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朧月夜に逢ひにゆく(改稿版)  作者: 斎藤三七子
第一章 再会、追憶
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第三話

 馬番はすんなりと一匹の馬を連れてきてくれた。前にも乗ったことのある薄茶色の小ぶりの子だ。

「小若様もお友達と海まで行くんですな? 程良い大きさの子はこの馬しかいないのですが、二人で乗れますかな?」

 私は小さく頷き、手綱を受け取る。

「大人しい馬ですが、ゆっくりと気ぃ付けて」


「小若っていうのは、二歳下の弟なの。つまり八歳なんだけどね。私と顔立ちが似てるんだよね。さっきのおじいちゃんはめったに会わないから、うまく勘違いしてくれたみたい。まあ、それが狙いだったんだけどさ」

 私は馬を撫でながら、一方的に顕成に説明した。彼は無表情だった。

「ああ、そっか。君、私の事男の子だと思ってる?」

 顕成は首を小さく左右に振る。

「なんだ、知ってたの。さっきの話聞いてたもんね。私、月姫。父上がせのかみだから国司館ここに住んでるの。さ、行こっか!」

 顕成を先に鞍に跨らせ、私はその後ろに飛び乗って手綱をつかんだ。

 馬はゆっくりと歩き出し、門から国司館の外へ出て、ゆるやかな下り坂を真っ直ぐ進む。

 ところが、しばらくすると足場が悪くなったのか、馬は右へゆらゆら、左へゆらゆらとよろめき始める。

「どうしたの? まっすぐ歩いて!」

 馬に叱っても変わらない。どうすれば良いのか分からなくなった私の頭の中は混乱状態に陥った。

 林道を少し外れた所で、馬はいきなり歩みを止め、そのはずみで私と顕成は馬からずるずると滑り落ちてしまったのだ。

 私はよろよろと起き上がり、隣に倒れていた顕成の手をひいて立たせる。二人共、装束が土や枯れ葉まみれになっていた。

「ごめん、ごめんね。私、馬に乗れるなんて言っておいて、こんな目に合わせて」

 顕成の装束をパンパンと叩き、汚れを払い落しながら謝る。

「本当は庭で少ししか乗ったことないの……」

言い終わる前から涙が溢れ出てきた。

 顕成は、しばらく私をじっと見つめた後、胸元から懐紙を取り出した。そして私の頬をそれでそっと押さえて涙を拭う。更に私の装束にも付いていた葉っぱなどを、私がしたように手ではらい落としてくれた。

 私の涙はすぐにおさまったが、絶望した気持ちだった。

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