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精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる  作者: かざみん
第二章 消えた神々と黄昏の都

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スヴァローグの火


 息つく間もなく作戦会議がはじまった。地図がひろげられ隊長クラスの兵士たちが大きなテーブルをかこむ。場違(ばちが)いとためらった(みなと)もラルフに引っぱられて参加した。


 北城塞都市(きたじょうさいとし)陥落(かんらく)の様子が伝えられる。蛮族(ばんぞく)を指揮する将軍はヴラド・グスタフ、冬の国の第2皇子だ。いままでの蛮族とは思えないたくみな戦術で2つの大隊は壊滅(かいめつ)、くわえて強力な兵器が壁をやぶり都市へ攻めこまれた。民を助けるために陽動で残った司令官の隊も全滅しただろうとアッピウスの口から語られた。


 北城塞都市の見張(みは)り兵が敵の兵器について説明する。


「伝説のドラゴンみたいに火を吹いたんです! 見たことない大型の弩砲(どほう)の先からピカーッて! そのあと地面がゆれて壁が崩落(ほうらく)したんですよ!! 」


 冬の国を中心にまとまった蛮族は大群でおしよせ、見たこともない大型兵器が難攻不落(なんこうふらく)の壁を破壊した。帝国が気にも留めていなかった小さな国の兵器に隊長たちはどよめき、ラルフも(まゆ)をひそめる。


飛距離(ひきょり)と台数は? 」


 声を(おさ)えたラルフが(たず)ねた。


 壁を破壊した兵器は2台、そうとう重い代物(しろもの)みたいで50人がかりで車輪を引いている。目撃した兵士は壁の間隔(かんかく)に割りあてだいたいの位置を目算した。飛距離はけっこう長い、占領された都市へ設置されてる可能性もたかく奪還(だっかん)はむずかしい。(しか)しあちらの都市は平野、こちらは山で蛮族も兵器をそうそう自由に移動できないだろう。


「北の蛮族がなぜそんなものを……? 仮にそれが来るならヴァトレーネへ入る前に(つぶ)さなければならん」


 テーブルを囲んだ隊長たちは地図を見つめた。ラルフは帝国がわの兵器に見立てて置いた石を移動させる。北門にも弩砲は設置されているが、北の街道を(ねら)える南の高台へ大型カタパルトを配備(はいび)することになった。




 作戦室のドアを兵士があわただしく開けた。


「ラルフ様、シヴィルの隊が帰ってきました。悪い予感が当たったようです。敵本隊と1台こちらへ向かっています」


 報告を受けたツァルニが伝えるとラルフの目がつりあがった。蛮族は北城塞都市を破壊した兵器をこちらへ運んでいる。シヴィルたちが落石で道をふさいだが、敵本隊の人数からたいした時間(かせ)ぎにはならないと報告された。


 ラルフは弩砲とカタパルトの移動を(いそ)がせ、配備(はいび)された兵以外はすべて南側へ(うつ)るよう(めい)じた。一般住民と避難民(ひなんみん)はできるだけ港町へ退避させる計画が立てられた。


「大変です! 西の見張り塔が襲撃(しゅうげき)されました! 」


 飛びこんできた兵士が大声で(しら)せる。


奇襲(きしゅう)を放ったか!? 敵が目つぶししている内に本隊がこちらへ到着する……我々に時間を与えないつもりだな」


 敵のうごきがはやい、塔が落とされたら敵の大型兵器の位置を見失う。ラルフは残った見張り塔へ援護(えんご)を向かわせる指示を出した。


「俺を山岳隊(さんがくたい)に配備してください。敵の奇襲を山で(むか)()ちます」


 1歩進んだツァルニが申しでた。作戦室を出ていくツァルニのケガを心配していたら、廊下で待機していたシヴィルが笑った。


「僕も行ってくる! 」


「シヴィル! でも……君は戻ってきたばかりだろ? 大丈夫? 」


「人手は必要だから無理やり編成(へんせい)に加わっちゃうもんね~。紙と文官の相手ばっかで運動不足(うんどうぶそく)のツァルニに任せておけないよ~」


 ラルフと対照的な目がクルクルとまわり、三日月(みかづき)(がた)の口になった。ツァルニを追って駆けだしたシヴィルはまたたく間に見えなくなり、作戦会議も終わって兵士はつぎつぎに持ち場へもどる。


 作戦室から歩いてきたラルフは湊の顔を両手ではさみ、黄金色の瞳が見据(みす)える。


「ミナト、この町は戦場になる。いますぐ港町へ行ってほしい」


 湊は無言(むごん)で抵抗した。大きな手のひらに力がはいって真剣さが伝わる。しばらく無言を(つらぬ)いたけど、彼が手を放さないのでまぶたを伏せた。


「……避難してる人を誘導しおわったら、最後の馬車に乗る」


 湊の最後の抵抗だった。口を真一文字(まいちもんじ)に結んだ彼と(にら)みあうように視線をぶつける。観念(かんねん)して深く息を吐いたラルフは下をむいた。


「わかった。必ず馬車には乗ってくれ。約束だ」

「うん……」


 顔を上げたラルフと見つめあい、唇へフニと柔らかいものが触れる。ちょっと泥の味がして、おでこにもキスされた。彼は泥だらけのマントをひるがえし戦場へおもむいた。




 湊も自分の戦場へもどる。混乱した民衆は(われ)さきに馬車へ乗ろうとしていた。普通の人だろうが兵士だろうが関係ない、ケガ人や動けない者を優先して乗せる。人々を踏みつけた男を止めようとしてふり払われ、地面へ倒れそうになり背中を支えられた。


「あっ……りがとうございます」


「アッピウスです。会議室にいた方ですよね。負傷した仲間を助けていただき感謝します」


 北城塞都市から撤退(てったい)した兵の指揮官だった。マルクス(ひき)いる港町の兵士が防衛に動いているため、疲弊(ひへい)したアッピウスの部隊は避難する人々を運ぶ手助けをしていた。泥だらけで気づかなかったけどずいぶん若い、湊の世界だったら成人式も迎えていないだろう。


 アッピウスは部下を呼び、人を踏みつけ乗ろうとした男をつまみ出し歩行者の列へ連れていく。


「あなたも避難の準備を」


 湊も避難をするよう伝えられる。敵の大型兵器を憂慮(ゆうりょ)し、南の一帯(いったい)にも避難指示が発令された。ラルフの邸宅は広場のちかく、軍所属(ぐんしょぞく)でもない一般人の湊も対象だ。


 アッピウスに連れられラルフの邸宅へ向かった。邸宅は北城塞都市から撤退した上官たちの休憩所になっていた。民を避難させた後、司令官の息子だったアッピウスは彼らとここへとどまり戦いに(のぞ)む。




「ミラッ、これで最後!? 」

「はいっ! 」


 使用人たちを送りだし必要な物を荷車へ()む。家具や調度品はそのままだけど、ラルフが大切にしている物は()せた。湊も一張羅(いっちょうら)のスーツを入れたカバンを背負(せお)う。スレブニーを荷車へつなぎミラを御者(ぎょしゃ)席へ座らせた。


 湊が乗りこもうとした時、兵舎の裏山にある見張り塔の角笛(つのぶえ)がひびいた。角笛の音が途切(とぎ)れて見上げたら燃えていた。


「塔が!? このスピード……まちがいない、奇襲隊にグスタフがいるぞ! 皆戦いの準備をしろ!! 」


 アッピウスが声を張りあげ、手の()いた北城塞都市の兵士が整列する。


「そんな……シヴィルとツァルニは……? 」


 湊は燃える塔をながめてつぶやいた。


 北門の(かね)が叩かれた瞬間(しゅんかん)、大型カタパルトと弩砲が稼働(かどう)する。イヤな振動(しんどう)が空気をふるわせた。爆発がおこり門を破壊した火はまっすぐ伸びて、直線状にあった建物を瓦解(がかい)させた。強大な兵器の威力(いりょく)で地面はゆれ、破壊された建物の石片が降ってくる。ミラがなにか叫んでいるけど耳鳴りできこえない。光の筋をのこし発射音が数秒後に(とどろ)いた。


 ありえない威力に呆然(ぼうぜん)としていたら、体を持ちあげられる。


「ミナト乗れっ、はやく行くんだ!! アッピウス、2発目を撃たれるまえにあれを(つぶ)す。南台へ急ぐぞ!! 」


「はいっ! しかしあれは鉄の矢もカタパルトの投石(とうせき)も効きません!! 」


 ()みくちゃになりながらラルフのマントをつかんだ。湊の脳みそはフル回転して、生き()びるための知識を引き出す。敵の兵器を操縦(そうじゅう)している者はどこに、巨大なエネルギーを放出する機器なら高温に弱いかもしれない、あるいは運ぶ者達を近寄(ちかよ)れないようにすれば動きは止まる――。


焼夷弾(しょういだん)は!? ずっと燃えるやつ、()きでる油と松脂(まつやに)! 石灰と火山の黄色いの混ぜてベッタリしたやつに火をつけて!! 」


 湊を馬車へ乗せようとしていたラルフの動きがとまった。こちらへ視線を合わせてうなずき、倉庫の可燃物(かねんぶつ)の入ったツボとタルを持ってくるよう兵へ指示した。


 ミラが手綱をにぎり馬が発進する。片手をあげたラルフの背中が小さくなっていった。




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