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朧月夜に逢ひにゆく(改稿版)  作者: 斎藤三七子
第一章 再会、追憶
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第四話

 更に馬がいなくなっている事にも気付く。

「あの、どっか行っちゃった」

 その時――

「まさに塞翁さいおうが馬」

 顕成が静かにつぶやいた。

「え?」

「宋の国に伝わる古い言葉。飼っていた馬がいなくなる話だけど……良い事もあれば悪いこともあり、悪い事もあれば良いこともあるって意味」

 私は少し考えて、

「じゃあ、悪い事があったから良い事があるかな?」

と聞くと、顕成は微笑んで頷き、

「ほら、海が見える」

と遠くを指差した。

 その人差し指の先をよく見ると、木々の隙間から何かきらめいているのが見えた。

「あ! 本当!」

「歩いて行ける位だと思うよ」

 私達はどちらからともなく手をつなぎ、海に向かって走り出した。

 何だ。この子、しゃべれるじゃない。

 私はそっと顕成の横顔を見て思った。


 林を抜けた所で視界が開き、左右いっぱいに太陽の光を受けて輝く海が現れた。そこへ風が吹き抜け、桜の花びらが雪のように舞い落ちてくる。

 ふと横を見ると、少し先で逃げた馬が草を食べていた。顕成が優しく首をなでながら連れて来る。彼の言った通り、悪い事は続かなかった。

 その後、無事浜辺に着いて兄上達と合流し、そのまま皆で夕方まで遊んだ。

 国司館に戻った後、父上にみっちりと怒られたのは言うまでもない。


 その後も顕成は時々うちに遊びに来るようになった。どういう関係なのか国医師のただもりという三十歳前後の男の人が馬で連れてきて、仕事を終えると迎えに来るというふうだ。

 顕成が来ると、虫取りや石投げ、弓矢や鞠遊びなど、それまで兄上達には仲間に入れてもらえなかった男の子の遊びを中心に二人でやった。もっとも兄上達は父上に漢学などを教わる「講義」の時間ができて、あまり一緒に遊ばなくなったのだが。

 しかしその次の年、顕成も父上の講義に加わるようになり、しばらくして私もその中に入るように言われた。

「え? 私も講義を受けるの?」

 父上は頷いた。

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