第三話
馬番はすんなりと一匹の馬を連れてきてくれた。
前にも庭で乗せてもらったことのある、薄茶色の小ぶりの若い馬だ。
「次郎様もお友達と海まで行くんですな? 程良い大きさの子はこの馬しかいないのじゃが、二人で乗れますかな?」
私は小さく頷き、手綱を受け取る。
「大人しい馬ですが、ゆっくりと気ぃ付けて」
「次郎っていうのは、二歳下の弟なの。よく似てるって言われるんだよね。さっきのおじいちゃんはめったに会わないから、うまく勘違いしてくれたみたい。まあ、それが狙いだったんだけどさ」
私は馬を撫でながら、一方的に顕成に説明した。
彼は無表情のまま私を見つめている。
「あ、もしかして、私の事男の子だと思ってる?」
顕成は首を小さく左右に振った。
「さっきの兄さま達の話聞いてたもんね。私は月姫。父上が伊勢守だから国司館に住んでるの。じゃあ、私たちも行こっか!」
顕成を先に鞍に跨らせ、私はその後ろに飛び乗って手綱をつかむ。
馬はゆっくりと歩き出し、門から国司館の外へ出て、ゆるやかな下り坂を真っ直ぐ進んで行った。
ところが、しばらくすると足場が悪くなったのか、馬は右へゆらゆら、左へゆらゆらとよろめき始める。
「どうしたの? まっすぐ歩いて!」
声に驚いたのか、馬は突然立ち止まった。
その反動で、顕成も私も馬の背からずるずると滑り落ちてしまった。
布団のように敷かれた落ち葉のおかげで怪我しなくて
私はよろよろと起き上がり、隣に倒れていた顕成の手をひいて立たせる。二人共に装束が土や枯れ葉まみれになっていた。
「ごめん、ごめんね。私、馬に乗れるなんて言っておいて、こんな目に合わせて」
顕成の装束をパンパンと叩き、汚れを払い落しながら謝る。
「本当は庭で少ししか乗ったことないの……」
言い終わる前から涙が溢れ出てきた。
顕成は、しばらく私をじっと見つめた後、胸元から懐紙を取り出した。そして私の頬をそれでそっと押さえて涙を拭う。更に私の装束にも付いていた葉っぱなどを、私がしたように手ではらい落としてくれた。
私の涙はすぐにおさまったが、絶望した気持ちだった。




