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精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる  作者: かざみん
第三章 太古に眠りしドラゴン

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冬の国の第2皇子

 落下する浮遊感(ふゆうかん)は内臓を押しあげる。急流のなか(ぼう)きれみたいにキリモミして流される。蛮族(ばんぞく)の手はにぎったまま放さなくて、大きな体躯(たいく)と共に激流(げきりゅう)へのみこまれ必死でもがいた。


「ゲホッゲホッ! ……うう……ハアハア」


 浅くなった川瀬(かわせ)に蛮族の体が引っかかり命は助かったようだ。(みなと)は腹ばいで(せき)をして川の水を()きだす。


 うつぶせに倒れた蛮族はかすかに息があるものの意識はなく、手首は解放された。よく見ると脇腹や右肩と腕に火傷があって(つぶて)や金属片が刺さっていた。放っておいても出血と寒さで息絶(いきた)えるだろう。


 立った湊は川原をのぼった。しかしため息をつき引きかえす。




 蛮族の両腕を持って川瀬から引き上げた。


「ハアハア、(おも)すぎっ」


 あるていど川から離れたところで尻をつき荒く呼吸する。腰の袋に手が当たりナディムからもらった革袋だと気づいた。竜人の国を出発するまえに入れ替えた薬も(おさ)めてる。中身は()れていたが使えそうだ。


 蛮族の鎧を()がし、皮膚へめり込んだ石片や短い金属片を取り(のぞ)く、大きな血管には刺さってなくて無事だった。むこうの世界から持ってきたサルファ剤入りの粉末をかけると出血もおさまった。ヒギエアの手伝いを思い出しながら、ケガや火傷の部分を湊の世界の薬でカバーする。


「俺……なにしてるんだろ……」


 本当はラルフやツァルニ達に使おうと思って持ってきた物、応急処置(おうきゅうしょち)がおわり蛮族の横へ座って嘆息(たんそく)した。




 崖下の森から白い光りがフワフワと飛んでくる。弱々しい飛び方は崖のうえで会ったやつだ。妖精は仰向(あおむ)けに倒れている蛮族の上を旋回(せんかい)した。


 ちいさな光りが(かぶと)へとまり、興味(きょうみ)をもった湊は顔を(かく)す仮面へ手を伸ばした。ところが蛮族が動きだし手首をつかまれた。頭の中がまっ白になって動けなくなった時、兜へとまっていた妖精が転がりおちた。わずかに声をあげた湊がそれを受けとめたら蛮族の目もそれを追う。




 しばらく湊を見ていた蛮族は腕をはなし、かぶっていた兜と仮面を脱いだ。中から現れたのは神話に出てきそうなプラチナブロンドに氷青(ひょうせい)の目を持った青年だった。


貴様(きさま)はたしか竜の背へ乗っていたな? まさかスヴァローグの火を2機とも落とされるとは……1つめも貴様のしわざか? 」


 大型兵器の横にいた黒い毛皮の男だった。アイスブルーの目はあの時に合わせた瞳だ。


「それの存在を知っているのか? 敵の俺を治療(ちりょう)したのはなぜだ? 」


 男は妖精を指さす。粗野(そや)な毛皮の鎧からは想像できないほど、理知的(りちてき)な話し方で質問された。まともに会話すらできないだろうと思っていた湊は唖然(あぜん)として言葉を失う。

矢継(やつぎ)ぎばやに質問されて当惑(とうわく)する。たしかに葛藤(かっとう)はあった。ラルフの国へ侵攻し、ヴァトレーネを焼きはらった国の人間、(だま)りこんだ湊は手のひらへ転がる光りを見つめる。


「後悔したくないんです。あなた方からすれば甘くて理解できないかもしれない……でもこんな血みどろなやり方じゃなくて別の方法を探したい」


「……戦場ではまっさきに命をおとすタイプの人間だな」


 筋肉におおわれた左腕がのびて湊の首をつかむ。神秘的(しんぴてき)だが威圧感(いあつかん)のある青い目が(のぞ)きこんだ。怖かったけれど湊も目をそらさずに見かえした。


 髪と同じ色のまつ毛をふせた男はひっそりと笑った。


「そういえば昔、貴様のようなやつがひとりいた」


 湊を解放した男は兜を装備して立ちあがり、地面へ敷いていた水浸(みずびた)しの毛皮を(しぼ)って羽織(はお)る。




 森のしげみがゆれてべつの蛮族があらわれた。


「グスタフ様、よくぞご無事で! 追手がまもなくやってきます。森へ(のが)れましょう」


 おなじ毛皮の鎧をまとう蛮族の配下(はいか)が近づく。側まで近づいてきた配下は後ろ手に隠しもっていた短剣を突き出した。とつぜんのできごと、手首を(はじ)いて短剣を奪いとったグスタフは配下の首を()っ切った。


 首をおさえ声のでない断末魔(だんまつま)をあげた配下は川原へ()()した。配下の血で川辺が赤くそまる。


「……っ!? 」


「俺が帰らなければ都合(つごう)がいい……兄の差し(がね)だろう。だがこんな所で死ぬわけにはいかぬ、俺の大切な者を奪った父王を殺すまでは」


 湊が口をおさえて見ていたら、奪った短剣をベルトへ差した男は歩きだした。川原をのぼり森の入り口まで歩いた背中がふり返る。


「俺は冬の国、第2皇子ヴラド・グスタフ。さらばだ…………いや生きていたら、今度は王として(あい)まみえよう」


 ヴラド・グスタフは暗い森へ姿を消した。


 湊の手に留まっていた小さな妖精も飛びたち、目の前で3度ほど(はず)んでからグスタフの後を追って飛んだ。助けた選択は正しかったのだろうか、もしかしたら将来を(おびや)かす者を生かしてしまったのかもしれないと、出ない答えに悩みながら湊は森の奥を見つめる。






「ミナト――ッ! 」


 馬の(ひづめ)が駆けシヴィルがあらわれた。川原で倒れてる蛮族に悲鳴をあげたシヴィルは、湊にケガがないか体中を()んで確かめた。緊張が切れて座りこんだ湊はくすぐったさもあって笑い声をあげる。


「ミナトォォォ!!! 」


 馬から降りたラルフがシヴィルをポイと投げすて湊へ抱きついた。血で生臭いし鎧は硬いし痛い、視線をあげると崖のうえで()えていた狼は子供みたいにボロボロと涙をながしていた。


 おおんおおんと、泣き声をあげるラルフの顔をそっと両手ではさむ。


「ただいま」


 涙にぬれた(ほお)が合わさり抱きあう、おおきな腕が背中を包んで離れない。


「ねえラルフ、帰ろうよヴァトレーネへ」


 ノドを()まらせ、言葉もだせないラルフは顔をくっ付けたまま何度もうなずいた。




 帰りはシヴィルの馬ではなかった。ツァルニにも再会の喜びをつたえたいのに湊は(かか)えこまれるようにラルフの馬へ乗せられた。乾いてごわついたヘーゼルナッツ色の髪が湊の頬へふれる。


 蛮族は北城塞都市(きたじょうさいとし)の周辺から完全に撤退していた。くずれた壁の破片を帝国兵が片づけ、あらたな壁を(きず)くため整地(せいち)してる。




 建物が跡形(あとかた)もなく吹きとんだ広場では、背中をまるめたバラウルが南のテントを眺めていた。竜人たちもテントへ入ったシャマラの帰りを待ってる。


「バラウルッ」


 ラルフの腕をすりぬけ湊はバラウルのところへ走った。地面へ(あご)をつけていたバラウルは顔を寄せる。


 湊はグスタフの傷を手当てして逃がしてしまった事をこっそりと打ちあけた。心配を口にするとバラウルは鼻で笑う。かるく吹かれた鼻息は周囲の石ころを飛ばし、炎がもれて見張りの帝国兵が()びあがる。


「ワシがジーラとちょっと遊んでる間にその男は寿命(じゅみょう)を終えるわい。心配するヒマがあったら、ちいさきものは一生懸命(いっしょうけんめい)に生きておれ」


 少なくともバラウルの目が黒いうちは亡き王国兵器の再起はないと語った。あれだけのエネルギー装置を発見して破壊にしか使わなかった冬の国へ、バラウルは残念そうに息ついた。


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