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シヴィルのひとりごと17「作戦開始」


 ミナトは治療を手伝い、定期的にテントへおとずれる。ツァルニもつぎに目覚めた時は落ちつきをとり戻していた。イリアス隊長や他の兵士の話を聞きいれ、書簡をやり取りするまでに回復した。


「ツァルニ~、体()くからそれ置いて」

「ん……? ああ……、いや自分で――」

「僕が(おお)せつかってる仕事なんだよね、ほら~はやく脱いで! 」


 有無(うむ)を言わさず服を脱がせる。眠ってるうちは全部やってたのに、いまはツァルニが自分でするから僕の取りぶんが減った。さらにミナトが来てしまうと、治療のついでに手際(てぎわ)よく終わらせてしまうので僕も必死だ。


 服を着た彼は、しばらく考えるそぶりをして顔をあげた。


「シヴィル、ちょっと付き合ってくれ」

「え!? なに? よろこんで~! 」


 僕の思ってた事とはちがった。


 テントはずれの広場で兵士たちは自主練に(はげ)んでいる。準備運動したツァルニは木剣をかまえた。眼帯をしてるツァルニは僕の心をくすぐる。しかし片目だと距離感はつかみにくい、彼は片目でも剣を使えるように訓練をおこなう。

 以前の彼だったら(ひと)りで練習していたかもしれない。僕を相手に選ぶくらい心を許してる認識でいいだろうか、にやけていたらツァルニの剣が(ほお)をかすった。


「気を抜いていたら、にやけ(づら)に穴があくぞ」

「へえ~言ってくれるね。そろそろ僕に泣かされるのは、ツァルニの方じゃない? 」


 ()くことなき剣を交わす。剣は生き残るための手段のひとつ、(ゆう)(ゆう)がぶつかり合う。僕と彼の剣のさきには、それ以上のものがあるように感じた。


 そんな僕たちに激動(げきどう)の試練がふたたび降りかかる。




 東へ遠征に行くはずだった副帝が戻り、たくさんの帝国兵がプラフェ州へ上陸した。僕はいなくても大隊がなんとかしてくれそう、だけどツァルニはそんなわけにもいかない。


 下っぱの兵には詳しい事情は伝わらない、ラルフ不在のまま出兵が決まった。副帝アレクサンドロスが指揮して、北城塞都市(きたじょうさいとし)奪還(だっかん)計画が発表された。ヴァトレーネは見通(みとお)しがつくものの、北城塞都市にはまだ大型兵器がある。アレクサンドロスは『個』は見ない、(ひき)いられた僕らはチェス(ごま)みたいに扱われるだろう。あの日見えた細い道がなくなってしまったように思えた。


 僕らの出兵を聞き、めずらしく怒りをあらわにしたミナトが姿を消した。


 捜索(そうさく)したけど痕跡(こんせき)もみつからない。最後に目撃されたのはエリークといっしょに戻ってきた丘のふもと、戦のつづくこの世界が嫌になり帰ってしまったのかもしれない。『渡れる』彼なら、いまごろは国で安寧(あんねい)に暮らしているはず。


 山奥の村では初雪のふる季節、帝国は本格的な冬が来るまえに北城塞都市を奪還するつもりだ。




 ヴァトレーネの町はひどい状態だった。川ぞいの建物は瓦礫(がれき)と化し、大型兵器により南広場の建物もくずれてる。わずかに残っていた北の建物は味方のカタパルトで破壊され見る影もない。


 心配になって視線を横へやると、ツァルニはまっすぐ町を見ていた。


「ツァルニ兵長! 復帰しても大丈夫なのですか!? 」


 ブルド隊長が息を切らせ走ってきた。ツァルニがうなずくとブルド隊長は安心して息を吐く。前線といっても川をはさみ、交代しながら遠距離(えんきょり)攻撃をおこなうため余裕がある。


「やはりラルフ様は戻って来られないのですね……」

「いまは出られる状態ではないそうだ。ヴァトレーネをとり戻すため、力を貸してくれ」

「もちろんですよ!! 」


 ラルフはカリスマ的存在、そこへ立つだけで兵の指揮があがる。有象無象(うぞうむぞう)が持ちえない賜物(たまもの)、けれど彼がいなくても僕らはツァルニのもとこうして動いている。




「ツァルニ兵長っ」


 イリアス隊長が到着した。


 南門へ港町の兵が整列していた。北城塞都市の攻略前にまずはヴァトレーネの奪還、僕らは東と西から蛮族をはさみ討ちにする。帝国の大隊はヴァトレーネの南へ待機(たいき)、敵の本隊を引きつける。


 作戦に参加する港町の指揮官が山岳馬で歩いてきた。


 バルディリウス。ヒゲをはやして貫禄(かんろく)のある顔は歴戦をうかがわせる。ツァルニの父親だからこっそり見にいったことはあるけど、近くでは威圧感(いあつかん)がはんぱない。港町の司令官だが今回の作戦では西へまわりこむ兵の先頭へ立つ。


「ツァルニ兵長、ともに作戦を実行できてうれしく思う。北側の敵を打ちやぶり、またお会いしましょう」


 親子でもなく、おなじ立場の者同士の会話だ。馬をおりてツァルニとかたく握手をかわし、編成された兵の所へもどった。港町の兵を案内するイリアス隊長が僕へ目配(めくば)せして笑う。


 イリアス隊長の表情から再会の希望がつたわった。




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