シヴィルのひとりごと6「僕のやせい」
「シヴィル! 」
「あちゃあ~、見つかった~」
顔が判別できないように、ずっとヘルメットを被ってカモフラージュしてたが逆効果だった。いまは読み書きのお時間、不自然な銀のヘルメットがいなくて気づかれてしまった。
いそいで残りのパンを詰めこんだ僕は、口を動かしながらツァルニに勉強部屋へ連行された。
ため息を吐きわたされた粘土板と向きあう。ホワイトボードはないけれど、文字を書いた木の板をかかげたツァルニは懇切ていねいに教えてくれる。よゆうの笑みを浮かべてみたものの、数分後には他の兵士らと同様あたまを抱えてうなった。
さっきまで食べてたのを目撃されて、昼の時間もサボった分の復習をさせられる。ツァルニは食べてないのに時間をけずってまで僕につきあう。
(マジメだねぇ~)
あいかわらず不愛想な表情、この男の顔がくずれる事はあるのだろうか。マジメくさったその表情を引き剥がしてみたい、胸の奥でよく分からない衝動がむくむくと湧きおこる。
彼を見ているとイラつく。期待をせおって努力すれば報われると信じてる表情、それとも僕になんか目もくれず目的へ向かって歩いていく姿が気に入らないのかもしれない。これはウィリアムのころから持っていた捻くれた心、奥底にすむ悪魔。
僕のなかのオオカミが牙を剥く。
理性が働いてた向こうの世界じゃあらわれもしなかった本性。
**********
どうして行動に移してしまったのか理解できない。遅くまで酒を飲んで自分の部屋へ帰ってる途中だった。まっくらやみの廊下を息をひそめて歩き、たどり着いたのは彼の部屋。
深夜なのに部屋のランプは点いていて、ツァルニはベッドで書物を読んでる。僕は影から忍びよって馬乗りになった。闇の不意打ちなら勝てそうな気がする。
「シヴィル!? 」
おどろいた声が部屋へひびき、僕は唇のはしを上げて笑った。冊子を落としたツァルニを押さえつけると抵抗にあい、しばらく取っ組み合いがつづいた。
「アンタさ、もともとこの地方の部族なんだって? 犬みたいに帝国のヤツらの言うこと聞いてて悔しくないの? 」
上から押さえつけ、ナイフで切りつけるように言葉で傷をつけてえぐる。どんな反応をするのか楽しみで口元の笑いが抑えられない、鏡があったらさぞ悪魔の笑みを浮かべているのだろう。
暗い愉悦にひたり至近距離から見つめた。顔は触れるほど近く、おたがいの荒い息づかいがつたわる。
「……帝国が入ってきたのは、俺の生まれるまえだ。良し悪しもあるし、拒否をしめす者もいる。すくなくとも俺は文化と教育が入ってきて世界が広がったと思ってる」
ツァルニは動じなかった。僕に馬のりになられた状態でもひたむきに答える。光りを反射する目がまっすぐに射し、こっちが攻撃してるのに矢で射ぬかれた気分だ。
上半身を引くとツァルニの姿がランプに照らされた。息があがって上気した彼は、みだれた服の胸元を上下させている。
僕は息を呑みこみ、あることに気づいた。
――――息子が反応してる。
ツァルニを見下ろしたまま時は止まり、考えようとしたけど度数の高いワインをいっぱい飲んだ頭はまわらない。
(あれれ?? えーい、ままよ!! )
彼のチュニックをめくって、ぼんやり見えるパンツを引き下ろそうとした。
部屋が暗くて思うようにいかず、僕の手はゴソゴソと這いまわる。そのあいだに反撃にでたツァルニがあっというまに体勢をくつがえし蹴とばされる。さらには筋肉質な腕で首をかためられ、さいごにげんこつを喰らった。
もちろん手加減はなし。
石床のうえへ正座させられ、そこからたっぷり2時間は説教された。僕がやったことは酔っぱらいの強硬で片づけられた。
ツァルニのガードは固くなり、僕の若い体の血潮を発散させるため訓練やランニングの周回がふえた。
山の見張り塔まで馬なしで走れなんて、あんまりだ!




