再会そして
帝国兵は大盾をならべ、槍をかまえて距離をちぢめる。密集した陣形は横へひろがりドラゴンの死角へまわりこむ。
「まって! 争いに来たんじゃありませんっ!! 」
いそいで降りた湊はバラウルの前でおおきく腕をひろげた。帝国の言葉を話せる人間が降りてきて兵たちはどよめく。
「武器をおろせ」
後方より太々しい声が号令をかけた。兵は槍をおろし、大隊は左右へ割れ帝国の紋章をかかげた隊が近づいてくる。緋色のマントをはおり、黒鉄に金の装飾鎧をつけた男があらわれた。ゆったりした動作で馬にのり、ドラゴンにも臆することなく真正面へ立つ。
黄金色の瞳は湊へ向けられたあとバラウルを見あげた。
「君は、ますます私を楽しませてくれるようだな」
アレクサンドロスが片手で合図すると前面の帝国兵は大盾を地面へおろした。間隔をあけていた大隊は整列し、後方の兵たちは瓦礫へ埋もれた者の救助をおこなう。
こちらを見る者の目はさまざまだ。ドラゴンに仰天してふるえる兵士もいたけど、司令官であるアレクの落ちつきぶりに大隊は平静さを保っていた。
「軍神の血を引くものよ、これ以上は泥沼と化す。止めよ追走はまかりならぬ」
正面へ首をおろしたバラウルは地をゆらす声で話した。ドラゴンの言葉を理解した様子のアレクは不愉快そうに顔をしかめる。
「ディオクレスの言っていたダキアの守護竜がのこのこ出てきたか、過去の遺物は遺物らしく寝ていればいいものを……」
東門で角笛が鳴り、帝国兵とともにシャマラ率いる竜人たちが現れた。白銀の鎧をまとい青いマントをなびかせる竜人の軍は、船の援軍が間にあわなかった東の前線を打ちやぶった。
あらたに強い勢力があらわれロマス帝国と蛮族の攻防は止まった。大型兵器を破壊されて敵の将軍もいなくなり、統制の取れなくなった蛮族たちは散り散りに敗走していく。
シャマラはアレクサンドロスと会話を交わし、帝国との交渉をはじめた。大型兵器の脅威はなくなり、両者は南へ建てられたテントへ入った。大隊は奪還した都市の守りを固めるため、崩壊した外壁へ派遣される。後方の部隊ががれきの撤去をはじめた。
大欠伸をしたバラウルはそれをながめている。
湊は広場を見まわしたが、ラルフは見つからない。
「ミナトッ!! 」
ドラゴンを見張る隊とは別の方向から、兜を深くかぶった兵士が走ってきた。息をきらせ両肩へ手をおいたシヴィルは湊を抱きしめる。
「おまえ本当に帰ってきたんだなぁ! 」
「シヴィル! ラルフは!? 」
ぎゅうぎゅう抱きしめてくるシヴィルを押しもどし、ラルフの居場所をたずねた。シヴィルを追ってきた眼帯のツァルニが代わりに答える。ラルフは先陣の隊にいて、塔を脱出したグスタフ将軍を追走して北の森へむかった。ドラゴンが降りてくる前だったので帝国が停戦した状況を知らない。
ツァルニはこれから隊を率い、ラルフを捜索するという。
シヴィルもあわてて馬のところへ走っていった。捜索に加わりたい湊はここを離れていいものかと悩んだけどバラウルのしっぽが背中を押した。笑みをうかべたシヴィルの手をつかみ、馬へ乗ってツァルニのあとを追いかける。
馬の力強い足どりは崩壊した壁をこえ、平原の土を巻きあげ北の森へ疾走する。
「まさかドラゴンまで連れてきちゃうとはねぇ~」
2人乗りでしがみついた背中からシヴィルの声が聞こえた。キキと森へはいった夜に湊はこの世界から消えた。シヴィルたちはそのまま前線へ、数日後にラルフが前線の指揮官としてもどってきたけど様子がおかしかったという。
戦場にいる彼は以前のやさしさがなくなり、兄のアレクサンドロスのように無慈悲で合理的になったとシヴィルが嘆く。
「あれじゃ、まるで戦いの権化さ」
「シヴィル! 無駄口をたたくな!! 」
「ひぇ~、じごくみみ~」
先行するツァルニに叱咤されて、シヴィルは手綱を操作しながら肩をすくめた。森の入り口で先兵の馬を発見し、兵長の指示で馬をおりる。
「ちぃっ、ヤツらまだ残ってる!? ミナトはそこに隠れてて! 」
ひそんでいた蛮族が飛びかかりツァルニ隊も交戦した。先に戦っていた帝国兵も入りみだれ、森は混乱を来した。
草木のしげみへ隠れ、心拍は速く脈うつ。緊張しながらシヴィルたちを見守る湊の目のまえを丸い光りが通りすぎる。弱々しい光の飛ぶさきは崖の方角、湊は妖精を追いかけ茂みのなかをすすんだ。はげしい剣戟の音が近づくにつれ、たおれた蛮族の数は増えていく。すでに息絶えた人が物のように地面へ転がってる。
崖のうえで吼える2人の男が剣を交えていた。まわりには帝国兵と蛮族の死体がたくさん重なり、男たちは踏みつけるのも厭わず剣をふるい火花がちる。
緋色のマントと鎧は血で赤黒くそまり、黄金色の瞳は野の獣のごとく凶暴な光を放っていた。体躯の大きい蛮族の剣をかわしたラルフは兜で頭突きを喰らわせる。よろめいた蛮族へ剣を走らせ猛々しく吼えた。
『――――おねがい、ころさないで』
弱々しい光は戦う男たちのあいだへ飛んでいった。
ラルフが一線を越え、戻ってこない気がした湊も地面を蹴った。誰のかも判らない血にまみれたラルフの腰元へしがみつく、力まかせに振りまわされ飛ばされて尻もちをついた。
「ミナト!!? 」
気づいたラルフは動揺の声をだした。隙をのがさず蛮族が足元の剣をにぎった。湊は自分が取り返しのつかない事をしたのではないかと思い、2人の男のあいだへ飛びこむ。視界の端にさっきの妖精もいて、蛮族の仮面からのぞく青い目が見開かれた。
ラルフがすかさず動きをとめた蛮族の顔面を蹴りとばした。バランスをくずした黒い毛皮の男はうしろへかたむき崖から落ちる。
「死ねない……俺はこんな所でまだ死ぬわけにはいかない……」
「え……? 」
スローモーションで目に映る男の口がつぶやく、あがいて伸ばされた手は湊の腕をつかみ、体が引っぱられて共に落下した。
「ミナトォ――ッ!!? 」
崖のうえから手を伸ばし叫ぶラルフの姿が見えた。




