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朧月夜に逢ひにゆく(改稿版)  作者: 斎藤三七子
第一章 再会、追憶
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第五話

「前に几帳に隠れて講義を覗いていただろう。月子も勉強したいのでは?」

「あれは隠れんぼうをしてたまたまのぞいていただけですよ。まあ、確かに唐の国のお話とか聞こえてきて面白そうだなとは思ったけど」

 父上は小さく頷いて少し笑った。

「やはり興味あるのだな。それに、お前は何度も男の子の格好をして外に飛び出して女房達を困らせてきたそうではないか。しとやかに部屋の中でじっとできる気性でない事は分かる。どうせ男の子の中に入るのなら勉学でもした方がためになるだろう。宮中の女官の中には漢籍に明るい才女も多いそうだ。月子にも将来そんな話が来ないとは限らないからね」

 女官と言われてもピンとこなかったが、遊び友達の顕成もいるのならと喜んで同意した。

 しかし、男の子の中に女の子が入って一緒に学ぶなんて、今思えば前代未聞。私の両親は進歩的というか、なかなか変わっている。


 早速その後、講義の間へ連れられ、一番前の顕成の右隣の席に座らされた。

 後ろを見ると、真後ろには兄上、その隣に一人、更にその後ろに二人、と全部で六名。

 全員、国府に勤めている役人の息子や甥っ子で見た事がある顔だ。


 その日の手習の講義が終わった後、私は早速、隣の顕成に話しかけた。

「ねえ、顕成も今日からなの?」

 顕成は首を小さく左右に振った。

 すると後ろから他の男の子が、

「少し前から来てるよ」

と答えてきた。

「ふうん、そうだったんだ。今更だけど、顕成はどこから来てるんだっけ?」

 いつも一緒に遊んでいながら、聞いた事がなかった。

 また後ろの子が、

「斎宮の近くの村からはるばる来てるらしいよ」

と口をはさんでくる。

「ええっ? 斎宮? そんな遠くからだったの?」

「国医師と一緒に馬に乗って来るのを見た事があるよ」

とまたまた後ろの子。

 そんな事は私だって知っている。

 そして更に内緒話をするように私の耳に顔を寄せて、

「顕成は話せないんだよ」

と伝えてきた。


 私はむっとして、

「は? そんなことないわよ! 知らないくせに!」

とその子の胸を軽く押して睨んだ。

 するとその隣の席で見ていた兄上が、

「うわー。ほら、言った通り、月姫って怖いだろ! お前ら皆気をつけろよ~」

と大きな声で茶化した。

「知ってる!」

 私も一緒に遊んだ事のある兄上の友人の一人が叫ぶと、さっきの男の子を含め、一同どっと笑う。


 何か面白いんだか……。

 私は無視してもう一度顕成の方を見る。

 彼の文机の上に並んだ紙を見て驚いた。

「これ……手本?」

 すると顕成は顔を赤らめ、

「いや、違う」

とささやくような小さな声で答え、目を逸らした。

「ええ? あなたが書いたの?」


 繊細で優美な筆跡()

 とても同じ十一歳の子が書いたものとは思えない。

 一方、自分の筆跡()をチラッと見返してみると、なんて太くて大きく、子供っぽいんだ。

 私は自分の書を後ろ手でそっと隠したのだった。

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