【連載版開始しました!】異世界に転生したけど魔力0だったので、1000年間剣技を鍛えてみた ~自分を低級剣士だと思い込んでいる世界最強は無自覚に無双するようです〜
連載版開始しました!
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俺こと出水 悠里(18歳)はある日、トラックに轢かれそうになっている女の子を助けた際に命を落としてしまった。
そんな俺の前に現れたのは、異世界の女神を名乗る銀髪の美少女アリスティア。
彼女曰く、本来ならあの事故で亡くなるのは俺ではなく女の子だったらしい。
「つまり、あなたは定められた運命を自らの手で覆したのです」
「それで自分の命を落としたんだから、喜ぶに喜べないが……」
「ご安心ください。偉業を成し遂げたあなたには転生の権利が与えられます」
「転生の権利?」
「はい。規則上、地球とは異なる世界にはなってしまうのですが……」
つまるところ、Web小説なんかでよくある異世界転生の機会を得られたらしい。
当然断る理由はないため、受け入れることにした。
となると次に気になるのは、転生先となる異世界についてだ。
尋ねると、アリスティアは丁寧に説明してくれた。
剣や魔法、そしてモンスターが存在する世界。異世界と聞いて真っ先にイメージした通りの、ファンタジー満載な世界のようだった。
「ちなみにユーリさんには、転生者特典としてスキルが三つ与えられることになっています」
「それは助かる。さすがに生身のままじゃ、異世界で生き抜くなんて無茶だからな」
「こちらがスキルの候補になります。この中からぜひ、好きなものを選んでいただければと」
そういって、アリスティアは一冊の本を差し出してくる。
まるでカタログギフトだ。
とはいえ、この中からどれを選ぶかで俺の今後が決まる。
俺は興奮したまま本を開いた。
しかし――
「あれ? おかしいな、何も書かれてないぞ」
本の中は白紙だった。
想定していない自体に困惑する俺を見て、アリスティアも首を傾げる。
「本当ですか? そんなはずは……っ、まさか!」
何かに思い至ったように、アリスティアがバッと立ち上がった。
「どうしたんだ?」
「一つだけ心当たりがありまして。ユーリさん、失礼いたします」
そう告げた後、アリスティアは俺に両手を伸ばした。
両手からは純白の光が生じ、俺の体を包み込む。
数秒後、アリスティアは驚いた様子で声を上げた。
「うそ……魔力保有量が0!?」
「そんなに驚くほど珍しいのか?」
「は、はい。生まれた世界にかかわらず、本来なら生物はある程度の魔力を有しているものなのです。しかし、それがないとなると……」
その後、アリスティアは幾つもの懸念点について教えてくれた。
まず、スキルの発動には必ず魔力が必要らしい。
魔力を持っていない俺に扱えるスキルは存在せず、そのため冊子も白紙だったのだとか。
とはいえ、だ。
せっかく転生するわけだから、その際に魔力を持っている体に作り替えることはできないのか? という当然の疑問を尋ねてみた。
しかし転生とは、あくまで元の体を復活させたうえで異世界に送り込む儀式。
元々の保有量が0であれば、転生後も必ず0になってしまうらしい。
アリスティアは申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「申し訳ありません。せめてわずかでも魔力があれば、増やす手段はあったのですが……」
「最初から0の場合だと、どうすることもできないと?」
「はい。そうなってしまいます……」
「…………」
ついさっきまでは、物語で見てきたようなチート能力で無双する異世界ライフが送れると思っていた。
そのため正直なところかなりショックを受けているんだが、この反応を見るにどうしようもないんだろう。
だったら、切り替えていくしかない。
「スキルの代わりに、何か武器をもらえたりはするのか?」
「もちろんそれは構いませんが……今のユーリさんでは、武器を手にしたところでスキルなしでは低級モンスターにも敵わないでしょう」
「うっ」
元々分かっていたこととはいえ、直接言われたせいでグサッときた。
とはいえ、そう落ち込んでばかりもいられない。
アリスティアはあくまで、今の俺ではと言った。
「それじゃあ追加で、異世界に転生する前に修行する時間をくれ」
「修行ですか?」
「ああ。せめて低級モンスターに問題なく勝てるくらいの力は欲しいからな」
「……そうですね、分かりました」
俺の決意が伝わったのか、アリスティアが真剣な表情で頷く。
「では、【時空の狭間】を用意しましょう」
「時空の狭間……?」
「ユーリさんと同じように、転生前にスキルを試したいという方はいらっしゃいます。【時空の狭間】では外界と時間の流れが変わるため年を取らず、さらに内部でどれだけのダメージ・疲労があろうと瞬時に回復する仕組みになっているのです。そこでならユーリさんが納得いくまで鍛えることができるかと」
「そうか、助かるよ」
「いえ、これが私の役目ですから」
方針は決まった。
その後、アリスティアから一振りの剣をもらった。
銀色の刀身が目立つ、いたって普通の剣だ。
「これが俺の武器か……」
「準備ができましたよ」
興味津々で剣を眺めていると、いつの間にか目の前の空間がぐにゃりとゆがみ、別の次元に繋げられていた。
どうやらこの先が俺専用の【時空の狭間】らしい。
俺はゆっくりと、そのゆがみに向かう。
「それじゃあ、行ってくるよ」
「はい。ユーリさんが仰っていたように、低級モンスターに問題なく勝てるだけの実力がついたタイミングで連れ戻させていただきますね」
「ああ、頼む」
具体的に低級モンスターがどれだけの強さなのかは分からないが、そこはアリスティアに任せておけばいいだろう。
俺は改めて、【時空の狭間】の中に入るのだった。
◇◆◇
ユーリが【時空の狭間】に向かった後。
残されたアリスティアは、改めて申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「まさかユーリさんが魔力を少しも持っていなかったとは。せめて異世界では、安寧に暮らしてほしかったのですが……」
そんなことを考えていると、突如として目の前の空間にゆがみが生じる。
ユーリの身に何かイレギュラーがあったのかと考えるアリスティアだったが、すぐにそれが杞憂だあることに気付いた。
「アリスティア様、ただいま戻りました」
ゆがみから現れたのは、アリスティアの配下である一人の少女だった。
少女はアリスティアの様子を見るや否や、不思議そうな表情を浮かべる。
「アリスティア様? お困りのようですが、何かございましたか?」
「実はですね……」
アリスティアは配下にここまでの経緯を伝える。
ユーリを異世界に転生しようとするも魔力がなかったこと。
そのため、スキルの代わりに剣を渡すと共に、最低限の実力がつくまで【時空の狭間】に向かわせたこと。
最後まで話を聞いた配下は、何かが引っかかったのかきょとんとしていた。
「【時空の狭間】ですか?」
「ええ。あなたもよく知っているでしょう?」
転生者の魔力が0というのは今回が初めてだが、【時空の狭間】自体は以前から何度も活用している。
だからこその確認だったが、少女は首を横に振った。
「いえ、そういうことではなくて。その転生者に魔力がないのでしたら、追跡はどうやって行うのですか?」
「……え?」
「ですから、【時空の狭間】は無限の空間の中に点在する極小の拠点。その中から対象を見つけ出すには、魔力の痕跡を辿る以外に方法がないはずじゃ……」
「……あ、あああああああああああっ!?」
ようやく合点がいったアリスティアは、清楚さと高貴さをどこかに放り出すかのように、叫びながら立ち上がった。
魔力を持たない存在などこれまでに存在しなかったため、アリスティアはその懸念点を考慮していなかったのだ。
そんな主の様子を見て、配下の少女の顔がどんどん青ざめていく。
「アリスティア様、まさか……」
「ど、どうしましょう。このままだと、ユーリさんが【時空の狭間】に一生囚われることに……」
さらに厄介な点が一つ。
【時空の狭間】は外界と時間の流れが異なる。
基本的には外界より流れが早いことが多く、倍率に至っては確認されている限り最大で10000倍に達する。
もしその場合なら、アリスティアがこうして話している間に数日以上経っている可能性すらある。
「こ、このままではいけません。一刻も早く、ユーリさんが向かった【時空の狭間】を見つけ出さなくては」
このままだとユーリが最低限の力を得る以前に、無限の牢獄に囚われる苦しみによって魂が滅んでしまう。
そのことを何より恐れたアリスティアは、無限の空間からユーリを探すことを決意した。
――そして、そんなアリスティアの焦りも知らず。
【時空の狭間】にたどり着いたユーリは、さっそく修行を始めていたのだった。
◇◆◇
アリスティアが用意してくれた空間の歪みを抜けると、そこには見渡す限り一面真っ白な空間が広がっていた。
「ここが【時空の狭間】か……」
アリスティアの説明によると、この空間では年を取らない。
さらに食事なども必要ないため、本人が満足するまで滞在することが可能だという。
とはいえ孤独感や退屈まで誤魔化すことはできないようで、過去に足を踏み入れた経験者のほとんどが一か月前後でここを後にしたのだとか。
確かに、こんな何もない場所に数ヵ月も滞在するのは精神的にきつそうだ。
「できるだけ早くここを出られるよう、さっさと低級モンスターに勝てるだけの実力をつけなくちゃな」
俺は改めて気合を入れると、さっそく修行を開始することにした。
ひとまず、アリスティアから貰った剣を上段に構えてみる。
「こんな感じでいいのか? 死ぬ前は選択体育の剣道で竹刀を握ったくらいの経験しかないから、かなり不安なんだが……」
一抹の不安はあるが、ものは試しだ。
前世の記憶に従うまま、俺は剣を振るい始めた――
◇◇◇
1か月が経過した。
その間、俺はただひたすらに素振りを続けた。
まずは何より基礎が大切だと考えたからだ。
そして、どうやらその考えは間違っていなかったらしい。
少しずつ構えが安定し、剣を振るう速度も上がってきた。
着実に自分が成長していることを実感し、モチベーションが向上している感覚すらある。
「初めは1か月やそこらでここから出ていくつもりだったけど、この調子ならもうしばらくは続けられそうだな」
それにアリスティアから連絡がない以上、低級モンスターを倒せるだけの力はまだ身についていないのだろう。
まだまだ鍛える必要がありそうだなと、俺は気合を入れ直すのだった。
◇◇◇
1年が経過した。
半年ほど前から素振りだけでなく、実戦を想定しての修行も始めている。
動くモンスターを想定し、こちらも移動しながら剣を振るうのだ。
これがなかなか大変で、素振りとはまるで難易度が違った。
それでも必死に努力を続けたおかげか、今ではかなりいい動きが出来てるんじゃないかと自分では思っている。
それでもまだ、アリスティアからの連絡はない。
「これでもまだ足りないのか……もしかしたら異世界のモンスターってのは、低級でもかなり強いのかもしれないな」
もしくは、俺が魔力0という事実がそれだけ大きなディスアドバンテージになっているのかもしれない。
アリスティアの反応的にも、もともと魔力のない人間がモンスターと戦うような想定をしていない可能性すらある。
それでも、自分で一度は決意したこと。
ここで引き下がるのはプライドが許さない。
「見てろよ、ここからまだまだ強くなってみせるからな」
◇◇◇
10年が経過した。
それだけの月日が経った今もなお、俺はがむしゃらに剣を振るい続けていた。
「はあっ! せいっ! ふんっ!」
巧みな足捌きから振り下ろされる刃は、確かな重みと速さをもって空を切り裂く。
それだけでは終わらない。
踏み込んだ足を軸にし、そのまま返す刃で剣閃を描く。
俺はそのまま留まることなく、怒涛の連撃を続けていった。
モンスターが相手となると、一撃で倒せる保証はない。
いつ何時であろうと、攻撃の手を緩めることなく戦えるようにしなくてはならないのだ。
そんな意識のもと昼夜問わず(そもそもここにそんな概念はないが)行われる鍛錬によって、俺はかなりの実力を身に着けている……はずだった。
“はず”と言うのは、今なおアリスティアからの連絡がこないからだ。
さすがにこんな状況にもなれば、これまで気丈に保っていた心にも陰りが見えつつあった。
俺はいったん鍛錬を止め、ゆっくりと息を整える。
「これでもう、ここに来てから10年も経つのか。ずっと修行をしてるんだ、確かに強くなっている実感はあるんだが……」
我流とはいえ幾つも剣技を覚えたし、身体能力も格段に向上している。
しかもその成長幅は尋常ではなく、既に俺は地球人の限界を超越した動きを可能にしつつあった。
思い返してみると確かに10年前、アリスティアから異世界に転生する人間は成長限界が更新されるという話を聞いた覚えがある。
どうやらその話は本当だったみたいだ。
「って、いま重要なのはそんなことじゃなくて――」
改めて現状を整理してみる。
今の俺は間違いなく、地球にいる誰よりも強い力を得た。
それでもまだ低級モンスターという目標には到達していないらしい。
「本当にこの調子で修行を続けて追いつける日が来るのか? それともまさか、既に実力的には十分だけどアリスティアが約束を忘れてたり――なんてのはさすがにありえないよな」
アリスティアの神々しい雰囲気を思い出し、俺は首を左右に振る。
あれだけのオーラを纏った彼女が、まさかそんな単純な失敗をしないだろう。
……しないよな?
「結局、俺にできるのはただ剣を振り続けることだけってわけか」
この10年間で何百回目になるか分からない現状整理を終えるとともに、両手でパンッと自分の頬を叩く。
「よしっ、修行再開だ。なーに、きっともう何年かすれば、アリスティアからの連絡もくるはずだしな!」
そんな希望を抱きつつ、俺は再び剣を振るい始めるのだった。
◇◇◇
――――そして、1000年が経過した。
1000年。
そう、1000年だ。
100年でも200年でもなく1000年。
それだけの期間を、俺は【時空の狭間】で過ごしていた。
心が折れそうになった回数など、10000を超えてからはもう分からない。
アリスティアから差し伸べられる救いの手を待ちながら、ただただ無心で剣を振り続けていた。
ここに至るまでの経緯を振り返ろう。
「ハアッ! シィッ! フッ!」
50年を経過した頃から、一振りで2本以上の剣閃を放てるようになった。
そこからさらに100年も経つと、その数は10本を超え始めていた。
それでもアリスティアからの連絡は来ない。
300年を経過した頃から、意識を切り替え基礎を鍛え直すことにした。
いったん剣を置き、ひたすら身体能力の向上を目指す。
約200年間それだけに費やした結果、瞬間移動じみた速さでの移動や、空間を蹴ることで空を駆けることすら可能となっていた。
500年を経過した頃から、再び剣を握ることにした。
その時にはもう俺の中から疲労という概念は消え去り、一切の休息も取らずに剣を振り続けた。
剣閃の数が千を超え、【時空の狭間】全てを満たせるようになったのは、ここに来てから1000年が経過したタイミングだった。
――その日、俺は妙な確信を抱いた。
「……今日は不思議と、いつもより剣が手に馴染むな」
これに似た感覚は、この1000年間で幾度とあった。
そういう時は決まって、近いうちに大きな壁を乗り越えることができた。
すなわち、これはある種の予兆。
俺がまた一つ、自分の限界を突破できるという直感そのものなのだ。
「ただ、今回はいつもと少し違うな」
これまでが階段を1段だけのぼるような予感だとすれば、今回は一気に100段以上飛び越えてしまいそうなほどの強力な確信。
かつてない限界突破が待ち構えていることを、俺は直感的に理解した。
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅ」
深く息を吐き、両手で剣を高く構える。
そのまま目を閉じると、俺は静かに“その瞬間を待った”。
その体勢のまま果たして何時間――否、何日・何か月が経過しただろうか。
それだけの間、俺は意識を切らすことなく集中し続けていた。
そしてとうとう、その瞬間はやってきた。
「――――――――――」
まるで雷が自分に落ちたかのような直感に従い、ただただ力強く、真っ直ぐに剣を振り下ろす。
刃は音速を超越し、そして光速をも凌駕し――【時空の狭間】ごと切り裂いた。
「……成功したな」
たった一振り――
されどその一振りは、これまでに振るってきた数百億全てを合わせても敵わない程の価値を有していた。
俺はゆっくりと目を開く。
するとそこには、驚くべきものが存在していた。
「これは……空間のゆがみ?」
そう。それは1000年前、俺が【時空の狭間】に入ってくるときに通ったゆがみそのものだった。
その光景を見た俺は感慨深く頷く。
「そうか。ようやく、この時が来たんだな」
そして、確信と共にこう告げた。
「――これでやっと、低級モンスターに勝てるだけの実力がついたのか!」
間違いない。このゆがみが何よりの証拠だ。
俺がそれだけの実力を身に着けたからこそ、ようやくアリスティアがここから連れ出すためのゆがみを用意してくれたのだろう。
よく見てみると、ゆがみの先は別の世界に繋がっているようだ。
恐らくそこは異世界。アリスティアはゆがみを通り、異世界に足を踏み入れろと言いたいのだろう。
本人が直接迎えに来てくれないのは少し悲しい気がするが、今はそれ以上の興奮と喜びが胸中を埋め尽くしていた。
「ようやくだ。ようやく俺は【時空の狭間】を出て異世界に行ける!」
もちろん、1000年鍛えてようやく低級程度の力しか持たない俺にとって、異世界は厳しく過酷な環境だろう。
それでも、こんな何もない空間に一人で過ごすよりかは何倍も素晴らしいはずだ。
「じゃあな、行ってくるよ」
俺は【時空の狭間】に別れを告げるとともに、輝かしい未来に向けて足を踏み出すのだった――
◇◆◇
アリスティアがその異変を感じ取ったのは、ユーリの捜索を開始してから一か月と少しが経過したタイミングだった。
「これはいったい!? 突然、無限の空間の一部から膨大な反応を感じましたが……」
アリスティアは悩んだ末、その反応があった場所に向かうことにした。
ただでさえ手がかりがない今、どんな些細な違和感でも彼女にとっては貴重だったからだ。
「っ! やりました、ここは間違いなく私がユーリさんを送った……え?」
そんなアリスティアの判断は正しく、彼女は見事に自分がユーリを送り込んだ【時空の狭間】にたどり着いた。
ただし――
今、彼女の前にあるのはユーリの姿ではなく――異世界へと続く巨大なゆがみだけが残された空っぽの空間だった。
その光景を前にし、アリスティアは混乱に陥った。
「あ、あれ? ユーリさんの姿はどこに? いえ、それ以前になぜゲートが開いているんでしょう? 私が開いたものとは違うようですが……はっ、まさか!」
そこでようやく、アリスティアの中に一つの可能性が浮かび上がる。
「まさか……ユーリさんが自分自身の手で、このゲートを開いた!?」
しかしアリスティアはすぐに首を横に振る。
「い、いえ、ありえません。魔力を持たないユーリさんにそんなことができるはずもありませんし。しかし、それならこのゲートはいったい……」
何はともあれまずは確認。
そう思いゆがみに向かったアリスティアだが――
「あっ、ああっ! 待ってください!」
――タイミングが悪いことに、ちょうどゲートが閉じてしまった。
これではゲートがどこに繋がっていたのかすら分からない。
アリスティアは思わず、両手で自分の頭を抱えた。
「……いったい、どこに行ってしまったんですか!? ユーリさ~ん!」
何はともあれ、こんな風にして。
もうしばらく、アリスティアによるユーリ捜索は続こうとしているのだった。
◇◆◇
「これが、異世界か……」
ゆがみを抜けた先に広がる光景を見て、俺は感慨深くそう呟いた。
まず、目に飛び込んできたのは巨大な木々と周囲一帯を満たす草花。
頭上を見上げると美しい青色の空が広がり、太陽が燦々と輝きを放っていた。
つまるところ、どうやら俺は森の中に転移させられたらしい。
「この展開はちょっと予想外だったな。アリスティアのことだから、どこか初心者向けの町にでも転移させてもらえると思ってたんだが」
残念ながら、その期待は裏切られてしまったらしい。
「まあいい、1000年間修業したことに比べたら、この程度ただの些事だ。さっさと切り替えていこう」
俺はさっそく今後の方針を立てることにした。
「ひとまずの目標としては人が暮らす街を見つけることだが……その前にまず、この森から抜け出さなくちゃな」
とはいえ、ここは異世界の森。
恐らくモンスターも生息しているだろうし、俺の実力で無事に抜け出せるかは不明だ。
アリスティアの奴め。
せめて転移させる時に、最低限の情報くらい教えてくれても良かったのに……
内心でそんな恨み節を呟いている最中、ふと俺は閃いた。
「待てよ。何もそんな馬鹿正直に、歩いて森を出る必要はないんじゃないか?」
周囲は視界いっぱいの木々に囲まれている。
無計画に歩いたところで抜け出すことはできないだろう。
となると、他の手段を用いるのが一番だ。
「そうと決まれば――」
さっそく俺は、力強く地面を蹴って飛んだ。
グンッ、と。
勢いが強すぎたのか、かなりの重圧が襲い掛かってくる。
しかしそれもほんの一瞬。
すぐに動きは止まり、俺の体は浮遊感に包まれた。
「うんうん、いい眺めだ」
今のジャンプによって、俺は木々より数倍高い位置に浮遊していた。
上空からなら、周囲の様子がよく見える。
とはいえ、現時点ではまだ森しか見えない。
しかもこのままだとすぐに落下してしまうだろう。
ゆえに、
「【空歩】」
今度は地面ではなく大気を足場とすることで、前方に加速した。
空歩は【時空の狭間】で体術を鍛えている時に獲得した技術。
これさえあれば、どんな状況でも縦横無尽に駆け巡ることができて便利だ。
加えて、今の俺にとって嬉しい誤算が一つ存在していた。
「うおっ! やっぱり移動制限がないと、どこまでも加速できて気持ちいいな!」
【時空の狭間】にて、俺に与えられた空間には一定の広さしかなかった。
それゆえ、加速できる回数にも限界があったのだ。
だけどここは違う。
どこまでも広がる空に、終わりの見えない地平線。
1000年ぶりに味わる外の空気を堪能するように、俺は幾度となく大気を蹴り加速していった。
加速、加速、加速。
ものの1秒足らずで速度は音速を超え、それでも留まることなく加速していく。
ああ、なんて爽快感。このままどこまででも飛んでいきたいくらいだ!
(いや、落ち着け俺。わざわざ空を飛んでるのは上空から森の出口を見つけるため。もっと言うなら、人がいるであろう町を探すためだ)
俺はいったん加速を止め、左右をキョロキョロしながら空中を突き進んでいく。
移動すること約30秒。
右方に顔を向けてみると、ようやく目的の物が視界に飛び込んできた。
多くの城や居住が立ち並ぶ円形の街並みに、それを取り囲む巨大な城壁。
確かに人の営みを感じる町がそこには存在していた。
まず間違いなく、あそこに行けば誰か人に会えるだろう。
俺はまだ異世界に来たばかりで、こちらについてほとんど何も知らない。
アリスティアも教えてくれなかったし。
そのため、情報収集のためにもまずはあの町へ向かうべきだ
そんな風に、空を駆けながら考え事をしてしまっていたからだろうか。
俺がそれに気付いたのは、取り返しのつかないタイミングになってからだった。
『グォォォオオオオオ!!!』
(ッ、なんだ!?)
突如として尋常ではない威圧感を感じた俺は、慌てて視線を前方に戻す。
するとほんの10メートルほど先に、視界を覆いつくす程の巨大な何かが存在していた。
大きすぎて全身を見ることはできない。
(しまった! 空中だから何もないだろう思って、つい前を確認せず加速してた! このままだと衝突してしまう――)
しかも、相手が大きすぎるせいで回避すら間に合わない。
いったいどうするべきか。
そう思った時には既に、俺の体は反射的に動いていた。
腰元にある剣を引き抜き、あえてもう一度加速を行う。
その勢いのまま、光速の剣閃を瞬かせた。
「――――シッ!」
その渾身の一撃によって、目の前の巨体は軽々と両断された。
そうして生まれた隙間を、俺は加速しながら悠々と潜り抜けていく。
どうやら上手くぶつからずに済んだようだ。
そのまま500メートルほど突き進んだタイミングで、俺はふと今の正体が何だったのか気になり、減速しながら振り返ってみた。
するとそこでは、巨大な羽を持つ生物が真っ二つになりながら地面に墜落し始めていた。
……うん、なるほど。
「羽があるってことは、ただの鳥だったのか」
その割にはかなりサイズが大きく、肌もやけにゴツゴツしていた気がするが……
まあ、異世界ならそういうこともあるんだろう。
俺に一撃でやられたことから考えても、モンスターじゃないだろうし。
「まあいいや。鳥なんかより、やっと見つけた町の方が大事だしな。さっそく向かってみるとするか」
俺は方向を変えると、先ほど見つけた町を目がけて颯爽と駆け出すのだった。
◇◆◇
一方。
ユーリがその場から立ち去った後、残された彼女たちは混乱の只中にあった。
「今のは、いったい……?」
「おい、何が起きたんだ!? 竜がいきなり真っ二つになったぞ!?」
「一瞬だけ、流星のようなものが見えた気はしたけど……」
そこにいたのは、美しい容姿を持つ三人の少女。
彼女たちがそんなリアクションを取ってしまうのは当然のことだった。
この大森林に出現した最強のSランク魔物――スカイドラゴン。
天竜とも称されるその魔物との戦闘中、彼女たちの目の前で突如としてスカイドラゴンが真っ二つになって墜落してきたからだ。
(わ、訳が分かりません。私は夢でも見ているのでしょうか?)
冒険者の町『グラントリー』唯一のSランクパーティー【晴天の四象】。
そのリーダーを務め、そして程近くユーリと出会うことになる金髪の美少女アリシア・フォン・スプリング。
彼女はこの異次元の事象を整理するため、これまでの経緯を思い出すことにするのだった――
【大切なお知らせ】
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