シヴィルのひとりごと10「変転」
こうして僕はヴァトレーネでの兵士ライフを再開した。
「ツァルニ~、床がつめたいからベッドで寝ていい? 」
「自分の部屋にベッドがあるだろう? 」
僕は抜け目なく彼の部屋へかよった。前はいきなり馬乗りになったけど、今度は逆をいく。持参した毛布をかぶり、さみしい青年を演じるがベッドへたどり着くのは至難の業。腹にいちもつ抱えるオオカミはなかなか接近できない。
表情ひとつ変えない男は、ランプのそばで読書に勤しんでる。文句を垂れているとツァルニがブランケットを投下して、ちいさなぬくもりに包まれ眠りにつく。最近は匂いでも反応するようになった。若い血潮を制御するのは大変だ。
ラルフが水門を見学した日、違法の奴隷商人を捕まえて帰ってきた。夜遅くまで取り調べしてて、非番の僕はツァルニが部屋へ帰ってこないのを不満に思いつつワインを飲んで寝た。
翌朝からエリークが兵舎へ出現するようになった。兵士だらけのむさくるしい場所、天使のごとき少年がアイドルになるのは早かった。少年が訓練を見守るなか目じりをさげた兵士どもは大げさに立ちふるまい、ツァルニの怒号が飛んだ。
エリークのそばには妖精がいた。目で追っていたら見つかって内緒にしてもらう、少年は声まで聞こえる様子で僕は舌をまいた。
あの日飛んでいってしまった白い光――ラルフのそばにいた妖精は見かけない。エリークも前回は出てこなかった、確実になにか変化している。
エリークは森で妖精を追いかけていたら賊に捕まったらしい。賊は山奥の村を荒らしていた為、警備隊が出発した。
訓練を終えて歩いてると、いっしょにいた少年は走っていった。
「エリーク! 」
「お兄ちゃん! 」
知り合いのようだ。この地域じゃ見かけない漆黒の髪。
(――――おいおいおい)
しかもワイシャツにネクタイ。この世界へ来た時に可能性を考えなかったわけではないが、実際目にすると言葉をうしなった。エリークと楽しげに話す彼は、生まれ変わったのではなくて『渡った』のではないだろうか。
周囲を見まわしても驚いてるヤツはいない。ゴクリと喉を鳴らした僕は思いきって足を踏みだす。挨拶をしたとき、わずかな仕草に釘付けになった。ペコペコとお辞儀をする姿は心あたりがある。
ジャパフェスでもないのに日本のサラリーマンがいる。彼らの正体は宇宙人だとつぶやいてた友人の記憶がよみがえる。
いきなり異世界やマンガの話題をだせば引かれるに決まってる。ゲームチャットで日本人を見かけた友人は、知ってるかぎりのアニメ語で爆死していた。ジャパニーズがみんなアニメを愛好してるわけではないのだ。
(落ちつけ! いまの僕はウィリアムじゃなくてシヴィルだ)
ウィリアムとシヴィルの記憶が錯雑する。いろいろ質問したいのをおさえ、遠目で見守ることにした。本当に宇宙人かもしれないから不審に思われてはいけない。自然に仲良くなるのがベスト、距離が縮まればおのずと話も聞けるにちがいない。
僕は正体がバレないよう、ミナトを観察することにした。水浴びのあと困っていたので、支給品の服を渡したらよろこんでいた。
仲良くしようとしたら横やりが入る。
太陽のごとき光を発するラルフに消しとばされたり、仁王立ちのツァルニに兵舎まで耳を引っぱられた。後者が嫉妬だったら悪い気はしないのに。にひひひ、いけない心の声が駄々もれしてる。
「シヴィル! 叱られてる時に笑うな! 」
ゴチン、げんこつ喰らって星がでた。
覚えてろ、いつか泣かせてやる。――――泣いたツァルニは見たい、僕の心の奥底で悪魔がらんらんと目を輝かせる。いきなり夜這いをかけるとガードが固くなるのは実証ずみ。真綿で絞めるように緩慢に、気づいたときには逃げ道はない策略。
ツァルニに頬を引っぱられて顔が伸びそうだ。考えてること表情に出てた!?




