表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
45/106

第四十五話

「姫様。この僧、正高様のところまで連れて行きますか?」

「兄上は単純だからそのまま検非違使に突き出しそうね」

「ええっ? 検非違使?」

 僧は怯えた顔になった。

「あの、何でも姫様の言う通りに致しますので、それだけは御勘弁を」

「そんな簡単に寝返る人、信じられると思う? 大体、惟義にも何か脅されてるんじゃないの?」

「いえ、成功した折には新しい経典をくださる事になっていまして」

「は? 経典?」

 読経の時に、この僧が手にしていたぼろぼろの経典を思い出した。

「そんな物のために……。それに、やっぱり惟義なのね」

 私は呆れながら僧の姿を眺めた。

「まさか、あの人形もあなたが?」

「いえ、さすがに仏に仕える身で呪物を扱ったりなどは……」

 まあ確かに、自分で仕込んでおいて祈祷に参加するなんて馬鹿げたことはしないだろう。

「では誰なのか分かる? 惟義自ら?」

「残念ながら……私が命じられたのは書状の事だけで、それ以外は全く存じません」

 僧の目を覗き込んでみる。

 この期に及んで嘘を言っているようには見えない。

 あっさり惟義の命だと認めたりすぐに寝返るところを見ると、仲間という程でもなさそうだ。


 あの人形も惟義の仕業に違いない。

 でもすぐに発見されてしまい、祈祷に参加する僧の中からこの男を選んで今回の事を頼んだのだろう。

 枕元に書状を置いてくるだけなら、たいした仕事ではないし。


「まあ、いいわ。私の持っている経典をあげるから、惟義とは手を切りなさい」

「えっ?」

 僧は明らかに少し嬉しそうな表情を見せた。

「私のは権中納言行成様が写経された新しいものよ。気付いて私の手元見てたでしょう」

「しかし」

「遠慮しなくていいのよ。ただであげるとは言ってないし」

 僧は落胆したような顔になる。

「私は修行の身で金銭や宝物は何も……」

「袈裟があるじゃない。あなたの上司が着てたようなの持ってないの? 帽子(もうず)もよ」

「住職の袈裟なんてとんでもない。帽子も私のような下僧はないです。旅用の笠ならない事もないですが」

「それでいいわ。あなたの今着てる奴と一緒にちょうだい」


 そんなわけで僧の袈裟と笠、私の経典を交換し、私はそれを着て右大臣家へ乗り込むことにしたのだった。


 翌日のお昼を少し過ぎた頃。


 部屋に篭もって一人で祈祷するから誰も近付かないように、と女房達に伝えてこっそりと外に出る。


 大路に出ると、大勢の人が行き来していた。

 馬や牛車と数台すれ違ったが、圧倒的に徒歩の人が多い。

 役人に侍、学生、商人、買い物帰りの人、派手な格好の若者達もいる。そして僧も。

 その中に紛れて歩くが、誰も私を気に留めない。

 近江で誰もいない真っ暗な中を歩いた時よりずっと気が楽だった。

 普段着ている装束と違って僧衣は軽く、藁草履も歩きやすく、すたすたと進めた。


「姫様。今更ですが、乗り込むだなんてどのようになさるおつもりで?」

 後ろをついてきた藤助が訊いてきた。

「考えてあるから大丈夫よ。私が中に入ったらあなたは帰ってちょうだい」

「しかし……」

「心配なら外で待っていてもいいけど、泊まる事になるかも知れないわよ」


 そうこうしているうちに右大臣家、通称堀河殿に到着した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ