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精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる  作者: かざみん
第二章 消えた神々と黄昏の都

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精霊の港


 こんどは逃がさないと意気ごみ追いかける。


 フードをかぶったキツネは止まってふり返り、おずおずと引き返してきた。外套(がいとう)の下は少女のようなフレアスカートをはき2本足で立っている。


「わたしキキ。あの時はこわくて逃げちゃったの、ごめんね」


 キツネ顔の少女はフードをかぶった頭をさげた。湊がこの世界へ来てしまい、キキは大層(たいそう)おどろいたそうだ。人間を警戒しているのか距離をとりつつ、もとの世界へ帰る方法を話した。


「帰れるの!? 」


 キキに案内されて暗い森をすすむ、木々が(しげ)り夕空も見えなくなって道は闇につつまれる。歩きながら話す少女の手にはマグカップくらいのランプが(とも)されている。キキは森にすむ精霊(せいれい)、特別な道をとおって世界を()()していた。


「たくさんあつまって道ができるの、わたしたちは精霊の(みなと)って呼ぶの」


 キキがランプをかかげた先に(ふる)びた建物があった。最初のくずれた神殿によく()てる。柱や壁は風化して草木が栄華(えいが)をほこり、とても古い時代のものだとわかる。


「人間は争いが終わるように神様に(いの)るの、でも自分たちはやめないの。あんまり悲しいと眠ってる神様がめざめて夢は終わってしまう。この世界も終わっちゃう。あなた、もう行きなさい」


「は? 俺はまだっ――!? 」


 とつぜん後ろから体当(たいあ)たりされて建物のなかへ転がった。床はなく湊はまっ逆さまに落下する。きりもみ状態で体はふり回され、おちる速度で気を失いそうになった。




――――うふふ、あはは。


 白い光りがぼんやりと視界の(はし)へただよい、子供のような笑い声が聞こえてくる。ミナトはたくさんの光りに押し流されていく。


『あれが使われた! おこせおこせ、ドラゴンどもを起こせ! あれを破壊させろっ』


 まあこわい、こわいこわい。


 目の端にただよう光りが口々に(しゃべ)っている。


『大地へ残るドラゴンたちをすべて呼び起こせば、世界はあとかたもなく(ほろ)びます』

『いずれ消えゆくのだ! すべて消してしまえ!! 』


 くらやみのなかで誰かが無数に()え、しずかに(さと)す声も無数の波となって反響(はんきょう)した。ザワザワ、ザワザワ、ミナトを()いて会話している。


 やめてやめて、消さないで、あの人のいた世界。


『ほらその子が悲しんで――――まかせましょう』


 ねえねえ、なまえもらったの?

 いいなぁ、たのしい?

 そっちはどんなところ? いってみたいな。


 ふふふ、ははは――――。






 浮いていた体はふたたび高速で落下した。悲鳴をあげる湊の顔面はアスファルトの路面へくっつく、いそいで身を起こせば見おぼえのある場所だった。道路わきで電球の切れかけた外灯が(またた)いてる。


「!? うそ……」


 コンクリートのビルへともる外灯、アスファルトの地面、車のエンジン音が遠く聞こえる。キツネに化かされ、すべて泡沫の夢――――と思いかけたらチュニックのすそが触れた。湊は鳥居(とりい)をくぐった。ちいさい(やしろ)静寂(せいじゃく)としてキツネどころか獣の気配すらない。


 幻覚を見ているようにおぼろげな足どりで見慣れた道を歩く。


「みろよ、コスプレだ」

「ホントだ~、今日なんかイベントあったっけぇ? 」


 すれ違ったカップルが湊の姿を見て会話してる。どうやって歩いたかも覚えてないけどマンションへ着いた。背負ったカバンの内ポケットから、忘れかけていた小銭入(こぜにい)れとカギが出てきた。部屋の電気を()け、玄関へカバンをおとしたまま放心して部屋をながめた。部屋は今朝使った痕跡(こんせき)をのこし、時計の針は午後9時をまわっていた。


 ぼんやりしていた湊はノロノロと動きだす。泥だらけの靴を脱ぎ、とりあえずシャワーを浴びる。


 蛇口(じゃぐち)をひねるだけでお湯が出てきた。物干しへかけたタオルを取って髪を()けば、毛が伸びていつもより乾きがおそい。洗濯機のスイッチを押し、タンスから着替えをとりだす。毎日のルーティンで無意識(むいしき)に体がうごく。


 乱雑だった布団をたたみベッドへ腰をおろした。洗濯機の終了音が鳴って(われ)にかえり、いそいで洗濯物を干した。ハンガーへチュニックをかけ、きっちりシワをのばす。


「いやいや、なにやってんの俺……」


 ハンガーに掛かったチュニックを見ても状況は変わらない。はだしで踏むフローリングの感触、冷えた匂いのする(ひと)り暮らしの部屋だ。


 深呼吸(しんこきゅう)した湊はカバンを(あさ)ってカギの入ったケースとカードを取りだした。そのまま上着をはおってマンションを飛びだす。


 10分ぐらい歩いたものの景色に変化はなかった。駅前の繁華街(はんかがい)は昼間みたいに明るく、大勢の人々が歩き車がせわしなく通る。引きかえした湊は近くのコンビニへ寄って弁当とスポーツ新聞を購入した。レジで目についた物もいっしょに注文して袋へ放りこむ。


 コンビニ横の喫煙(きつえん)スペースで買ったタバコへ火をつけた。気分を落ちつけるために吸ったけど、やめていたタバコは合わず()せてすぐに火を消した。箱ごとゴミ箱へ捨てて喫煙所を後にする。


 家へ帰って温めた弁当をテーブルへおき、多彩な味つけの弁当を(はし)でつつく。スマートフォンを触ろうとしたら電源が切れていて急いで充電する。プラグを差しこめば画面が表示され後輩の着信が入った。


 歯みがきして、電気を消して、ベッドへ横になる。




 ぴっぴっぴっ。


 目覚ましが枕元(まくらもと)で鳴り、湊はガバっと身を起こした。いそいで朝の支度(したく)をして満員電車へとび乗る。降りた駅のコンビニでコーヒーと栄養ゼリーを買って出社した。


 普段どおりの1日がはじまる。


秋津(あきつ)さぁん、昨日どうでした? 」


 機械的に仕事をすませたら、退社時間になり後輩(こうはい)が話しかけてきた。


「昨日? 」

「ラーメン屋のオヤジの話! 帰りに寄るって言ってたじゃないですか~」


 湊にとってはずいぶん前の話だが、後輩にとってはつい昨日の話だった。曖昧(あいまい)に返事すると明日は休日で飲みに誘われる。湊は頭の整理がおいつかず誘いを断った。


「秋津さん、なんか今日おかしいっすよ。ゆうれい、本当は見たんじゃないんですかぁ? 」


 茶化(ちゃか)す後輩の背中を叩いた湊は家路へ就いた。駅前のハーモニカは聞いたこともない異国の音楽を(かな)でていた。ビジネスカバンを()げ、まっすぐ路地を目指(めざ)す。




 鳥居に黄色いテープが張られ、奥の社は燃えて無くなっていた。あぜんとしていたら近所の人らしき壮年(そうねん)の男性が通りかかる。


「――あのっ、すいません」


 湊は男性をひきとめ神社のことをたずねた。


「ああ……昼前に火が出てね、消防車や警察が来て大変だったよ。放火かもしれないって、怖いねぇ」


 参拝者(さんぱいしゃ)だと思われて、気を落とさないようにと男性に肩を叩かれた。まるで迷子になった気分になり、住宅地をさまよい夜の(さび)れた公園へおちついた。ちょうど小さな社の裏側に位置し、車が5、6台停まれる大きさの公園だった。


「なにが起こったんだ……? ヴァトレーネは? ラルフ……」


 1日過ごした湊は現実を目の当たりにした。昨日――、昨日と今日のはざまにあった出来事はなんだったのか、ため息を吐き公園の長イスへ腰をおろした。


「うぎゃあ! 俺のうえに座んな、コンチクチョー!! 」


「へぁっ!? 」


 人影はなかったはず、立ちあがった湊は長イスを見た。さっきまで何もなかった場所に(ひら)べったい白い毛玉がいた。毛玉は(たい)らになってしまった体を戻すようにブルブル震え、頭の葉っぱをひょこりと立てた。




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