シヴィルのひとりごと12「来たるべき時」
父は荷車へ苗木を積みこんだ。接ぎ木の選定をはずれ廃棄する予定だったリンゴはどれも父が大切に育てたもの、土台の木さえあればヴァトレーネでもリンゴは育つ。全員ではないが移住を希望する村人を連れていく、ラルフとの交渉は完了してる。富を分配しない農園主と決別のときだ。
帰り道、北城塞都市へ早馬が駆けるのを目撃した。異変はすでに始まってる。壁の内側にいたころは分からなかったが、上層部は蛮族の変化を知っていた。
ヴァトレーネへ到着すると、港町へ行ったはずのラルフが帰っていた。ものものしい雰囲気で見たことない港町の兵士が出入りしてる。
「シヴィル、帰ってきたか! 」
「ツァルニ兵長! いまの状況は? 」
ツァルニから情勢をきく。小国だった冬の国が周辺をまとめ、急速に拡大していた。非友好的な国が近いうちに侵攻する所見を北城塞都市の司令部が出した。ブルド隊長からラルフへ伝わり、ヴァトレーネ兵も召集される。
エリーク達が避難してる建物へ両親と村の人を送りとどけた。これから先ヴァトレーネの兵士として僕も戦う。おどろいたことに安全圏にいたミナトも帰ってきた。ラルフと揉めてたけど、ギリギリまでここへ留まる決意を述べた。
北城塞都市の陥落。
ラルフが騎馬兵をひきいて逃げる人々を援護する。ブルド隊長とともに別動隊へ配置され、出陣するツァルニのケガは防げない。敵の追撃兵をおびきよせ谷間で落石させる。日が暮れて夜になっても足を止めず動きつづける。
敵と交戦していた重騎兵隊のちかくで大規模な落盤が発生した。味方も巻きこまれそうになり、明かりのない暗闇を馬で駆けぬける。不自然に光る狼が横ぎり、後へついて脱出した。
過酷な状況をのりこえ3日目の夜が明ける。先頭集団が北門へ入ったのを見届け、ブルド隊長は向きをかえた。
「我々はこのまま北へ向かう!! 」
僕らはもうひと仕事残っている。パンと干し肉のかけらを口へ押しこみ、敵の動きを偵察しに北へ行く。
何度もみた光景、大型兵器が蛮族たちに曳かれて進軍していた。崖くずれを起こしたものの、たいして時間稼ぎにもならない。
追ってきた敵兵のなかに黒い毛皮の大男がいた。まえの世界でツァルニが帰らなかった原因はコイツ、やらなければならないと直感的に理解した。馬で走りながら矢を浴びせるが、むこうも卓越した馬さばきで避ける。ヤツは真うしろまで迫り、剣が僕の頭上をかすめた。
手綱をゆるめ馬のスピードを落とし、相手の馬の腱を切る。
黒い毛皮の男は落馬して、嘶いた馬は横だおしになった。追いついた他の敵兵が矢を撃ってくる。黒い毛皮の男は起きあがり、アイスブルーの目がこちらを睨みつける。
「くそうっ、このくらいじゃ何ともないのかよ!? 」
「熱くなるな! はやく引けシヴィル!! 」
隊長に引きもどされ、ヴァトレーネへ帰還する。ルートを変更したけど見張り塔は落とされた。敵はあらかじめ塔を襲撃する手筈をととのえていたようだ。
ツァルニが作戦室から飛びだした。
作戦室にいたミナトもいっしょに出てきて彼の背中を見ていた。きっと以前は僕もおなじ表情をしていたのだろう。壁にもたれていた僕はミナトの肩へ手をおいた。
「僕も行ってくる! 」
心配した表情のミナトは何度もうなずいた。君をここへ置いていくからこっちはお願いとは声にしなかったけど、悲劇のさなかにあらわれた希望、ミナトがいるおかげで心残りなく走り出すことができる。
僕の戦いはこれからだ。ツァルニの後を追いかけた。




