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シヴィルのひとりごと9「3度目のチャンス?」




――――どうしようもない世界さ。




『転がる石よ、こんていに怒りを持ちしもの。世界へ変革(へんかく)をもたらす者のひとつ』


 どこかで聞いた声。北城塞都市(きたじょうさいとし)の、いやそのもっと前から知っている。ウィリアムが死んだ時に聞こえた声、ずっと僕に付きまとってる。


ウィリアムもシヴィルも人生を他人事のように傍観(ぼうかん)してた。決められた道、決まった人生をどこかで(あきら)めていた。どうしようもないのは世界じゃなくて僕だ。


『走りなさい、変えたいのなら。道はあの子が――』


 声がふえた。静かなささやき声が方々でひびく。


「うるさいっ、耳元でしゃべるな!! 変えるだって? あれが変わるならいくらでも走ってやるよ!! 」


 僕が転がる石だったら、おまえらは(こけ)むして()ちた化石。僕は僕らしく、道ばたの石のようにどこまでも転がってやる。


 あるかどうか分からない心臓がやぶれ、足がちぎれるほど走った。大きな道が(まじ)わる先へ見えないくらいの細い道があった。ちいさな妖精がとおった奇跡(きせき)、僕はそこへ飛びこんだ。






 会いたい、もういちど彼に!!! 






「あらシヴィルお腹すいたの~? よしよし」


 泣いていた僕は母に抱きあげられ背中をさすられた。お腹いっぱいになってゲップして、決意をむねに眠りへついた。






**********


「じゃ行くよ、母さん」

「気をつけて行くのよ~。これも持っていきなさい」

「そんなに持てないって。そうそう、あの話父さんにもしておいて。焼きリンゴ美味かったよ」


 南へいく馬車へ乗る。遠くの畑では来年の収穫にむけ、リンゴの木を剪定(せんてい)していた。父もいそがしく働いていることだろう。




「シヴィルというのか……若いな」

「えへへ。ぴちぴちで役に立ちますよ~」


 ニコリとも笑わない兵長と面談する。同じやり取り、向こうは初対面(しょたいめん)だ。書類を記入していた手が止まりツァルニは顔を上げた。相変わらず不愛想(ぶあいそう)、あの日とおなじ目は窓辺の光を反射して僕を()ぬく。


「……入団試験(にゅうだんしけん)をするのはかまわないが、本当に受けるのか? 」


 兵長は怪訝(けげん)そうな顔でこちらをうかがってる。前回はなかったやり取り、不思議におもって(ほお)へ手を当てたら原因がわかった。僕は満面の笑みを浮かべていた。


「ああ~気にしないで、これ元の顔ですから」


 ぜんぶ白紙、彼は以前あったことを何ひとつ覚えてない。それでもかまわなかった。これから(きず)き上げればいい、僕にとっては障害でもなんでもない、彼がそこに()ることがしあわせだ。


 あと、前よりは上手(うま)くやる。




 入団試験が開始された。訓練所の広場へ兵士があつまってまわりを囲み、木剣をかまえたツァルニと相対して立つ。


「本気で来い」


 ツァルニの言葉に僕は笑って木剣を突きだす。チートと言われようが、前世の記憶にあるかぎりの訓練をおこなってきた。対人戦は村はずれでつかまえた盗賊(とうぞく)くらいだけど、こんかいの僕はタフだ。


もちろん兵長の動きやクセも覚えてる。前世の入団試験のときは、一太刀(ひとたち)どころかその場から動かなかった彼が1歩後退(こうたい)した。


「そっちこそ本気だしたほうがいいっすよ。僕、つよいですから」


 今ならわかる、すべての場面で手加減(てかげん)されていた。打ち合いで木剣に亀裂(きれつ)が入り、破片(はへん)が舞う。ツァルニの剣が視界へせまり、剣筋(けんすじ)を見切った僕が頭を低くすると毛先をかすめた。


もとの位置へもどろうとする彼の足を踏んで剣を振りあげる。(もも)へは当たらず垂直に落とされた剣に(ふせ)がれた。


「……っ!? 」


 相手がバランスをくずしたのを見逃(みのが)さない。姿勢を低くしたまま大きく踏みこみ、剣を突く。しかしツァルニはとどまり剣をよけた。流れるように体勢をかえて僕の腕へ木剣を振りおろす。




 バシィッ。


 勝負は一瞬。


「いったぁ~」


 ツァルニは兵長の威厳(いげん)をたもった。地面へ手をついた僕の首元へ、木剣の先が突き付けられる。剣に叩かれた腕が赤くなって、明日は(あざ)になってるだろう。見ていた兵士たちが歓声をあげて手ごたえを感じた。弓の腕を披露(ひろう)するまでもなく合格だ。


 差しだされた彼の手をにぎり立ち上がる。


「採用だ。シヴィル」


 荒い息をととのえる彼を見て、僕は口元をニンマリさせた。これからもっと強くなる。あなたを()えて守れるほど、そして黒い毛皮の大男も倒せるくらい強く。


(油断してると僕に下克上(げこくじょう)されちゃうよ、ツァルニ)


 気は()くけど(あせ)らない、彼のそばに居られるよう調整もしないといけない。


 背の高さは迫ってるけど僕の体は細身のまま、どうやらこの体は限界まで鍛えてもさほど筋肉がつかない。帝国兵士みたいにガッチガチのムッチムチ体型になるには、たんぱく質が足りないのだろうか。


村にいる時、かくれて飲んだヤギ乳では不十分だったようだ。成長期の体はまだまだ伸びしろがある。筋力を強化する食べもの、こんど食堂の親父に聞いてみよう。




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