シヴィルのひとりごと19「ウィリアムがむかし読んでた物語にこういうの出てきたっけ」
僕は馬を走らせてツァルニのとなりへついた。いちばん最初に北城塞都市で浴びた熱線を思いだし肌へ熱さがよみがえる。
「どうした? 自分の位置へ――」
ツァルニが口をひらきかけたとき、都市の中央で青白い雷が発生した。滅びの火が放たれようとしている。彼はそちらへ視線を向け、僕もツァルニを庇おうとした刹那。
「シヴィル、あれを見ろ!! 」
「え!? 」
ツァルニは塔より上を見ていた。
都市の上空へ得体のしれない飛行体が接近する。大型兵器の振動をうち消す声で吼えたソレは炎を吐いた。
中央塔の上部は損壊、同時に雷をまとった炎が僕らの上空をかすって一直線に伸びる。さけび声をあげた兵士たちは馬から投げだされ地面へころがった。大型兵器の衝撃波をくらい負傷者もでたけど直撃はまぬがれた。
「なんだアレは!? 」
動転した兵たちは空を舞う飛行体を指さした。おびえて動かなくなった馬をなだめ、僕も視線を上げる。
長い首に太いシッポ、大きな翼を羽ばたかせ都市上空を旋回する。その姿を僕は知っている――――ドラゴンだ。架空のはずなのにウィリアムの世界でも広く認識されていた存在。
敵はドラゴンを狙って兵器を発射した。レーザーのごとく高速で噴射される攻撃をかわしたドラゴンは大空へ舞いあがり、頭のむきをかえて翼をたたみ中央塔へ急降下してきた。
大型兵器の火とドラゴンの炎がぶつかり合い、目を開けていられない眩しさで景色は白くフェードアウトした。手のひらで目を防御した僕は指のすきまからその光景をうかがう。炎は発射口を逆流し、向こう側へ突きぬけた。
ドラゴンの影は高速で飛びさり、蛮族どもは塔を飛びおりて無音の爆炎があがる。
「みんな伏せろっ!! 」
僕は大声を張りあげ、ツァルニへ跳びついた。爆発の衝撃で大地はゆれ、飛んできた小石と土けむりが立ちこめる。逃げだす馬もいて周辺は混沌とする。
視界が晴れたとき、都市の中央は吹きとんでいた。大型兵器を失い、飛来したドラゴンを恐れた蛮族は逃走をはじめた。
角笛が鳴って西の大隊が都市へ攻めこむ、南側の大隊も体勢を立てなおした。ツァルニは人数を確認し、負傷者を見まわる。ラルフ率いる先頭の重騎兵隊はすでに突入してヴラド・グスタフを追っていた。
帝国兵を威嚇したドラゴンが降下してきた。大型兵器を破壊したからといっても味方ではないようだ。大隊へ号令がかかり陣形をととのえる。蛮族のつぎはドラゴン退治、こんなの命がいくつあっても足りない。
叫ぶ声がしてるけど僕の位置じゃ聞こえない、ドラゴンから何かが降りてきた。あれはリトルグレイ――――ではなく上下グレーの服をきた小さい人間。フードをかぶって目元しか出てないので宇宙人にも見える。
リトルグレイがフードを脱ぐと、黒い髪があらわれた。
(ミナト!? )
ミナトは帝国歩兵とドラゴンのあいだへ割って入り、戦いを止めるよう叫んでいる。状況は緊迫していてミナトが帝国兵に攻撃されないか不安になった。
彼のもとへ行こうと手綱を引いたら、停止の角笛がなり前衛の歩兵部隊が左右に割れた。副帝アレクサンドロスが姿を現わしミナトと会話してる。いつ副帝と知りあいになったのか、ビックリし過ぎて僕の目からうろこが落ちそう。
この世界にドラゴンがいるなんて思いもしなかった。
そりゃあ妖精がいるし、ドラゴンくらいい居ても不思議じゃない。どうして簡単な疑問にたどり着けなかったのだろう。最初からあきらめてこの世界を見ようとしなかった僕と彼のちがい、ミナトは信じてそこへたどり着いたのだ。
都市の東側がさわがしい。遅れていた帝国の援軍かと思いきや歩いてきたのは巨人、角とシッポの生えた大きい亜人だ。先頭は白銀ウロコの2足歩行ドラゴン。さすがにファンタジーすぎて噴き出してしまい、ぼうぜんと見ていたツァルニに怪しまれ慌てて口元をおおい隠す。
アレクサンドロスは微動だにしない。副帝がおどろいてしまえば兵はパニックになる。ドラゴンにも臆することなく悠然とした副帝は、白銀の竜と南のテントへ入った。号令で大隊も動きだし、守備をかため救出と瓦礫の撤去をおこなう。
僕は馬を降りて走った。
滅びゆく世界へ降りたった希望を抱きしめる。知ってるメーカーの登山服だ。そこの服は格好いいブルーやちょっと目立つ黄色があっただろ、よりにもよって1番地味なグレーを選ぶなんて、ミナト。
彼はラルフをさがしていて、明確な意思をもって変えにきたのだと気づいた。僕らよりはるかに小さくて非力なのに勇気と希望をあたえる。
「ラルフ様を追うぞ、シヴィル、ブルド。イリアスはここへ待機してくれ」
「もちろんです!! 」
「俺はお留守番ですかい……」
ツァルニのかけ声にブルド隊長は満面の笑みをうかべ、イリアス隊長は残念そうに肩をすくめた。
ラルフはすぐ見つかった。劇的な再会をしたミナトは敵の将軍と崖に落ちてしまい、飛び込もうとするラルフを皆でおさえて引きずった。川の水量が多いから流れついてるかもしれない。僕は馬へのって川下へ走った。
足元へ蛮族の死体が転がってる。まさかミナトがやったのだろうか、心配したけどケガはしてないようだ。
「ミナトォォォ!!! 」
追いついたラルフにポイと投げられた。覚えてろ金色ピカピカ、いつか投げ飛ばしてやるからな。崖の上でも半べそかいていたラルフはミナトへ抱きつく。ものすごく泣いて、ミナトが喋ってること聞いて素直にうなずいてる。
(あれれ? ラルフっていがいと弱虫……? )
ふだん太陽のような笑顔で堂々ふるまうラルフのイメージがくずれる。ミナトと2人っきりのプライベートな姿は見たことがなかった。
肩へ手をおかれてふり向くと、ツァルニが微かに笑った。




