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シヴィルのひとりごと8「最高に最低な日」


「ツァルニ~、見張(みは)(とう)から走ってきた僕をねぎらって~」

「そうか、では体と頭が温まっているうちに暗算(あんざん)しながら剣のすぶりだ」


「ツァルニ~、いっしょに寝ようよ~」

「夜中にくるなと言っただろう! 俺の部屋で寝たいなら床だ! 」


 つめたい石床へ横になって文句たれていると、ツァルニが毛布を上からかぶせる。塩対応(しおたいおう)のなかにぬくもりを感じないこともない、僕は彼の体温がのこる毛布へくるまり床へころがった。


 北城塞都市(きたじょうさいとし)にいた頃にくらべて長閑(のどか)な日々、ささくれていた心は(いや)される。たまにツァルニをからかい、怒る彼をみて満足にひたる。




 ひょっとして僕の求めてた日々は――――、あの日がやってきた。




 北城塞都市は陥落(かんらく)してヴァトレーネも戦火に巻きこまれる。3日3晩(みっかみばん)、馬で走りつづけ避難民を南へ逃がした。偵察(ていさつ)で北へおもむくと最悪な大型兵器が1台ヴァトレーネへ向かっている。


起伏(きふく)のある山道を蛮族(ばんぞく)の群れがすすむ、毛皮をかぶった脳筋(のうきん)どもは力まかせに巨大な兵器を()く。


「隊長! あそこの崖、(くず)しましょう!! 」


 とっさに崖を見まわし、目についた岩盤(がんばん)を指さした。岩を落とせば道をふさげる。うまくいって崖くずれが起こったけど敵は人数の多さで岩を取りのぞく、蛮族なのに統制(とうせい)のとれたうごきだ。


「これでは、たいした時間は(かせ)げない。いったん引きあげるぞ!! 」


 隊長の命令でヴァトレーネへ引きかえす。こちらに気づいた敵の追手へ矢をあびせ、相棒の馬を走らせた。黒い毛皮の大男が真うしろまで(せま)ったが崖でふりきり帰還(きかん)した。




 作戦本部は騒然(そうぜん)としていた。北城塞都市の生きのこりから大型兵器の情報を得ていた。


 見張り塔が落とされた一報(いっぽう)がはいる。僕らが逃走につかったルート上にたつ塔。なんてことだ、振りきったはずの敵は奇襲(きしゅう)をしかけてきた。


作戦室からツァルニがとび出し、山岳隊をひきいて奇襲してる敵を()ちに向かう。肩あては(こわ)れ、甲冑のしたは血に染まってる。そんなケガで無茶(むちゃ)だと彼を止めようとした。


「ツァルニ、ケガして――」


「シヴィル、よく帰ってきた。いまはしっかり休め、ラルフ様のそばを離れるな」


 僕の肩をつかんだツァルニは微笑(ほほえ)んで力強く言った。笑った顔が目に焼きつき、ちいさくなってゆく背中を見送る。


それがツァルニを見た最後だった。彼は帰ってこなかった。




 冬がやってきた。


 大型兵器は発射され、ヴァトレーネも()えた。




 すごく痛い。


 燃えあがる瓦礫(がれき)の下、立つこともできず僕の腕と足は向こうへ転がる。すぐそばに倒れていたラルフは動かない。


 激痛で叫びたくなるのを(おさ)え、橋を落として敵の侵攻はとまるだろうかと考えた。大型兵器が作動してる振動(しんどう)がつたわる。ぼんやり虚空(こくう)を見つめていたら、白い光りがラルフの上を飛んでる。顔も見えない彼の背中へ舞いおりて寄りそった。


「おまえ、いつも兵舎でふわふわ飛んでたヤツじゃん」


 しゃべる相手がだれもいなくて妖精へ話しかけた。失血がひどく死ぬまでの時間つぶし。


「あ~あ。どうしてあの時、追いかけなかったんだろ……ゲームだったらリセットしてやり直せるのになぁ……」


 後悔を口にした。(なげ)いてからさらに後悔は深まった。そうだ、僕はどうして彼の背中を追いかけなかったのだろう。


 つぎは。


(次? 次なんてあるのか? )


 ラルフでも、こんな強いヤツでもダメだった。僕なんかが頑張ったところで何か変わるのか? 白い光りがしゃべってる。やりなおす? おねがい? 寝てるカミサマなんてクソじゃねーか。


「おいおい、そんな簡単にできるかっての……まあ……いいや……もう千切(ちぎ)れたところも痛くな……い……」


 僕とちがって純粋(じゅんすい)な光はどんどん上へ飛んでいく。ちいさな妖精は空へ消え、()わりに雪がチラつく。体は冷たくて痛みはないのに心は痛いまま、気づいたら僕は泣いていた。赤く染まった大地へ取り残されて、白い光りの飛んでいった空をながめた。




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