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朧月夜に逢ひにゆく(改稿版)  作者: 斎藤三七子
第一章 再会、追憶
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第六話

 その後も少しずつ学友が増えて行き、翌年には十名以上になっていた。

 国府の四等官の子供だけでなく、地元で雇われた書生や鍛治などの子もいた。

 幼かった私達は出身や身分の違いは特に気にせず仲良くなった。

 女は相変わらず私だけだったが……。


 初めは無口だった顕成も、次第に慣れたのか明るくなって誰とでも普通に話すようになっていた。

 光祐(みつすけ)という同年の子と気が合ったようで親しくなり、子供らしくふざけ合ったりする姿も見かけるようになる。


 父上の講義は漢学や史学が中心だったが、時々詩歌や楽器の演奏もありなかなか面白かった。

 そして顕成は――どの分野でも優秀だった。年長の兄上達を含めても一つ飛び抜けていた。


 ある日、次の講義までに古今集より三首選んで書いてくるようにと父上が宿題を出した事があった。

 ぼんやりとして聞き逃した私は講義後、後ろに座る兄上に、

「父上、何首書けって言ってた?」

と訊くと、すかさず隣から顕成が、

「三十首」

と答えてきた。

「え、そんなに?」

 誰かがぷっと吹き出す。

「おー、顕成。お前、ちゃんとやれよなー、三十首!」

と光祐が顕成を腕で突いた。

「別にいいよ。でも月姫もね!」

と顕成は私を見てにっこり微笑む。

「ふうん。いいわよ」

 私は三十首じゃないなと勘付きながらも応戦することにしたのだ。


 しかし、私はその晩に七首ほど書き写したまま寝てしまう。


 数日後、講義の部屋に向かうと、

「これはすごいな!」

と男の子達の声が聞こえてきた。

 中を伺うと、顕成が皆に囲まれている。

「月姫、見てみろよ」

 正高の兄上が手にしている紙を覗くと、見事に数十首、彼の美しい文字が並んでいた。

「月姫は?」

 顕成に聞かれ、思わず、持っていた紙を背中に隠す。

 でもすぐにひょいと顕成に奪われてしまう。

「一、二、三……七首しかないねー。僕の勝ちということだね」

とにこにこ笑ってみせる。

「月姫の負けだー!」

 光祐はじめ他の男子達は一斉に騒ぐ。

「僕は約束を守る男だからね」

と顕成は目を細めた。


 私は彼の書いた紙を取り、数えてみた。

 確かにきっちり三十首並んでいる。

 完敗だった。

 しかし、相変わらず、何て美しい字を書くんだろう……。

 私は彼の筆跡()に見とれてため息をついた。


「数を競うものではないが」

 いつの間にか父上が背後に立っていて、顕成の書いた紙を私から取り上げる。

「最後の十首はもしかして自分で考えたのか?」

「はい」

 顕成は姿勢を正して応える。

 一同、わあっと歓声が上がる。

「あなたは……天才だな」

と、父上は呟いた。

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