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朧月夜に逢ひにゆく(改稿版)  作者: 斎藤三七子
第四章 嵐の中で
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第六十一話

 一通り聞き終えた顕成は不機嫌な表情になり、ため息を少しつく。

そして突然こちらに向き直し、私の両肩をそっと掴んだ。

「何?」

「改めて言うけど、そういう事は本当にやめて欲しい」

「宇治殿に行った事? でも道雅様の協力もあって、お使いの女房として上手く……」

「盗み聞きをした部分だよ。摂政様が帰してくれず、邸内の牢にでも閉じ込められたら、どうするつもりだったの?」

 事実、道長様の声に何度も凍り付き、恐怖を感じた事を思い出し、私は何も言い返せなくなった。


「ここまでの道中、どんなに心配だったか分かる? 君に何かあったら僕は……」

 顕成は私の両肩に置いた手を震わせ、目を瞑って俯く。

――あいつはそなたを好きなのだ。

 今朝、道雅様が牛車の中で言われた言葉を思い出した。

 こんな嵐の中駆けつけて来てくれた顕成。

 もしかして本当に顕成は私の事――

「先生に申し訳がたたない……」

「え……先生? って、父上?」

 顕成はそのままの体勢で私をじっと見つめる。

「僕が帰京できたのも、兄上との養子縁組に関しても、みんな君の父上の取り計らいのおかげなんだ。その恩人の大切な姫君に何かあったら僕は……」

 なんだ。

 道雅様の読みは違ったわ。

 私を好きなわけじゃない。

 私が昔の師であり恩人の父上の娘だから。ただそれだけ。

 一瞬勘違いをした自分が恥ずかしくなり、頭がかあっとなる。


 今度は私がざっと立ち上がった。

「やっぱり私が他の部屋で寝るわ!」

「え? いきなりどうしたの?」

「顕成なんて知らない!」

 そう叫ぶと同時に涙が溢れてきて、両手で顔を覆い隠した。

 何か、感情が、おかしい。

 ああ、何だか頭も痛くなってきた。


 また風が強まり、滝のような轟音が外で響いている。


 そのまま気が遠くなり、私はその場で倒れた。

 倒れ込む前に、顕成が「月姫!」と叫び、私を抱きとめたような気がする――

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