シヴィルのひとりごと11「北城塞都市へ」
ミナトはラルフの屋敷へ引っ越すことになった。接点が減るから僕は反対だったけど、兵長と貴族のあいだに不正な合意が交わされていた。ラルフは誰にでもフレンドリーだが、あそこまで気にいるのはめずらしい。無慈悲な太陽のかがやきにミナトが耐えられるか心配だ。
エリークを家族の元へ送る日がやってきた。北城塞都市には行きたくないし、少年を送るのもためらう。どうしたものかと思案していたら、ミナトが相談をもちかけてきた。
(エリークの家族をこっちへ呼びよせるだって? )
彼はこれから北城塞都市でおこる悲劇は知らないはず。探りを入れるとエリークの妖精がミナトのまわりを飛んでる。妖精の声が聞こえるのだとなっとくした僕は、彼の肩を叩いてうなずいた。
少年を送ったついでにやることもある。北城塞都市へはこぶ荷車は帰りも使用する予定だ。
「シヴィル、あまり遊ぶなよ。早めに帰ってこい」
兵長が見送りにきた。
「本当は僕がいなくてさびしい? 」
あつあつの新婚さんみたいだと妄想してたら、真顔のツァルニに膝を叩かれた。手のひらでやさしくではない、げんこつのグー。口を尖らせた僕は手綱を引いて出発した。
道中は馬車で走りつづけても2、3日はかかる。蛮族にたいした動きはないけれど、もうすぐあの日がやってくる。
北城塞都市へ到着した。護衛の1人に伝言をたのみ、僕の村へ行ってもらう。
少年の両親とはすぐ会えた。軍の機密情報をもらすフリをして説得した。エリークは両親と町をでる準備をしはじめ、僕にはしばしの余暇ができる。
石とコンクリートの四角い街なみ、壁にかこまれた息ぐるしい都市。もどることは望まないが懐かしさは感じる。路地裏へはいり、酒場や娼館のある通りへでた。あの店へ通った、あっちの店の酒は粗悪で不味かった。建ちならぶ店を横目に歩いていると、見覚えのある顔とすれちがった。
ラドリム。
ここにいた頃の班長と仲間、非番でこれから酒場へいくようだ。一瞬目があったけれど素通りした。そりゃそうだ、ここへ来なかった僕は出会ってもいないのだから。
僕は止めた足をすすめた。
また止まって、ふりむく。
「待って、すこし話を聞いてください」
ラドリムを追いかけ予言めいた忠告をした。蛮族の襲来と大型兵器のこと、怪しまれないように他人から聞いた話だと伝える。訝しんだ表情のラドリムと仲間は笑って歩き去った。イカれた若者に話しかけられたと思ったのだろう。
北城塞都市へ来たくなかった理由のひとつ。僕は英雄じゃないし彼らを救うことはできない、だけど何もしないよりはマシなのかもしれない。
北城塞都市で最後の夜をすごし、エリーク達の移住手つづきをして出発日は決まった。
「ブルド隊長。人、増えてませんか? 」
「親御さんの知り合いも一緒に来るんだよ。采配はこっちで決めていいと、兵長が言ってたから問題ないぞ」
荷馬車がたりるか気をもみ、隊長と交渉して新しい荷馬車を調達した。エリークはとんぼ返りなのに、元気よく走りまわって将来大物になる予感がする。
「シヴィルも村へ戻るんだろ? せっかくだからゆっくりして来いよ」
ありがたいけど、ゆっくりもしていられない。エリーク達をブルド隊長にまかせ、僕は荷馬車を引いて北城塞都市をでた。のどかな道を行き、山奥の景色はリンゴ畑へかわった。
ちらほら藁ぶき屋根の家がたち、故郷が見えてくる。
「シヴィル、やっと来たか! 」
「や~、フィリップありがとう」
僕の家からフィリップが出てくる。馬車の護衛をしていた彼に家族への伝言と用事をたのんだ。故郷に似ているらしく、鎧を脱いですっかりリラックスしていた。
「シヴィル! おかえり! 元気そうでよかったわ~」
ママンが出迎えて抱擁を交わす。今日のことは村を出ていくまえに伝えた。収穫期の終わった父さんもいて、家の荷物はまとめられていた。
蛮族がヴァトレーネへ押しよせたとき、僕の村はどうなったのか考えた。山奥だから無事だった可能性もある。しかし北城塞都市が壊滅して流通も治安も無くなっただろう。
両親と食卓をかこみ、最後の晩餐をおこなった。フィリップもすっかり溶けこんで家族の一員と化している。誕生日くらい豪華でヤギ肉のシチューと母の焼きリンゴが食卓へならんだ。




