膳立てしてやったのに」

 宇治に顕成をよこした時の話だとピンときた。

「こ、こほん。道雅様、私は今日、お礼に伺ったのです」

「お礼? まあ、そこに座りなさい」

 促されて私は道雅様の正面に腰を下ろした。

「宇治の一件では本当にお世話になりました」

と、私は包みを差し出した。

「礼はいいよと言ったのに……ほう、酒か?」

 道雅様は中身を確認して目を輝かせた。

「ええ、近江国の地酒と菓子です。こんな物では全然足りない位お世話になりましたが」

「十分嬉しいよ。しかし添え状がないな」

「え?」

「近江からもらった文と言えばまだこれしかない」

と文箱からボロボロになった紙を取り出し、ひらひらとして見せる。

「ああっ、それ」

 宇治で藤助に持たせた文だった。

 何とか内容は判別できるが、走り書きで酷い書跡だ。

「返してくださいっ」

と手を伸ばすが、すぐしまわれてしまった。

「駄目だ。女人からもらった文は一枚一枚大切にしている」

「そんなのを残されても。ではちゃんとしたのを書きますから」

と胸元から紙と小筆を取り出す。

 道雅様は脇息に肘をついて頬杖をつき、

「どうせなら歌がよいな」

と目を細めて微笑んだ。

 歌?

 私は昔から詩歌を覚えるのは得意だったけど、作る方は大の苦手。

 でも先月の宴で“後でお返事を書きます”と言って書いてない事を思い出した。

 筆をとった状態で悩んでいると、

「あの……」

と背後から顕成の声。

「どうした顕成」

 すました顔で道雅様が問う。

「月……近江はすぐに宮様の所に戻らないといけないので」

 そんな事はないけど……。

 顕成は何を言ってるのだろう?

「来たばかりではないか。私から連絡しておけばよいだろう。何ならこのまま、また泊まって行ってもよい」

「しかし」

「帰りたいのならお前だけ帰れば? もう付き添いはなくてもよいぞ」

「そうね、顕成は帰っても……いたっ」

 後ろから腕を摘まれた。

「あきなりっ、なにするの?」

 小さい声で睨むと、

「本題から逸れてる」

と顕成は睨み返す。

 本題?

 ああ、そうか。

 私は小筆と紙を下に置いた。


「歌はまた改めて。今日はお礼だけでなく、お詫びもありまして……」

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